二話 目前のメリーさん
メリーさん(仮称)から電話があった翌日、俺は馬鹿らしいと思いながらも、それでも一応犯人を見つけるために友人に話をしてみる事にした。
「なんだそれ、オメーも変なのに絡まれたな」
一通りの話を聞き終えた友人が、なんとも言えない表情でそう言った。
内容が内容だけに、ちょっと恥ずかしいぞこんにゃろう!
「本当だよ。それで、心当たりとかない?俺の番号を勝手に教えたヤツは」
「ねぇよ。探してみるけど期待すんな」
こちらから言わずとも探してみると言ってくれる彼は、俺の友人である北島 彩斗だ。
しかし心当たりはないときたか、当然だが困ったもんだ。
「メリーさんねぇ……あんなしょうもない都市伝説、マネしたって信じてくれねぇだろうに」
「だな。そもそもどうやって家に来るんだって話だ」
俺だってまさか家に来るだなんて信じちゃいない。こんな子供だましの悪戯なんて、二度として欲しくないもんだね。
結局、学校にて彩斗以外の友人たちに昨日の話をしてみたところ、おかしいねーくらいにしかならなかった。
その反応も当然だ。傍から見れば俺は頭がおかしい奴だろう。
俺の携帯の履歴を見れば、確かにあの時刻に非通知の不在着信が三回と、着信の履歴が一つだけあった。
とはいえこれだけでは証拠にならないので、今度は録音をすることにした。向こうから名乗ってくれれば十分証拠になるしな。
俺が受けた電話を周りにきちんと知ってもらい、ついでにあの声を知っている人を見つけよう。
そうすればもしかしたら犯人を見つけられるかもしれない。そしたら親にはきちんと叱ってもらおう。
もし大人になってからもこんな事していれば、迷惑極まりないからな!それまでには更正して欲しいものだ、不良娘め。
そんなことを考えたその晩、昨日と同じ時間にまたも非通知で電話がかかってきた。マジかよ。
勘弁してくれと思わず呟いてしまうが、また何度も電話がかかってきても迷惑だと思い、スマホをスワイプして着信に出る。
「はい、もしもし」
『もしもし、わたしメリーさん。今隣の県にいるの』
ため息が出た。
昨日聞いた細く儚い女の子の声が、酷く曖昧な自己申告をしてきた。隣の県って東西南北のどれだというのか。だが、その真偽はどうでもいい。
「なんでもいいからこんなこともう辞めろ」
『えー、やだよぉ。だって更斗くんに会いたいもん』
「あぁ?なんで俺の名前知ってんだよ」
『えへへ、内緒♪』
「うっざ」
なぜか妙に感情豊富なメリーさんにイラッとしてしまう。しかし、余裕ぶっこいていた彼女だ、俺の言葉を聞き流すに違いない。
『ごっごめんなしゃい……』
「なんでしゅんとしてんだよ」
聞き流すどころか受け止めてしまった。少し涙声になっているせいで、肩透かしを食らってしまう。煽るなら落ち込むなよ。
『グスッ……えっえっとね、来週くらいにはそっちにいくからね、バイバイ』
「えっおいちょ──」
──待て、と言う前にがチャリと切られてしまった。どこまでも自己中な奴だ、親の顔が見てみたいね。
しかし、隣県にいる知り合いなどいただろうか?少なくとも思い当たる節はない。
明日か明後日には移動を始めるということだろうが、勘弁してくれ。
そんな電話のあった翌日、彩斗に昨日の録音を聞かせてみた。神妙な表情で聞き終えた彼は、顎に手を当てながら口を開く。
「知らねぇ声だな。随分カワイイ感じの声だけど、マジで心当たりねぇの?」
「あったら聞いてねぇよ、なんのために聞かせにゃいかんのだ」
「いや、自慢とか?」
「なんの自慢だ」
確かに可愛げのある声だけど、それを自慢するとかあれか?俺には可愛い知り合いがいるんだぜって話でもすんの?
もちろんんなわきゃーない。俺は隠すタイプだね。
あれから数日が経過し、夜に必ず一回電話がかかってきた。こ存じの通りメリーさんですねウザッてぇ、良く分からん奴からかかってくる電話だが、遂に隣町まで来てしまった。
電車で来るにはゆっくりなので、まさかとは思うが歩きで来ているのだろうか?
「んで、今日か明日にはメリーさんが来ると」
「多分な」
一学期最後のHRを終えて、彩斗に話をする。もはやどこか楽しそうにしている彼であるが、こちらとしてはたまったものではない。
「しかし、更斗のとこに来てどうするんだろな?お前まさか、人形とか捨ててねぇだろうな」
「そもそも人形自体ずっと持ってねーよ」
強いて言えば、大分昔に持っていたくらいだ。物心付いたときには手放したが、それだって捨てた訳じゃなく、幼馴染の女の子に譲ったのだ。
そのことをふと思い出し、あの子は元気にしているだろうかと思ったが、きっと元気にしているだろう。