第24話 リンネちゃんはつけられたい。
その日の昼休み。
俺はいつもの屋上にいた。
リンネちゃんは、シートを敷いて俺の横に座っている。
「これ、約束のお弁当」
リンネちゃんは、弁当箱をあけると「わぁ」と言った。いつもながらに、いい反応だ。
「ふふっ。硬派な弁当だろ?」
俺がそういうとリンネちゃんは笑顔になった。
「タコウィンナーが豊作です!!」
豊作は農作物に使う言葉なんだがな。
あえて突っ込むまい。
そう。これは、タコウィンナーとご飯のマリアージュ。リンネちゃん専用弁当だ。シンプルイズベスト。栄養価は低く、組成は、おそらく炭水化物と脂質と僅かなタンパク質のみだ。たぶん、ビタミンとかミネラルとかほぼ入ってないと思う。
ちなみにご飯はタコウィンナーにあわせて硬めに炊いている。
リンネちゃんは、すごく嬉しそうだ。
(こんなに喜んでくれるなら、明日も作ってあげようかな)
だが、毎日タコウィンナー弁当だったら、そのうち病気になるか。
「嬉しい。ちょっと待ってて……」
リンネちゃんは、カバンに手を入れてゴソゴソとすると、小さな富士蔵を出した。
「これ、あげる」
いらん、とも言えないよな。
「ありがと。あとでバッグにつけとくわ」
「うん。わたしもつけるからお揃いだね」
リンネちゃんはお揃いを持ちたかったらしい。
よく見たら富士蔵の背中にYとイニシャルが入っていた。俺のために買ってくれたのだろうか。
そこからは、2人で自家製弁当を満喫した。
「ぷはー。食った食った。人生で一番タコウィンナーを食べた日かも知れない」
「わたしも、3番目くらい一杯食べた日だぁ」
1番と2番はどれだけ食べたんだよ。
それにしても、きっとリンネちゃんは太らない体質なんだろうな。羨ましいぜ。
すると、リンネちゃんがモジモジしだした。
「あのね。お願いがあります」
敬語か。
面倒なことを頼まれる前兆だ。
「この絆創膏ね。中を見せてって、皆うるさいの。だから、中に本物つけてほしいです」
そもそも、絆創膏を剥がして捨てれば良いだけだと思うのだが。でも、カノジョの頼みを聞くのも偽カレの役目だろう。
「どうしたらいい?」
「首のとこ吸って」
リンネちゃんは壁に寄りかかるように立った。おれは壁ドンのような体勢で、リンネちゃんが指さすところに口を近づけた。
首元にキスをする。
すると、リンネちゃんがビクッとした。
「あん……、ふぁ。もっと強くして」
リンネちゃんの声がどんどん甘ったるくなる。
「んっ……いいの」
「リンネちゃん、変な声出さないでよ」
「だって、勝手に出ちゃう……ふぁ……がんばる……」
全然頑張れないリンネちゃんだったが、それからしばらくチューチューして、口を離した。
リンネちゃん、どうやら可愛いだけじゃなく、感度も抜群らしい。ほんと、最高の彼女だよな。いつか出来るであろう本物の彼氏に嫉妬してしまうよ。
リンネちゃんは手鏡で首元をみるとニコニコした。
「クッキリ跡がついてる。わたし、結人くんのモノになっちゃった。ふふ」
なに?
リンネちゃんは、そういうゴッコ遊びをしたいのか?
付き合ってあげるか。
「ハニー?」
俺が声をかけると、リンネちゃんはニコニコで返事をしてくれる。
「ダーリン」
「あ、それ、子供の頃に再放送でみてたアニメみたい。鬼っ娘の」
すると、リンネちゃんは手を叩いた。
「それ、わたしも知ってる!! こほん……」
「ん?」
リンネちゃんが抱きついてきた。
「ダーリンっ。大好きだっちゃ!!」
おいおい。
そんなこと言われたら、おじさん勘違いしちゃうよ? でへへへ。
すると、リンネちゃんの顔が真顔になった。
俺は反射的にリンネちゃんの視線を追った。
しかし、その先には誰も居なかった。
「ん? 誰かいたの?」
「ごめん。星宮さんがいて……どこか行っちゃった……」




