第1話 不遇な幼馴染サブヒロイン
「――えっ、このゲーム……幼馴染と主人公が結ばれないの???」
とあるゲームをクリアした時、俺の口から最初に出た感想はそれだった。
画面に映る勇者の姿をした主人公。
そんな主人公がメインヒロインと肩を寄せ合って「俺たち、これからもずっと一緒にいよう」とか言っちゃってるんですが。
いや、ダメだろって。
最初の村から主人公が旅立つ時に、幼馴染が泣きながら見送ってたじゃん。
幼馴染の子と主人公の純愛みたいな空気出してたじゃん。
幼馴染の子って、最初から最後まで主人公のことを一途に想って帰りを待ってたはずだよね?
なのにメインヒロインと主人公がくっ付いちゃうの?
いいんか、それで?
いや……やっぱダメでは!?
幼馴染が報われなさ過ぎるだろ!
俺は半ば唖然としながら内心で叫んだが、そうしている間にもゲームクリアを意味するED曲と共にスタッフロールが流れていく。
――『ソード・ルミナス』。
それが、俺がたった今クリアしたゲームの名前。
日本の大手ゲームメーカーから発売されたファンタジーRPGであり、剣と魔法の壮大な世界観や個性豊かなキャラクターたちがウケてネットで話題になった作品だ。
実際にプレイしたゲーマーたちからも概ね好評で、ここ数年で発売されたRPG作品としては一番面白いと太鼓判を押す声も多い。
実際に俺もプレイしてみて、その評判は間違いではなかったと感じる。
話のスケールも充分に大きい。
登場人物たちは皆個性的。
特にメインキャラとなる勇者パーティのメンバーたちは一癖も二癖もあるのに、不思議と愛着が持てる人物像にデザインされている。
ゲームとしても致命的なバグの類はこれといって見当たらず、難易度のバランスも良好。
まさに大手ゲームメーカーが自信を持って世に送り出した作品だと言えよう。
一言で言えば、面白かった。
充分過ぎるほどに面白く、傑作と言ってもいい。
実際俺は夢中でプレイしてしまい、寝る間も惜しんでクリアまで進めてしまった。
だが……俺はどうしても納得がいかなかった。
ゲームとしては文句など一切ないが、俺が容認できないのはソコじゃない。
とあるキャラクターの扱いだ。
〝エミリー・ローデン〟。
勇者――つまり主人公の幼馴染であり、彼の旅立ちを涙ながらに見送ったいたいけな少女だ。
ゲーム内においては勇者パーティには加入せず、プレイヤーが操作することのできない所謂NPC。
だがキャラクターのデザインはしっかりと作り込まれており、声優さんによる可愛らしい声も当てられている。
扱いとしてはサブヒロインとなるだろうか。
――俺はこのエミリーという幼馴染が好きだった。
幼馴染らしく気さくで明るい性格をしつつも、優しく純真。
女性らしさやお淑やかさはあまりないが、快活でハキハキとした元気っ子。
赤色に近い茶髪を後頭部で結わえたデコ出しヘアーな髪型をしていて、ややボーイッシュな雰囲気の出で立ち。
良くも悪くも色気があまりなく、一目でメインヒロインではないと判別できるデザインとなっている。
……元も子もない言い方をしてしまえば、男性プレイヤーに人気の出づらいタイプのキャラクター。
可愛いは可愛いが、キャラ人気投票なんかだとどうしても下位に甘んじてしまうような……ああいうキャラである。
端的に言えば〝不遇枠〟だ。
だからNPCのサブヒロインという位置付けに収まっているのだと思う。
その辺は開発陣もよく理解しているのだろう。
――だが、だが俺は、このエミリーという幼馴染が好きだった。
なんならプレイアブルであるメインヒロインや他女性キャラよりも、ずっと好きなキャラだった。
勇者としての力に目覚めて旅立つ主人公を見送るシーンは、涙なしには見られなかった。
気安い関係ながらも常に主人公のことを気遣う姿はまるで古女房のようで、幼馴染としての魅力が存分に備わっていた。
俺はてっきり、旅を終えた主人公は村へと戻ってエミリーと結婚するものとばかりに思っていたのに……。
いざゲームをクリアしてみれば、さも当然みたいにメインヒロインとくっ付きやがった。
なんでだよ!
故郷にあんなに可愛い幼馴染がいるんだぞ!?
しかも一途に帰りを待ってるんだぞ!?
なのにどうしてメインヒロインを選んじゃうワケ!?
うぐぐ……そりゃ確かにメインヒロインの方がデザインもいいし、正ヒロインらしくお淑やかな黒髪ロングだし、こっちの方がキャラとしても人気だろうけども……!
だからなのか「どうして主人公は幼馴染と結ばれないんだ?」みたいな疑問をSNSに上げてた人は少数派だったけども……!
――腑に落ちない。納得がいかない。
彼女は報われるべきだ。
もし俺がこのゲーム世界の住人だったなら、主人公が旅立つタイミングで「エミリー、キミも一緒に旅に出なくちゃダメだよ!」と全力で背中を押すだろう。
メインヒロインに主人公を奪われるという不憫枠なんかには、断じてさせなかったはずなのに……!
「……はぁ、やめだやめだ。もう怒ったって仕方ない。……寝よう」
怒りを通り越してシラケてしまった俺は、そのまま自室のベッドに倒れ込む。
このところ『ソード・ルミナス』に夢中で、碌に睡眠時間を確保してなかったからな。
すぐに睡魔に襲われた俺は、そのまま深い眠りへと落ちていった。
……この時、俺は思いもしなかったんだ。
眠りから目覚めた後――自分が『ソード・ルミナス』の世界に転生することになるなんて。