表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/35

第30話 リンネちゃんは夏休みバイトをしたい。

 夏休み直前、リンネちゃんがバイトをしたいと言い出した。


 理由を聞くと「内緒♡」とのことだった。

 高校生が夏バイトをする理由のNo. 1、それはズバリ「出会い」だ(結人調べ)。


 もしかすると、ホントの彼氏を作ろうとしてるのかも知れない。リンネちゃんは歩いてるだけで人気者なのに、分母を増やすことないじゃないか。


 なんだろう。


 こう胸の中がぐちゃぐちゃになって、でもハラハラするような感じ。おれ、もしかして、妬いているのかな。


 今は教室なのだが、リンネちゃんはスマホで何か調べている。


 「うーん。……あ、これすごいっ」


 「ん?」


 リンネちゃんが画面を見せてくれた。


 「お客様とお風呂に入るだけの楽なお仕事です。困った人も助けられて、がっつり儲けて社会貢献♡ 時給1万円。タクシー通勤も可(交通費時給)。週1、1時間からでもOK♡♡ 」


 「え……」


 まさか、そこらの闇バイトより危なそうなこれに目をつけたのか?


 リンネちゃんは自慢げに言った。


 「これ良くない? 空いた時間に自由に働けるみたい。楽しそうだし」


 いや、どう考えても良くないよね。


 「リンネちゃん。風俗って言葉は知ってる?」


 リンネちゃんは頷いた。


 「社会で定着した生活習慣やしきたり……かなっ?」


 まじかよ。まとも解答きた。

 象印の人と同一人物とは思えない。


 できれば、この実力をテストで発揮して欲しかった。


 なんだか、リンネちゃんの顔がキラキラしている。どうやら褒められたいらしい。


 「うん。よくできました。えらいえらい……じゃないよっ!!」


 ホントのことを教えるか。

 俺は耳打ちした。


 「お客さんってのは、大体はオジサンで……ごにょ……お風呂ってのは……アレを……」


 リンネちゃんは真っ赤になった。


 「ゆ、ゆ、ゆいとくんの変態っ。だらっ!!」


 これ嬉々として見せたのは貴女なんですけどね。それにしてもリンネちゃんに1人でやらせるのは心配すぎる。


 結局、俺も一緒にやることにした。


 商店街の電気屋さんで、ちょうど夏休み限定で2人募集していて、一緒に採用してもらうことが出来た。時給は普通だけれど、ここなら危ないことにはならないだろう。


 「リンネちゃん。いいバイトが見つかって良かったね。ちょっと店長さんはぶっきらぼうだけれど……」


 リンネちゃんは首を傾げた。


 「そうかな? 店長さんもすごく良い人だよ。こんど、お仕事終わった後に、閉店の後なのにわざわざウチのために残ってくれて、お仕事教えてくれるって」


 この店はノー残業推奨だ。

 たとえ店長であっても、シャッターを閉めて30分後には退社する。


 誰もいない店内で、2人きりの指導。


 あのクソじじいめっ!!


 いや、でも。

 それが普通なのか?


 女子高生ってだけで羨望なのに、さらに銀髪碧眼の美形だ。スタイルもいいし、肌も真っ白。きっと一生お目にかかれないような上物だ。


 多少強引な手を使ってでも、へたしたら犯罪スレスレの手を使ってでも落としにくる可能性はある。


 ふっ。

 俺の心配は尽きないぜ。


 なので、シフト担当の先輩に頼んで、可能な限りリンネちゃんと一緒にバイトに入れるようにしてもらった。


 ちなみに、リンネちゃんの売上は、半端なかった。先輩どころか、ベテラン社員さんより売っていた。


 世間は脱ルッキズムの風潮だが、残念ながら、まだまだこの世は「可愛いは正義」らしい。そうは思いたくはないが、リンネちゃんの売り上げをみると、そんな現実を突きつけられてしまう。


 バイトなので歩合はないのだが、成績優秀者には金一封が渡される。もちろん、受け取ったのはリンネちゃんだ。


 すごくニコニコしてて、嬉しそうだった。


 そこで、俺は疑問が湧いた。

 急にバイトを始めたりして、リンネちゃん、もしかしたら、お金に困ってるのかな?


 だとしたら、心配だ。



 8月の初旬。

 バイトが休みのある週末に、リンネちゃんとデートした。公園に行って、お目当ての観覧車に2人で乗った。


 ちょうど空がオレンジ色になって、リンネちゃんの銀髪がキラキラとしている。すると、リンネちゃんがこっちを見て笑顔になった。


 「結人くん。お誕生日おめでとう♡」


 リンネちゃんはゴソゴソとカバンの中に手を入れると、小箱を出した。


 「これ、誕生日のプレゼント……」


 「え?」


 今日は8月7日。

 俺の誕生日だ。


 びっくりしすぎて言葉が出なかった。

 本当は、お礼を言わないといけないのに。


 この気持ちに当てはまる言葉が見つからなくて、言葉が出なかった。


 「気に入ってくれると良いんだけど。結人くん、自己紹介の時にいつもプレゼントもらえないって話してたから。ウチ、絶対にその日にあげようって決めてたんよ」


 あぁ。入学早々に滑った鉄板ネタのことか。

 誕生日……覚えていてくれたのか。


 ちょっと、泣きそうな程、嬉しかった。


 「箱、あけていい?」


 「うん」


 開けるとネックレスだった。

 ヘッドにはハートっぽくないハートがついている。


 俺の誕生日をお祝いしてくれたのは、親でも妹でも、憧れの子でもなく。


 いつも一緒にいてくれる可愛い偽カノだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ