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第2話 転生


 簡潔に説明しよう。


 俺は『ソード・ルミナス』の世界に転生した。

 それも主人公の故郷である『ポルト村』の住人として。


 ……うん、意味わからんよな。

 俺にもわからん。


 ともかく、気が付いたら俺は自分がプレイしたゲーム世界に入り込んでいたワケで。


 たぶん異世界転生というヤツだろう。

 アニメやら小説やらでよく目にするアレが、俺の身にも起こってしまったということらしい。


 ゲーム世界に転生……うんうん、夢があるよな。

 だが俺のこの世界に連れてきた神よ、どうしてもお前に一つ文句を言いたい。


 何故、俺を主人公に転生させてくれなかったのだ――と。


 この世界における俺の名前はクライ・アーメッド。

 年齢は十七。奇しくも主人公と同い年。


 クライとしての記憶も俺にはちゃんとある。

 まあ記憶と言っても、田舎の村で平和に暮らしていただけのどこにでもいるような少年の記憶だが。


 剣術の鍛錬に明け暮れていたとか、魔法を扱うため勉学に励んでいたとか、そんな過去は微塵もない。

 マジで平凡な十七歳だ。


 俺は、この世界における主人公――つまり〝勇者〟などではない。


 俺は『ソード・ルミナス』を全クリしたからわかる。

 主人公である勇者の名前はロイド・ハートランド。

 そしてクライの記憶の中には、ロイドという知り合いがちゃんといる。


 プレイアブルである勇者パーティの中にも、クライなんて名前のキャラはいなかった。

 だが記憶が正しければ……ゲームの最初の最初、スタート地点である『ポルト村』のNPCに、そんな名前の奴がいた気がする。


 主人公に対して「よお、今日もいい天気だな!」とだけ台詞を発する以外に一切の役割がない、正真正銘のモブとして。


 要するに、俺は『ソード・ルミナス』世界のモブに転生してしまったのである。


 ……なんで?

 おい神様、なんで俺をモブに転生させた?


 そこは主人公に転生させてチートなり無双なりで大暴れする流れじゃないの?

 シナリオをぶっ壊して気持ちよくなる流れじゃないの?


 どうしてだよ……。

 なんでよりにもよってモブなんだよ……。


 悲嘆に暮れながら、俺は家の外へと出る。

 すると――俺の目の前には、確かにあの『ポルト村』が存在していた。


 だだっ広い自然の中に木造の家がポツポツと建てられた、辺境にあるド田舎の村。

 間違いなく『ソード・ルミナス』のスタート地点である。


「……マジで『ソード・ルミナス』の世界に転生したんだなぁ」


 改めて実感するわ。

 自分がゲーム世界に来たんだって。


 俺がそんなことを主ながらボケ~ッとしていると――


「――あ、クライ~! おはよ~!」


 俺の名を呼ぶ、少女の声。

 そのハキハキとしながらも可愛らしい声は、俺にはとても聞き覚えがあった。


「やっと起きたか、この寝坊助め!」


 少女は元気よくこちらへ駆け寄ってくる。

 そしてその可愛らしい顔が目の前まで近付いてきた瞬間、俺の心臓はドキリと大きく跳ねた。


 赤色に近い茶髪を後頭部で結わえたデコ出しヘアーな髪型をしていて、ややボーイッシュな雰囲気の出で立ち。


 腕、太腿、お腹などを大胆に露出させた動きやすそうな服装をしており、特にこれでもかと露わになったおへそが健康的で眩しい。


 胸はかなり大きい方だと思うが、いかんせん当人の色気が希薄なため、あまり主張してくる感じではない。


 ――〝エミリー・ローデン〟。


 俺が『ソード・ルミナス』で一番好きなヒロインであり――主人公(ロイド)を想う幼馴染だ。


「あ、ああ。おはようエミリー……」

「どしたの? ボケッとしちゃって、なにか変な夢でも見た?」


 グイッと、エミリーが俺の瞳を覗き込む。


 ――可愛い。

 めっちゃ可愛い。


 ヤバい、好み(タイプ)過ぎる。

 一見するとボーイッシュな雰囲気に隠れてしまっているが、実はエミリーの顔立ちはかなりの可愛い系。


 快活で元気っ子な中にあどけなさや純情さが垣間見えるという、れっきとした乙女。

 むしろ内面の乙女っぷりを元気っ子な一面で隠そうとしている節があり、それがまたギャップを生み出している。


 端的に言って、最高!

 可愛過ぎるだろ。絶対メインヒロインとか他のサブヒロインたちより可愛いって!


 マジで本当に、どうして主人公(ロイド)はこの子を選ばなかったんだ?

 理解できん……!


「おーい、クライ~? もしも~し、起きてる~?」


 ヒラヒラと手の平を揺らし、俺の意識が飛んでいないか確認してくるエミリー。

 おっと、思わず彼女に見惚れ過ぎちゃったな……。


「いやぁ、エミリーは今日も可愛いな~と思って」

「……はぁ? なに、やっぱおかしな夢でも見たの? それか変なモノでも食べた?」


 からかわれたと思ったらしく、ちょっぴり不快そうなジト目でこっちを見てくるエミリー。


 普段の彼女は異性に褒められ慣れていないはずだからな。

 少し男勝りな性格をしているところもあって、男友達には良くも悪くも気安く扱われているっぽいし。


 俺の口から出た言葉を、素直に褒め言葉として受け取れなくても無理はない。

 うんうん、そんなところも可愛いぞ。


「っていうか、今日は皆で森に入るって言ったでしょ? 早く狩りの準備を――」


 エミリーが言いかけた――その時だった。


 彼女はふと視線を逸らす。

 すると、


「――! ロイド!」


 そしてその視線の先には、見覚えのある金髪の好青年の姿があった。


 その姿を見つけたエミリーは、俺のことなど忘れてしまったかのように急いで走り出し、彼の下へと駆け寄っていく。


「ロイド、遅いよ! 待ってたんだからね!」

「アハハ、ごめんよエミリー。ちょっと寝坊しちゃって……」


 金髪の好青年は若干申し訳なさそうにエミリーに平謝り。

 そんな彼を叱るエミリーの頬は、ほんの少し赤らめて見えた。


 ――〝ロイド・ハートランド〟。


『ソード・ルミナス』の主人公であり、この世界を救う勇者。


 そして……エミリーの好きな人だ。


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