第1章 第4話 巨大バグとの死闘 その3
ここで、戦闘が終了するの。
托卵の爆発、びっくりしたの。
凄まじい光が、爆発するように広がった。
結希の「托卵」は、溜めることによって絶大な威力を発揮する。
限界こそあるものの、「必殺技」と呼ぶのにふさわしい。
これだけ巨大なバグであっても、ただでは済まないと信じたい。
祈りもむなしく、バグが再び動き出す。
ついにワイヤーもちぎられてしまい、動ける状態を取り戻したようだ。
俺は後方から、攻撃を行う。
前後で攻撃を分散することで、少しでも対応が鈍くなってくれれば良いのだが。
「これは……今までに見られなかった行動です! 注意してください!」
キーンという音とともに、バグの羽が激しく振動する。
バグ自身を震源地として、全方位に衝撃波が放たれる。
木の葉のように吹き飛ばされる、俺の機体。
どうやらギリギリで、全損は免れたようだ。
しかし、本来からはあり得ないほど、運動性が低下している。
ブースターも駆使して、何とか頭の方に回り込んだ。
バグの頭部は、かなりのダメージを受けているようだ。
大きく削られ、そこから緑の液体が流れ続けている。
しかし生命力の高いバグにとっては、まだ致命傷ではないようだ。
「最後のあがきだ。全部持っていけ!」
もう、機体は機能停止寸前だろう。
最後の力を振り絞り、欠けた部分にありったけの銃弾、爪、ワイヤーにダーツなど、手持ちのすべてを叩き込む。
「久郎、どいて!」
結希の方も、辛うじて動いているという状態だろう。
ブースターに残った最後の燃料を使い、横に飛ぶ。
体勢を立て直すことすらできないまま、俺の機体は横たわることになった。
結希が必死に、「百舌」や「隼」などを連続して行う。
そのたびに緑のしぶきが上がるのだが、まだバグの動きは止まっていない。
中型のバグなら、何回分の致命傷を与えているのだろうか。
「また、全方位の衝撃波が来ます!」
通信とほぼ同時に、衝撃波が俺たちを吹き飛ばす。
なすすべもなく、吹き飛んでいく俺たち二人。
動力は完全に失われ、生きているのは通信機能くらいのようだ。
「ごめん。全力を尽くしたのに、守り切れなかった……」
「いや、俺たちにできることは、すべてやった。後悔しなくていい」
次の攻撃で、俺たちは機体ごと「破壊」されることになるだろう。
機体の頭部が割れており、戦っていた相手の姿がよく見える。
俺たちに向けて、バグが足を振り上げた。
その時、紅の閃光が流れた。
バグに向けて、一気に飛んでいく。
「ブチ抜け! 『ソニック・ナックル』!」
胴体からはみ出すほど、巨大なブースター。
それを限界まで吹かせた、紅の機体がバグに向かって突撃する。
拳によるその一撃は胴体を貫通し、そして……そのまま地面に突き刺さり、抜けなくなっているようだ。
状況はギャグっぽいが、威力は結希の必殺技を超えている。
今までとは比べ物にならない量の、緑の液体が一気に噴き出した。
「……相変わらず、明は考え無しですね。それはさておき、こちらに『ヒール・ウェーブ』!」
そして、俺たちの近くに藍色の機体が現れた。
機体が錫杖を振うと、俺たちの痛みが消え、機体のコンソールに再び光がともる。
これが、回復魔法の力か!
「にゃ。『ホワイトボール』!、じゃれて遊ぶにゃ!」
更に、濃い緑色の機体が現れ、バグに攻撃を行う。
掛け声に合わせ、白い球体が巨大バグの羽にまとわりつく。
球体が当たるたびに、羽が大きくはじかれ、合わせて胴体も大きくふらついている。
この状況では、衝撃波を放つことは不可能であろう。
「よっしゃ、抜けた! もう一発行くぜ! 『ソニック・ナックル』! って、うわあ!」
紅の機体が、バグの下から飛び出してきた。
大きく距離を取り、再び突撃する。
途中で大きく蛇行したのは、本意ではなかったのだろう。
何とか体勢を立て直し、再びバグに対して突撃する。
今度は横からバグの胴体に突っ込み、そのまま突き抜ける。
これで着地できれば完璧だったのだが、ブースターが破損してしまい、ボールのように地面に叩きつけられながら、バグから遠ざかっていく。
跳ね飛ぶ姿は見ているだけで、痛々しい。
「明にも、ヒールしておくことにします。後で、ですが」
藍色の機体が『スキャン』とつぶやいて、バグの全身に光を放つ。
どうやら、相手の状態を確認しているようだ。
「これは、いけません! 自爆するつもりのようです!」
確認の結果は、最悪の状況を示していた。
俺たちを含む全員に、緊張が走る。
「やべえ。ブースターがいうことを聞かない。もう一発は無理だ」
「こちらも、倒すには力不足にゃ! 『ブラックボール』、急いで飛んでいくにゃ!」
「内圧、急激に上昇中……あと数秒で、臨界点です!」
あのサイズで、自爆。
この公園は恐らく、回復不能なほどに破壊されるだろう
俺たちの命運については、言わずもがなである。
絶望的な状況で、翡翠のような色合いをした機体が空から舞い降りる。
魔法が放たれる寸前になっているようで、とんでもない「圧」を感じた。
「お待たせ。一気に決めるわよ……『フレスベルグ』!」
機体が、ナイフを振るう。
技の名前と共に、魔法陣が展開された。
巨大バグを取り囲み、直後その中で、荒れ狂う風の領域が形成される。
あれだけ攻撃しても、倒すことができなかった巨大バグ。
それが、まるで積み木を崩すようにバラバラになっていく姿は、現実とは思えない。
暴風がおさまり、残されていたものは赤い、バグのコアだけであった。
「回収っと。これでおしまい!」
翡翠色の機体が、コアをケースにしまう。
コアが健全である限り、バグは復活する危険性がある。
しかし特製のケースに入れることで、封印状態にすることができるのだ。
研究のため、コアは可能な限り回収を求められている。
そこから得られたデータの価値は、計り知れないほどだと聞いたことがある。
危機一髪という言葉の意味を、真に理解した。
俺たちは、生き残ることができたのだ。
安堵のあまり、へたり込んでしまったのは許してほしい。
これで、メンバーがそろったの!
ここから、物語が始まるの!