一話 号泣のメリーさん
皆は知っているだろうか、メリーさんの電話という都市伝説を。
とある少女は持っていた人形を捨てた。
そんなある日に突如、彼女に電話がかかってきたと思えば、ソレに出ると「私メリーさん、○○にいるの」と言ってくるアレだ。
もちろんその「○○」は特定の場所が当てはまるわけだが、段々と近付いて次第に近所までやって来る。
最終的には自分の後ろにやってきて話が終わる。その後のことは言うまでもないだろう。
なぜいきなりそんな話をしたのかというと、それは今の俺─汐丸 更斗に大きく関係するからだ。
それはある日の夜、趣味であるゲームを終えて、そろそろ寝ようかと思っているところ、俺のスマホに電話がかかってきたのだ。
非通知設定だったので怪しく、三度は無視していたのだがそれでもけたたましく鳴り響くソレにいい加減ムカついて、相手にガツンと言ってやろうかと思ったところだった。
「うるせぇ!今何時だと思ってるんだ!」
電話に出た俺は、そう思い切り怒鳴った。
今日は両親ともに夜勤なので、多少うるさくても問題はないのだ。
『ひぅっ、ごめんなさっ……』
「???」
電話の向こうから聞こえてきたのは、まるで少女のような細く儚い声だった。
迷惑行為に反してあまりに可愛らしいその声に驚き、押し黙ってしまった。
『あっあの……私、メリーさん』
「???」
押し黙った俺に追い打ちを掛けてきたその言葉に、今度は困惑に包まれる。
そんな俺を他所に、彼女は言葉を続けた。
『今からその……あっあなたの所に行くから……』
「……は???」
『うっ……』
こんな時間にいたずら電話をしてきた挙句、メリーさんの電話という都市伝説のモノマネとは、随分と不真面目というか、不良なんだなと思った。
当然だが怪しさ満点であり、不機嫌な声を出してしまうのは、宜なることだろう。
『あうあう……あなたのっ、所にっ…ヒグ…行くからぁ……グス、待っててぇ……』
ついに泣き出してしまった彼女に、少し申し訳ない気持ちに……なる訳ないだろ!
残念だが俺は狭量なので、こんな下らない悪戯を、しかも夜の十時という遅い時間にされて思いやることができるような人間ではない。もう寝るんだよ眠いんだよバカ。
「待たねぇよ来るな。つーかアンタ誰なんだよ。誰から番号聞いたんだ?あ?」
だいぶ冷たいというか、ササクレ立った物言いなってしまったろうが、それでも時間的に迷惑極まりない行動にしっかり灸を据えてやる。
『わっわたひメリーさんなのぉ……ううぅ…グス』
「はあ?マジで言ってんのかアンタ。そんな日本語ペラペラだってのに?んで俺の番号はどこで聞いた?」
『グひぃ……グス、ばんごーわぁ…グス…知ってたのぉ……』
グズグズしながら知ってたという荒唐無稽な話をしている彼女に、更にイライラが募る。
泣くくらいならこんないたずら電話などするなと。
「知ってるわけねぇだろテメェ!泣くくらいならこんなバカな事してんじゃねぇよ!今何時だと思ってやがる!もう寝る時間だよ!さっさと寝ろ!」
『ひいいぃぃ……ごめんなさいぃ!うわぁぁぁん!』
眠気とイライラ、そして強い不愉快感に情けなくも声を荒らげてしまったことで、彼女はついに電話越しに号泣である。
やり過ぎたかもしれないと思わなくもないが、それでもこんな悪戯をするべきではない。
俺の周りにメリーなどという名前の知り合いはいないし、俺の通っている学校にもいない。
これでは犯人も分からないが、ここまで泣き叫んでいるのならきっと反省してくれるだろう。
同じことをしなければなんでもいいさ。
「はぁ……とにかく、もう遅い時間なんだ。アンタももう寝ろよ。暑いんだからしっかり水分補給して、涼しくしてから寝ろよ。いいな?」
電話越しにピーピーと泣き叫んでいる彼女にそう言い残し、俺は電話を切った。
これからこっちに来るって?そもそも何処からだよ。
もし学生だと言うのならもう少ししたら夏休みだ。まだあと数日はある訳なのですぐにこちらに来ることは出来ないから、休みに入ってからこっちに来るんじゃないのか?
" 今から " 俺のところに来るって、まさかとか思うが学校をサボるのだろうか?
まぁあんな子供の悪戯に本気にしても仕方ないかと、俺は考えることを止めて寝ることにした。