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第13話 リンネちゃんは海が好き。

 旅行当日の朝、リンネちゃんが家に訪ねてきた。


 なかなかタイミングが合わなくて、事前に家族に紹介することができなかった。


 母さんは、玄関先で何度か挨拶をしたことはあったらしいが、残り2人に至っては初対面である。


 「えと、こちらは、木之下 凛音さん。高校の同級生で、彼女」


 リンネちゃんはぺこりと挨拶した。


 「あの、木之下 凛音と申します。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。今日は大切なご家族の旅行なのに、お誘いくださいましてありがとうございます」 


 (どうやら今日は、木之下さんモードでいくつもりらしい)


 「礼儀正しくて、いい子じゃない」


 母さんが小声でそういった。


 リンネちゃんは八方美人のプロだからな。こういうのは得意分野なのだ。


 俺は、結衣にアイコンタクトを送った。


 昨日、ためしに結衣に聞いてみたのだ。


 「結衣はリンネちゃん、見たことあったっけ?」


 「うん。ハーフで美人だよね。モデルみたいで憧れちゃう。いいなあ。羨ましい。わたしもハーフに生まれたかったなあ。お父さんが外人なんでしょ?」


 案の定、ウルトラ地雷を踏みまくりだった。


 だから、結衣には事前に「ハーフ」はNGワードだと伝えておいたのだ。


 リンネちゃんがハーフと言われるのは好きじゃないという話しを聞いて、俺なりに調べてみた。


 俺の理解としては、こういうことらしい。


 日本で生まれ日本で育ったハーフの人は、当然に日本人だ。しかし、日常生活の中で「日本語お上手ね」、「日本人より日本人っぽいのね」などと言われることが多々あるらしい。


 もちろん、言ってる本人に悪気はないのだろうが、日本人っぽいとか言ってる時点で、日本人とは違う存在という前提なのだろう。


 やはり、言われた側は傷つくと思う。


 これは、日本人という言葉が持つ曖昧さにも原因があるように思えたが、それ以上のことは分からなかった。


 ま、世を正そうなんてつもりは毛頭ないが、要は、リンネちゃんに悲しい思いはさせたくないのだ。


 ほれみろ。


 結衣は会うなり、案の定、リンネちゃんの外見を絶賛している。


 たしかに、銀髪碧眼で美人だからな。肌も綺麗で足もすらりとしているし。年頃の女の子からしたら、羨ましいのであろう。


 リンネちゃんの魅力は、内面にあると思うけれど、みんな、その容姿にばかり目がいってしまうらしい。見た目がいいなりの悩みもあるのだろうな、と思う。


 リンネちゃんは、ニコニコして結衣の話を聞いている。……八方美人モードだ。


 ってか、リンネちゃん、浮き輪とか、へんなイルカを持ってるんだけど。泳ぐ気まんまんじゃん。置いていかせないと。


 「リンネちゃん、まだ6月末だし、海には入れないと思うよ?」


 俺がそういうと、リンネちゃんは首を傾げた。


 「え、だって、結人くんのお母さんが、旅館にプールあるから、水着を持ってきてねって……」


 は?

 なにそれ。


 俺、聞いてないんですけれど。


 俺は母さんの方をみた。


 「ごめん、結人知ってると思って、言ってなかった♡」


 「は? 知るわけないじゃん。水着とか用意してないんだけど」


 「えと、中学生の時の水着あったじゃない。たしか、リビングのクローゼットにあったから持っておいで。ってことで、セーフ!!」


 いやいや。

 スク水でしょ? 全然、アウトでしょ。


 中学生の時の水着って、紺色で手書きの名札ついてるヤツなんですけど。1人だけスク水とか、どんな嫌がらせだよ。


 結衣はどうだろ。


 「結衣もスク水でいくの?」


 「バッカじゃない? リゾートっぽい綺麗なプールがあるのに、スク水とか恥ずかしすぎるでしょ」


 リンネちゃんの方を見ると、手を合わせてゴメンねをされた。


 どうやら、俺だけスク水で、そのリゾート調の綺麗なプールサイドとやらを練り歩かなければならないらしい。


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