第25話 リンネちゃんは追いかけて欲しくない。
「結人くん。行って」
リンネちゃんに背中を押されるように、俺は星宮さんを追いかけた。階段を駆け下りるとと、星宮さんは、すぐ下の踊り場でうずくまっていた。
「星宮……深月さん。その、なんていうか」
俺を見上げた星宮さんは、泣いていた。
「ううん。2人は付き合ってるんだもん、スキンシップも当然だよね。あのね、ほんとはわたし……。好きなの」
「え?」
……俺の聞き間違いか?
星宮さんは続けた。
「君のこと、気になってるの。だから、わたし今、すごく動揺してる」
「でも、俺らそんなに話したこともないし」
「入学式の前の日、子猫を拾った時のこと、覚えてる? あの日ね。実はわたし、少し前からあの場所に居たんだ」
「え……」
全然、知らなかった。
あの日、見られていたのは俺の方だったのか。
「あの時、みんな立ち止まることすらなかったのに、1人だけ子猫の前で、ずーっと立ち止まってる男の子がいたの。すごく辛そうな顔をしていて。きっと、どうしても拾ってあげられない理由があるんだろうなって」
「それって……」
「うん。結人くんだった。そういうのいいなぁって。だから、わたし、そんな子を手助けしたいなって……。だから、わたし、そんな優しい子とかじゃないんだよ」
「あの時の子猫は?」
「サラサラっていう名前で、ウチで元気にしてます」
「じゃあ、やっぱり、深月さんは優しい人だよ」
リンネちゃん。
泣いてる子に嘘つけないよ。
この子は、本音で話してくれている。
……ごめん、星宮さんだけは本当のこと言うね。
俺は口止めした上で、リンネちゃんとのことを話した。
「……そう言う訳で、付き合ってるフリをすることになったんだ」
「そうなんだ。どうりで……付き合ってるにしては少し変だなって思ったんだ」
星宮さんは涙を拭いながら、そう言った。そして、言葉を続けた、
「じゃあ、わたし、諦める必要はないのかな」
「……うん。でも、これからどうなるか分からないし」
星宮さんは、自問自答するように頷いた。
「分かった。わたしの結人くんへの気持ちは、きっと変わらない。だから、色々なことが落ちついて、恋人のフリが終わったら、……結人くんから告白してくれないかな。わたし、断らないから」
「……分かった」
全部が終わったら、星宮さんと付き合う。これは、旅行の時に、リンネちゃんが話していた結論だ。
「でもね、たまに、……たまにでいいから、2人だけで会いたい」
「それは、リンネちゃんに聞いてみないと約束はできないけれど。それに、偽恋人もいつまで続くか分からないんだ」
「……うん。分かってる」
そういうと、星宮さんは階段を下りていった。
これで良かったのかな。
俺は自分の胸の辺りを押さえた。
俺は星宮さんが好きで、リンネちゃんも背中を押してくれている。でも、なにか胸の中がモヤモヤする。なんでだろう。




