表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/35

第16話 リンネちゃんは、お風呂に入りたい。

 俺らの部屋は、3階の桜の間だ。

 鍵には桜の花が彫られたキーホルダーが付いている。

 

 鍵を開けて部屋に入った。


 玄関の先は一段高くなっていて、奥は二間続きになっていた。その先の広縁ひろえんには囲炉裏まである。部屋に踏み入れると畳のいい匂いがした。


 正面には景色が見えていて、3人にしては、かなり広い。


 (洋室は狭いらしいし、皆が集まるのは基本はうちらの部屋か)


 ここの旅館は、過剰なサービスをしない方針らしく、仲居さんの案内はない。荷物を置くと、リンネちゃんがお茶を淹れてくれた。


 我が愚妹は、普通に座っている。


 ……結衣には、リンネちゃんの外見よりも中身を真似て欲しい。


 リンネちゃんがお茶を片付けていると、結衣は、荷物からトランプを出した。


 おい、妹よ。

 お前がすべきは、遊戯具を出すことよりも手伝うことなのであろう。


 って、俺も座ってるし棚上げか。

 

 「リンネちゃん、手伝うよ」


 俺は湯呑みを受け取り洗った。


 すると、結衣は、ひゅーっと口笛を吹いて「よっ、お二人さん、おあついねぇ」と言った。ほんとコイツは……。お前は、まず手伝え。


 部屋にはそれぞれの荷物が置いてある。

 リンネちゃんの荷物は、空気の入った浮き輪、イルカ、それに富士蔵があって、無駄に多い。


 俺は小さなリュック一つだ。


 すると、結衣が耳打ちしてきた。


 「おにい、そんな小さな荷物一つでゴム入ってるの?」


 ……。


 俺は結衣にデコピンした。


 こいつ……。お茶も入れないくせに、余計なことばかり言いやがって。それに、お前がいたら、良い雰囲気になっても普通に無理だし。


 俺は結衣の荷物の方をみた。


 「お前こそ、勉強道具は持って来たのかよ」


 結衣は鼻を鳴らした。


 「わたしは、メリハリはっきりしたタイプなの。旅行の間は一切、勉強はしない!!」


 ……立派な心がけだが、こいつはいつも「おにいと話す時間は無駄、受験の邪魔でしかない」と言っている。旅行を満喫されたらされたで、ややムカつくのたが、気のせいだろうか、


 

 一息ついて風呂に行くことにした。

 ここのお風呂は男女どちらにも眺望のいい露天風呂があるらしい。すごく楽しみだ。


 大浴場の場所は男女一緒で、紺色と朱色の暖簾のれんで左右に分かれている。


 「俺、風呂、大好きなんだよね」


 すると、リンネちゃんも話にのってきた。両手を後ろで繋いで、お尻を向こう側に突き出している。


 「わたしもお風呂大好き♡」


 「ご趣味が合いますね、よければ今度、ご一緒しますか?」


 「え? え? え?」


 リンネちゃんは戸惑い、富士蔵を抱きしめた。

 

 ……つか、お風呂に富士蔵持ってきちゃダメでしょ。こいつ中に綿わたが詰まってるし、濡れたら一週間くらい乾かなくて、ほぼ確実に生乾きで臭くなるぞ? 


 「富士蔵、置いてきたら?」


 「イヤっ。富士蔵は連れて行く」


 まあ、どうしようとリンネちゃんの自由だけど。富士蔵の目はガラスみたいにキラキラしてるし、下手したら盗撮カメラと思われそう。


 

 「殿」の暖簾をくぐると、俺は身体を軽く洗って露店風呂に入った。他に人は居なかった。露天風呂の枠と向こう側の海が繋がっているように見える。確かに絶景だ。


 風呂でボーッとしていると、普段考えないことを考えてしまうものらしい。気づけば、リンネちゃんのことを考えていた。


 リンネちゃんは良い子だ。

 もう少し分析的に考えてみると……。


 リンネちゃんの性格は?


 八方美人だが、そこを越えれば裏表はない。不快になるような人の悪口も言わない。たまに「だら」と言っているが、ほぼ俺に対してのものだし、陰湿さはない。むしろ素直でピュアだと思う。


 顔は?


 俺の好みはさておき、一般的には、かなり可愛い。間違いなくうちの高校では、ダントツの一番だ。


 身体は?


 真っ白でスラリとしている。胸は小さい、身体のラインが女性っぽくて、貧相な感じはない。髪も艶々で、巨乳に拘らなければ、すごく良い身体だと思う。


 うん。

 客観的に考えて、極上の女の子だ。


 極上の子が偽彼女。

 これは幸運というより不幸だな。


 リンネちゃんと比較したら、他の子は見劣りしてしまう。エッチなんてしてしまった日には、今後の俺の人生は、きっと不能になるだろう。


 仮に万が一本当に付き合うとしても、俺とあまりに釣り合いが取れていない。だから、失うのが怖くて、俺は嫉妬に狂ってしまうかも知れない。


 恐ろしい……。

 一歩、踏み入れたら沼だぜ。


 お近づきになりすぎないように、くれぐれも気をつけねば。


 すると、女の湯から声が聞こえてきた。

 結衣の声だ。


 「リンネちゃんの乳首、綺麗なピンク。可愛い」


 するとリンネちゃんの声も聞こえた。


 「結衣ちゃんこそ、中学生なのに大きいし形も綺麗」


 「わたし、自分の乳首の色が好きじゃないんだよね。くすんでいるというか……」

 

 俺はなぜか男湯にいながら、リンネちゃんと妹の乳首の色を知ってしまった。ピンク……やばい、想像してしまう。本気でダブルベッドじゃなくて良かった。


 それにしてもコイツら。

 丸聞こえで、乳首カラー暴露大会になっている事実に、絶対に気づいてないよね。


 他の人が入ってきたら、大変なことになるぞ。


 やはり、教えてあげるべきだよな……。

 できれば、自分で気づいて欲しいのだけれど。


 「ごほん、ごほん」


 俺は2、3回、咳払いをした。

 頼む、気づいてくれ。


 俺の願いも虚しく、結衣の話は続いた。


 「……で、わたし下の方も脱毛したいんだよね。リンネちゃんは下の方……すごい……」


 すごいって、なんだ?!

 どうすごいのか具体的に言ってくれ!!

 気になって、10日間くらい不眠症になりそうなのだが。


 それにしても、やばい。

 この先は、本気で聞いてはいけない気がする。


 くそ、くそっ。

 結衣のせいで、余計に声をかけづらくなったじゃないか。


 今更、声をかけたらどんな反応をされるか……。


 いや、俺が犠牲にさえなればいいのだ。

 俺は勇気を振り絞った、



 「おーい、お前ら。全部、聞こえてるぞ」


 すると、結衣の声がピタッと止まり、数秒後に風呂桶が飛んできた。


 「おにい、変態っ。信じられないっ!! リンネちゃんも、何か言ってやって!!」


 「だらぶちっ!!」


 くそ。

 俺は身を挺してお前らを守ったんだぞ!!


 少しすると、全部は聞き取れないが何か悪口らしいものが聞こえてきた。変態だのエロだの、シスコンだのの単語が聞こえてくる。


 理不尽だ。


 リンネちゃんも思いっきり俺の悪口言ってるし。


 他人の悪口言わない女の子のハズなのに……前言撤回します!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ