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序章 第1話 20XX 3月6日 久朗の目覚め

ここから、物語は始まるの。

多分嫌な夢は、私が死んだあの戦いを思い出しているの。

「……嫌な夢を見た」


 背中に流れた汗の気持ち悪さで、目覚めることになってしまった。

 まだ気温が低いため、起き上がったときに肌寒さを感じる。


 俺はかなりの頻度で、悪夢を見る。

 それも自分が死ぬという、最悪の夢だ。


 死ぬまでの経緯はさまざまだ。


 戦いの中、傷ついて死ぬ。

 ネクタイで、首を吊る。

 高い所から、飛び降りる。


 バリエーションが豊富すぎて、いちいち数えていられない。

 恐らく俺の特性の一つが、影響しているのだろうが……そこまで常に死にさらされていたのかと、疑問を抱くこともある。


 説明が遅れて、申し訳ない。

 俺の名前は「久郎(くろう)」。

 正確には「神崎(かんざき)久郎(くろう)」という。

 今年高校に入る、15歳の少年だ。


 俺はかなり、「普通」の人と異なる人生を歩んできた。

 良くも悪くも、多くの特性を有しているからである。


 そもそも生まれからして、異常としか言いようがない。

 俺の最初の記憶は、神崎夫妻により「装置」から救い出されたというものなのだ。


 恐らく人工胎盤であろう装置の中、まだ胎児であったはずの俺。

 しかし記憶の連続性は、そのころから保たれている。

 更に、その時点で「日本語を理解していた」のだ。


 そのことは、学習する能力、及び効率において、普通の子供と比べ大きなアドバンテージとして働いた。

 それを活かし、中学生の時点で多くの資格試験に合格している。

 中には難関の国家資格もあるため、周囲の「天才」という評価は妥当なものであろう。


 ちなみに俺にとって「両親」は、神崎夫妻のことを指す。

 肉体を形成している「元となっている男女」に対しては、ほとんど興味がない。

 人工胎盤という装置に入れられた時点で、提供した者たちとの血のつながりは断ち切られていると考えている。

 そんなものよりも、今まで育ててもらった両親に対する感謝の気持ちの方が、はるかに大きい。

 もし提供者たちが現れたとしても、親であると感じられないだろう。


(すまない。また嫌な夢をみさせてしまったようだ。自分でコントロールできれば良いのだが……)

 そこに、あいつの声が聞こえてきた。


 更に俺の中には、「もう一人の人格」が存在している。

 ただし、多重人格ではない。

 俺という一つの体に、二人分の人格が入っているという状態なのだ。


 「あいつ」は、どうやら異世界転生して、俺の中に入ってしまったらしい。

 話しかければ応じてくれることが多く、幼い時からずっと話し相手になってくれていた。

 知識もかなり豊富であり、講師のような事も積極的にしてくれた。

 俺の持つ多くの資格は、「あいつ」が協力したからこそという側面もある。


 ちなみに試験中は、問いかけても一切応えてくれなかった。

 応えることは、カンニングを認めることに等しい、と考えていたのだろう。

 ゆえに俺は、資格は「実力で得たもの」であると、自信をもっていうことができる。


 多重人格、正確には解離性同一性障害では、このような事態は説明できないだろう。

 医学的なサンプルになるのはまっぴらであるため、このことはごく一部の親しい人以外には伝えていない。


 ただし、これは利点だけではない。


 考え方が異なるときは、意見が衝突することもある。

 頻繁にみる悪夢、というマイナスも存在している。

 意外とおっちょこちょいなところがあり、二人そろって肝心なことを忘れたりもする。


 それでも、基本的には信頼できる「友人」が、自分の中にいる。

 それが、俺が「あいつ」に対して有している認識だ。


 なお、俺、そして「あいつ」が住んでいた場所は「フジ市」と呼ばれている。

 ただし、「あいつ」の知っていた「フジ市」とは全くの別物であり、そのため以前の知識とのギャップに戸惑うことも多いようだ。


 ちなみになぜか、「あいつ」は自分の名前を語ろうとしない。

 今のところ、あまり不便を感じていないため、無理に聞こうとは思っていない。

 自分自身に呼びかければ、しっかり応えてくれる相手だ。

 それが語ろうとしないことに、むやみに踏み込むのは良くないだろう。


 とりあえず、汗でぬれたパジャマを着替えることにした。

 シャツはグレーのものを選び、ズボンは黒を選ぶことにした。

 モノトーンが好みであるため、普段着でもこういった色合いのものを愛用している。


 俺たちの部屋は二階にあるため、一階のリビングに向かうことにした。

 目をこすりながら階段を降り、歯を磨いてからドアを開ける。

 いつものように、大型テレビからニュースが流されていた。


「次のニュースです。パリ近郊で発生した、バグにより拉致された者たちの続報です。

ヒーローたちを含む捜査隊により、サバンナで発見されました。

半数以上が亡くなっていたとの情報があり、生存者も衰弱が著しいとのことです」


 ヴィーガンと呼ばれる者たちが、バグに連れ去られたという事件の続報らしい。


 ちなみに「バグ」とは、人類と敵対している生命体である。

 それに対抗できるのは、「ヒーロー」と呼ばれるごく一部の人間だけだ。


 なお俺は、「ヒーロー」の一人ということも述べておく。

 もっとも現段階では、「ヒーロー見習い」と呼ぶのが正確だが。


 そして明日が、正式にヒーローとして認められるための試験、通称「ヒーロー試験」の日。

 いくつもの試験を乗り越えた俺でも、それなりに緊張している。

 今朝見た悪夢は、そのためだろうか。


(お前それサバンナでも同じこと言えんの? というネットスラングが突き刺さるな……個人的には、むしろバグはいい仕事をしたとすら思うぞ)


「あいつ」はヴィーガンのことを、毛嫌いしているらしい。

 俺自身も文明の柵に守られながら、そうでない者たちに対しても非現実的な主張を行い、過激な活動も行っているこいつらは、嫌っている。

 自分の子供に考えを強要し、栄養失調に陥らせるような事態に対しては、虐待という言葉が浮かぶ。

 とどめにヒーローとバグの戦いにおいて、バグを殺すなと横やりを入れることがあったというのであるから、好感を抱けという方が無理だろう。

 自分の中に、あいつの考えに同調する気持ちがあるのを、認めざるを得ない。


「おはよう、久郎!」

 そこでリビングのドアが開き、聞きなれた声がした。

あくまでも、この物語はフィクションなの。

団体名は、架空のものなの。

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