五話 ホントにおばけ?
分からない、いったいどうしてこんなことになってしまったというのか。
「えへへ♪どうかな?」
一切の恥じらいを見せない立ち振舞い、でも少し恥ずかしそうな表情で芽凛衣さんはそう言った。ハッキリ言って、魅力の暴力である。
俺はゴクリと唾を飲み、その白く綺麗な肌に釘付けになってしまった。うわっ、ツルツルだ。
「更斗くんは、女の子の身体は嫌い……じゃなさそうだね。喜んでくれたなら嬉しいな♪」
「みっ見るな変態!」
惜しげもなく身体を晒す芽凛衣さんに対し、俺は反応したジュニアを隠す。普通は恥じらうところであろうに、なぜ彼女はこうも堂々としているのか。
「うぇへへ♪見せて見せてー、ほら脱いでよぉ♪私の全部見て良いからさぁ♪」
「ダメだコイツ、恥じらいがねぇ」
なぜか鼻の下を伸ばして、手をワキワキとさせている節操のない芽凛衣さんに、こちらの方が後退りしてしまう。本来ならば男である俺の方が喜びそうなもんだが、本能と理性がせめぎ合っているのでそうはいかない。
「恥じらいなんて。だって更斗くんは私の旦那様になるんだよ?むしろ全部捧げたくなっちゃうって」
なんてことない風に言った芽凛衣さん。しかし、ロクに会ったこともない相手にそこまでの好意など、抱くものなのだろうか?
違和感が強すぎる。
「えー、美人局じゃねぇの?」
「違うよぅ!」
あまりにもウマい話が過ぎて、思わず半目で睨んでしまうが、芽凛衣さんはグーにした両手を、肘を前に曲げてブンブンと上下に振った。
些か大袈裟にも思えるリアクションだが、それはそれとしてやっぱり怪しい。
「むむむ、でもやっぱり怪しいか。いきなりだもんね」
「ホントだよ」
いきなり正気を取り戻した芽凛衣さんに、こちらの方がつんのめってしまいそうになる。それでも、ようやく分かってくれたかとホッと胸を撫で下ろす。
今日はこの辺ぇお帰りいただこう。
「じゃあ、今日はこの辺──」
「うん!今日からよろしくね!」
……………?
おかしいな、よろしくもなにも出直して欲しいのだが?数秒の沈黙の後、芽凛衣さんは首を傾げた。
「どうしたの?」
「あぁいや、今日は一旦帰るだろ?」
「えっ、これからはここが私のお家だよ?」
どうやら俺は日本語を忘れてしまったらしい。ここが私のお家という言葉は、今日は失礼するという意味だったのか?
もしかしたら、彼女の方が日本語を間違えたのかもしれないが、それにしたってペラペラが過ぎるだろう。
「ん?ん?え、こっちに住むのか?」
「そだよ。だって更斗くん家にご両親いないでしょ?夏休みの間」
「それは、そうだけど……いや待てなんで知っている」
まさか今日決まったばかりなのに、なぜ芽凛衣さんがそれを知っているのか。落ち着いてきた警戒心が、再び再燃しはじめる。
「まぁそれはその筋でちょっと」
「その筋?父さんか母さんから聞いたの?」
「ちがうよ?」
唯一納得できそうだった理由が違うということで、やはり怪しいと思い始める。コイツは早々に家から叩き出した方が良いのではないだろうか。
「そんなに警戒しないでよ、ホントに私は更斗くんとお付き合いしたいだけなんだから」
「それが変だって話なんだけどな」
「うむむ、そうかなぁ。実は前に一目惚れしましたとかじゃダメ?」
「ダメ」
「ふぇぇ……」
困ったような顔をしたって怪しいものは怪しい。こうやって軽々と服を脱いだのも、やはり美人局かなにかのためなのでは?
脱ぎ慣れているのは、それだけ繰り返してきた手口だからだと考えれば矛盾はない。
「取り敢えず出てってもろて」
「やだやだ!ねぇエッチしても良いからさ、身体だけの関係でも良いから捨てないでぇ!」
「闇に染まった発言をするな」
そもそも捨てる以前の話である。発言が闇そのもの過ぎて、こっちの方がドン引きである。
そこまでクズいことはしたくないので、是非縁のある人と幸せになって欲しいね。
「お願いお願い!せっかく更斗くんと会えたのにお別れなんてやだよ!」
「えぇ……そんなこと言われても」
そもそもお前誰やねんという話である。名前を知ったばかりだぞ。でも、美人局にしては突撃役の男が入ってこない。
そういえば、鍵はどうしたのだろうか?閉まっていたことは確認したのだが、今更ながら気になってしまった。
「そういや、鍵は?」
「ほぇっ、鍵?開けてないけど……私には関係ないし」
「え?」
じゃあどうやって入ってきたというのか。関係ないというのも意味が分からない。
もしかして本当にお化けだとでもいうのか。それにしてはちゃんと実態もあるし、触れれば体温もある。もちろん触れてるのは肩ね、決して変なところは触っていない。
「その辺は追々知って欲しいかな。多分、いきなり言われても理解できないと思うから。まともな神経してたら、納得できないよきっと」
「さいですか」
急に冷静になられてしまい、こっちもスンとしてしまう。
なんか、上手いこと流されたような気もするが、考えたら負けか。