第26話 リンネちゃんは気づきたくない。
俺は屋上に戻って事情を説明した。
約束通りに偽カレは続けること、そして、星宮さんに事情を説明したことを話した。
リンネちゃんは、ただ頷いて聞いていた。
「それでさ、たまに星宮さんと会ったりするかも知れないんだけど、いい?」
一瞬、リンネちゃんの表情が曇ったような気がした。
「……分かった。わたしたちは偽物だし、仕方ないよね」
リンネちゃんは、そう答えた。
偽物か。
分かってはいたけれど、何か少しショックだった。
次の日の朝も、リンネちゃんは迎えにきた。
普段と変わらない様子でニコニコしている。
いつものように手も繋いできた。
だけれど、前のように指を絡ませてくることはなかった。
自分勝手なことだけれど、少し寂しかった。
次の週末、俺は星宮さんと出かけることになった。星宮さんと2人でデート。少し前から考えれば、夢のような話だ。
駅前の時計台の下で待ち合わせをしたのだが、俺は楽しみすぎて30分以上前についてしまった。
(この服、変じゃないかな……。でも、リンネちゃんが選んでくれたし、大丈夫か)
俺が落ち着かなくてウロウロしていると、星宮さんがきた。
「わたしも、楽しみすぎて早く来ちゃった」
「深月さん。じゃあ、行こうか」
今日は、街をブラブラしてランチを食べる予定だ。少し歩くと、星宮さんが足を止めた。
「あそこ入ってみたい」
指さしたのはブタカフェだった。
リンネちゃんと行った店だ。
「……他のところがいいな」
なぜか気がすすまなくて、他の店にした。
他の女性と行った店に星宮さんを連れて行くのがイヤなのか、リンネちゃんとの思い出の店に星宮さんを連れて行きたくないのかは、自分でも分からない。
服屋にいくと、星宮さんは色々と試着してくれた。さすが星宮さんだ。どの服もすごく似合っている。
なんていうか……本当に綺麗だ。
星宮さんは、俺が気に入った服を、そのまま買った。
「結人くん。次に会うときに、コレ着てくるからね。……下着も♡」
買い物の後は、星宮さんのオススメというレストランに連れていってもらった。ドライバーさんが来てくれて、車に乗せてもらって。すぐに着くと思ったら、思いの外、遠くてビックリしてしまった。
車を降りると、海が見えていた。
レストランはシーフードのお店だった。すごく豪華で、美味しい。店には大きな水槽があって、色鮮やかな熱帯魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
タラバガニのボイル、ローストビーフ、ウニのパスタ、クリームコロッケ。普段、ウチの食卓ではお目にかかれないような豪華な品々を眺めながら思った。
(リンネちゃんにも食べさせてあげたいな)
視線を戻すと、星宮さんは、カニの足をつまんで笑った。
「このお店……カニピラフが有名なんだよ。小さなときに両親ときて、幸せな思い出だから。結人くんも連れてきたかったの」
「ありがとう。最近は来ていないの?」
星宮さんは首を横に振った。
「最近は……全然。お父様の仕事が忙しくて、家族で過ごすことはないんだ」
星宮さんは、寂しそうな顔をした。
てっきり何も悩みのないお嬢様かと思っていたけれど、……誰にでも悩みはあるんだな。
俺、さっきからリンネちゃんのことばかり考えてる。今は星宮さんといるのだし、それは失礼だよな。
パンッ
俺は自分の頬を叩いた。
会計になって、財布を出そうとすると星宮さんに制止された。
「今日は、わたしが行きたいところに付き合ってもらったし、ここは、わたしが出すね。次のデートの時は、結人くんにお願いします」
……気を遣われてしまった。
その後は、車の中で話をしながら帰った。
星宮さんは、気取った感じがなくて、普通の女の子だった。
別れ際、星宮さんに手を握られた。
星宮さんは心細そうに言った。
「あの……、また会える?」
また次に会う約束をして別れた。
念願の星宮さんとのデートなのだ。
目が合うと胸がキュンってなるし、楽しくないハズがない。
でもなぜか。
自分が拳を握っていることに気づいた。
家の前について、リンネちゃんの家を見ると、電気が消えていた。
(……今日は居ないのかな?)
「結人くん」
俺が自分の家に入ろうとすると、声をかけられた。
振り向くと、小梅ばあちゃんだった。




