第1章閑話 その8 カラオケボックスその2
カラオケボックスの続きなの。
例によって、歌の元ネタは後書きに記載するの。
「ふぅ……いかがだったでしょうか?」
奏の問いかけに、すぐに答えられない。
この感情を表現できる言葉が、思いつかないのだ。
「すごかったの! 今までに聞いた中で、一番上手だったの!」
めあの言葉でようやく、俺たちも返事をすることができるようになった。
「上手なんていう言葉では、足りないよ! 僕、心の底から揺さぶられたよ!」
「まったくだ。今までの歌手とは、次元が違うとしか言いようがない」
褒められることに慣れていないためか、奏は真っ赤な顔をしていた。
「それじゃあ、次はめあが歌うの!」
あの後に歌えるめあは、かなりの大物だと感じた。
正直俺は、今歌えるだけの勇気はない。
「えっと、コードを入力して……よし!」
流れたのは、野菜ジュースの歌であった。
可愛らしいめあの声とマッチしており、これはこれで上手い選択だと思う。
「ところでめあちゃん、緑の野菜、全部食べられるの?」
「うう……ピーマンは苦手なの。それ以外なら大丈夫なの」
結希の問いに、めあが答える。
いかにも子供らしい答えで、思わず笑顔が浮かんだ。
「それじゃあ、次は僕と奏でこの曲を歌いたい!」
結希が積極的に主張するのは、かなり珍しいことだ。
最近放送されたアニメの主題歌なので、奏が知っていれば歌えるのだろうが。
「これ、好きな曲です! 全力で歌うので、合わせてください」
そして、音楽が流れ始めた。
『約束』という名前の曲であるが、奏の圧倒的な歌唱力により、大幅に迫力が増している。
「これは約束というよりも、約束された勝利の歌、と呼ぶべきだな。凄まじい」
結希の歌唱力も、奏によってブーストされているようだ。
本来は女性二人で歌う曲なのだが、見事なほどにシンクロしており、むしろ二人のために作られた曲ではないかと思わせるほどであった。
「久郎、ちょっとこっちに」
歌が終わった直後に結希が、少し離れたところで手招きをする。
俺は意図を理解し、耳を近づけた。
他の人に聞こえないよう、小声で話す結希。
「歌っているときに、奏の心が伝わってきたんだよ!」
「それは、本当なのか?!」
思い当たるのは、俺たち二人で行う『シンクロニシティ』。
それと同じ現象が、発生していたというのだ。
さすがにこれは、予想外である。
「鎖に縛られて、がんじがらめになって……それでも救いを求める姿が見えたんだ」
「もしそれが本当ならば、救い出す必要がありそうだな」
もしかしたら、俺でもその光景が見られるかもしれない。
奏にお願いして、『猛毒』を意味する曲を共に歌うことにした。
結希のシンクロニシティと、非常によく似た現象が発生する。
しかし、彼女の姿は毒に侵されており、息をするのもやっとのように感じられる。
……それほどまでの、闇を抱えているというのか。
歌い終わるころには、俺は汗だくになっていた。
もう一度これを行ったら、もしかしたら彼女の毒によって俺が倒れるかもしれない。
結希やめあも苦しそうな表情をしており、明らかに歌に「毒されて」いるのを感じた。
「これは、きついな。正直俺では、抱えきれない」
「でも、彼女は生きている。だったら、救えるはずだよ!」
こうなってしまった結希は、止めることができない。
彼自身、神崎夫妻に救われたこともあり、人を救うことに対する強い思いがあるのだ。
「暗い曲は、嫌なの! これをやるの!」
めあがマイクを手に取り、民謡が流れ出した。
外国語の歌詞であるが、比較的単純なのでめあでも歌えるようだ。
リズム感が良く、心を侵した毒が抜けていくのを感じる。
こうしてみると、めあはかなり「気配り上手」なのかもしれない。
奔放な言葉に惑わされそうになるが、本質の部分では俺たちよりも大人な部分があるのでは? と感じた。
その後も、いくつかの歌を楽しんだ。
結希は思春期の揺れ動く心を歌い、俺は心優しい雪だるまを歌う。
ソロで歌う形になったが、それでも評判は非常に良く、少しだけ自信を取り戻すことができた。
「ふぅ、喉が渇いたな。俺が代表して取ってくるから、飲みたいものを言ってくれ」
それぞれのリクエストを聞き、ドリンクコーナーに向かう。
ついでにめあが頼んだ、ソフトクリームもトレーに乗せた。
そうして、戻ろうとしたその時……聞き覚えのある歌声が、俺の耳に入ってきた。
しっとりとした感じであるが、その中に若々しさも感じられる。
この声を、聴き間違えることはない。
歌い終わったタイミングで、俺はドアをノックする。
そこにいたのは、藤花家の舞であった。
「びっくりしたわよ。こういうお店で、ドアを叩かれることはまずないから」
「こちらもびっくり、だ。カラオケが好きなのか?」
少なくとも、聞こえてきた歌声は「プロ顔負け」のレベルである。
俺たちと比べても、そん色ないと言えるだろう。
「呪文の詠唱にも、歌は有効なのよ。気分転換と訓練を兼ねて、たまにやっているわ」
「だったら、俺たちと一緒に歌わないか? 聞いてほしいものがある」
真剣な俺の表情に、何かを察したのだろう。
舞は俺の提案を、受けてくれた。
電話機から、舞が部屋を変更する旨を受付に伝える。
「ただいま。サプライズゲストを呼んできたぞ!」
全員、驚いていた。
そもそも彼女は、こんなところで一人、カラオケをするような人ではない。
「それで、誰の曲を聞いてほしいの? 教えてちょうだい」
俺は、奏にもう一曲、自信がある曲を歌ってほしいと願った。
「分かりました。飲み物を口にしたら、歌うことにします」
すんなりと了承されて、ホッとする。
彼女の曲は、俺たちでは判断できないほどの効果をもたらしている。
果たして舞は、どう判断するのだろうか。
めあが歌ったのは「ぽっぴっ〇ー」、結希と奏が歌ったのは「Pr〇mise」、久郎と奏が歌ったのは「カンタ〇ラ」、その後にめあが歌ったのは「lev〇n Polkka」、結希が「テレカク〇思春期」、久郎が「スノー〇ン」になるの。
元々ボカロ小説として書こうとしていたらしくて、こうなっているの。




