七話 デート(1/2)
「デートがしたいです」
八月を過ぎたあたりで、芽凛衣がそう言った。随分と真面目な表情をしているが、服は着ていない。ごはん中なので。
「別に良いけど、服は着ろよ?」
「私をなんだと思ってるの?」
俺の正当な物言いに、芽凛衣は半目でそう返した。自分の日頃の行いを分かっているのだろうか?
裸エプロンどころか、それさえ取っ払うような奴には言われたくない。
「変態」
「更斗くんの前だけだよ!」
「じゃあ自業自得じゃねぇか」
自分からツッコまれるような理由を作っているため、俺の言葉に芽凛衣は うぐぐ…と声を出す。
俺だってさすがに外で脱ぐとは思っていないが、それにしたって露出頻度が高すぎる。
「さすがに外では脱がないよぅ……更斗くんにしか見せたくないし。なんなら女の子相手でも嫌だもん」
「そんなにかよ」
「そりゃあ男の子よりはマシだよ?必要なら我慢するけどさぁ、やっぱり恥ずかしいよね。不快とも言えるけど」
ある意味、徹底してるということなのだろうか。でも言われてみれば確かに俺だって、心を許していない他人に身体を見られたくはない。
それは例え男相手であっても同じだ。女の子に見られるよりはマシなのであって、見られたいわけじゃない。
「──まぁ、良いか。取り敢えず準備しよう」
「え、いいの?やったやった!ありがとう更斗くん♪」
俺だって別に、芽凛衣が本気で外で脱ぐような奴だとは思ってない。あくまで脱ぎすぎだと言いたかっただけだ、断る理由はない。
出かけることが決定すると、彼女は満面の笑みで嬉しさを表現した。相変わらず分かりやすく、見ていて心地が良い。
出掛ける準備を終え、芽凛衣に手を引かれるまま外に出る。デートをするのは分かったが、彼女はなにをするつもりなんだろう?
まぁ単純にお散歩でも良いのだが。
「さてさてぇ、どこ行こっか?」
「なんも決めてなかったのかよ」
まさかのノープランであった。自分から言い出したわりにコレである。さすがの芽凛衣さんといったところだろうか。
いやまぁなにがさすがだよって話だけど。
「アハハ、それもそっか♪じゃあカフェでもいこっか♪」
「それはアリ。良い場所あるよ」
「おっ!じゃあそこ連れてって♪」
カフェということなので、それなら普段行っている店にしようと思い、芽凛衣を連れていくことにした。チェーン店ではあるが、週一でその店に通っている。
そんなカフェに到着し、見慣れた扉を押して開く。扉の上に付いているベルがカランカランと音を立てて、俺たちという客の入店をスタッフに知らせた。
「いらっしゃいませー……あ、こんにちは!」
「こんにちは、二人です」
俺たちという客の対応に来た顔見知りの女性スタッフと挨拶し、手で人数を示す。彼女は はーいと返事をして、すぐに窓際の席に案内してくれた。
「やったー窓際ー♪」
「いつもの席だな。良い景色だろ」
「うん♪」
窓際特有の解放感を感じられる席だ。先ほどの顔見知りのスタッフは、いつもここに案内してくれる。
気に入っている席であることを、雑談の中でポロッとこぼしたことを覚えていてくれているようで、いつもこの席に案内してくれるのだ。
早々に注文を決め、近くで待機してくれている例のスタッフを、手を上げて呼んだ。
「お願いします」
「はーい!」
スタッフは元気に返事をしてこちらにやってきて、俺たちは冷たいドリンクと軽食を注文する。
そして、彼女はにんまりとしながら、少し顔を近付けて尋ねた。
「もしかしてぇ、彼女さんですか?」
「いやいや、友達ですよ」
正しくは予定なのだが、なんとなくそれを言うのは憚られた。特に意味はないが、なんとなく芽凛衣にちょっとイタズラしてやろうと思ったのだ。
「そうなんですかぁ?結構仲良さそうに見えますけどぉ?」
「いつもこんなんですよー、素直じゃない彼氏を持つと苦労するんです」
「はいはい」
にんまりと口角を上げるスタッフに芽凛衣が便乗しやがっているが、まともに相手をしたら負けなので無視してやる。
もしかして、こうやって外堀を埋めていくつもりじゃなかろうか。彩斗あたりにでも会ったら、なに言うか分かんねぇぞコイツ。
「ふふ、彼女さんに優しくして上げてくださいね。そうじゃないと離れてっちゃいますよ?」
「えっ、更斗くん離れてっちゃうの?」
「どんな解釈だよ」
スタッフの言葉に不安を抱いたようすの芽凛衣にツッコミを入れるが、そこまで言って気付く。
これ以上下手なことを言えば、俺が芽凛衣との関係を肯定しているということがバレてしまう。
「更斗くん離れてかない?」
「どうせ家に居座るんだろ?そしたら無理だな」
そう素っ気なく返したのだが、芽凛衣はなぜかニヤリとしていた。絶対悪いこと考えてるわコイツ。
なんとなくムカつくな。
「じゃあずっと居座っちゃうもんね♪」
「もう好きにして」
これ以上なにも言うまいと、何を言うこともせずに頷いておく。そんな俺たちを見ながら、スタッフはニコニコとしながら他の客の注文に行ってしまった。