表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/14

13.夢か幻か。まさかまさかの一発逆転……負け?


 それに気づいたのは、9月月半ばのとある夜。

 久しぶりに嵐のお勉強でもしようと、ノーパソを眺めていた時のことだった。

 妻は先に寝てしまっている。俺は、妻にはお値段内緒で購入したイチローズモルト秩父2017のオンザロックを舐めながら、ネットの記事をポチポチと漁っていた。


 すると目に付いたのが、

『今回の嵐アニバーサリーツアー「5×20」のチケットは、ファンクラブに入らないと買えない』

 という見出し。


 はいはい知ってます。と思いながら、その文面にそこはかとない違和感を憶える。

 はてな、何が引っかかったのだろう? と自分で自分に首を傾げつつ、もう一度その見出しを読み返してみる。

 でも、特におかしな点は見当たらない。

 嵐コンサートのチケットは、ファンクラブ会員でないと購入できない。そのことは妻や紗胡から聞いていたので、俺も知っていた。以前からそうだったよね。

 じゃあいったい……。ん?


『今回の』

 今回? いつもそうなのに『今回の』とは? それはどういう意味でしょう?

 なにやら得体の知れない不安を胸に、記事を開く。

 ズラリと並んだ注意事項らしき箇条書きを、上から順番に読んでみる。

 すると……。


『チケットを購入するためには、ファンクラブ加入が必須になりました』

 はい、知ってます。いつもそうですよね。

 で、以前からそうなのに『なりました』ってどういう意味?


『また、チケットを申し込む人だけでなく、同行者もファンクラブの会員である必要があります』

 ……なんだと?


『チケットの応募は2枚まで』

 はあっ?!


『代表者・同行者のいずれか1回のみ応募ができます

 代表者・同行者それぞれ1回ずつの応募は不可ですのでご注意下さい』

 ちょっ!!


 待て待て待て。

 なにこれ、一体どういうこと?

 同行者も会員じゃなくてはダメとか、2枚までとか。

 妻と娘は以前からファンクラブの会員だから何の問題もないとして、じゃあ俺は?!

 会員じゃないし! 3人目だし!


 いやいや落ち着け。もっとよく調べてみよう。

 と、他の記事を探してみる。

『嵐 5×20 チケット購入』と。ポチッ。


-某ブログ-

『ファンクラブ会員以外は購入できません』

 うむ。

『これまでは会員でなくても「同行者」として申し込みができましたが、追加公演は非会員は「同行者」でも申し込みができません』

 まさか……。


-某まとめ-

『追加公演はファンクラブ会員のみです。同行者の分も申し込む場合、同行者も会員である必要があります』

 そんな……。


-某嵐ファンのためのお役立ちサイト-

 ううっ、お役立ち情報が多すぎて目的の記事が見つからない……。

 あった。『申し込み開始しました』

 って、すげっ! 申し込みの手順や注意点が画像付きで事細かに解説してある。こりゃあ正しくお役に立つな。

『会員1名義につき申し込みできるのは2枚まで。これまでドームツアーは4枚申し込みでした』

『代表者:会員。同行者:会員のみ。非会員不可になりました』


 ええーっ!!


 このお役立ちサイトは、情報量が多く記載内容も的確。お困り質問メールにも懇切丁寧に回答している。

 かなり信頼のおけるサイトと見た。

 ならばやはり間違いないのか。だとしたら、俺はいったいどうなってしまうのだろう。


 明日の朝、妻に確認してみるか。



―*―*―*―


 そして、次の日の朝。


「あのさ」

「ん?」

「嵐のコンサートだけど」

「うん」

「俺の分のチケットって、あるの?」

「え、ないよ。なんで?」


 なんでって……。


「だって、チケット3枚あるから一緒に見ようって言ってたよな」

「言ってないよ。一緒に行かない? とは言ったけど、見ようとは言ってないよ」


 俺は額に手を当て、眼をつぶって半年前の会話を思い出そうと試みた。

 いや、確かに言ったはずだ。だって第一話にちゃんと書いてあるもん。


「一緒に見ようって、言ったよね?」

「言わないよ。チケットないのに言う訳ないじゃん」

「チケット3枚あるって、言わなかった?」

「言わなかった。2枚しか買えないのに言う訳ないじゃん」


 つまり、半年前の時点でチケットが2枚しかないことは確定していたのだから、第一話のような会話をすることは物理的に不可能だったということか。

 ならば、妻の言う事は嘘も間違いもなく全面的に正しい。

 とすると、あの会話はなんだったのだろう。

 その時、俺の脳裏に第8話の妻の言葉が蘇った。


『ほんとにもう、人の話を全然聞いてないんだから。あなた、いっつもそうだよね。こないだだってさ、私があんなに……』


『あんなに…あんなに…あんなに……』と、妻の声が耳の奥にこだまする。

 そうか、俺がこいつの話をロクに聞かず、勝手に勘違いして、勝手に脳内で会話をでっちあげていただけだったのか。

 俺の……馬鹿……。

 やっと合点が行った俺はがっくりと肩を落とし、「はあ」と溜息を吐いた。


 それを見た妻が、心配そうに顔を覗き込んできた。


「あの……もしかして、見たかった?」


 そう聞かれてハタと気付く。そう言えば、大して見たかった訳じゃなかったな、と。


「いや別に」

「なら良かった」

「うん……」


 と頷いた俺を、どうか皆さん罵って下さい。

 半年もの長きにわたりこの投稿を楽しみに読んで下さった読者の方々の期待を見事に裏切ったこの俺を、呪い殺して下さい。


 申し訳ありません!

 私は、嵐アニバーサリーツアー「5×20」IN札幌を見ることが出来ません!

 札幌ドームの未知なる扉は俺の前に開かれませんでした!

 これを皆さんに報告するかどうか、この2ヶ月間ずっと悩んでおりましたが、今ここに、全てを告白します!

 という訳ですので、この連載も今回で終了!!



 とはいきませんですよ。

 いくらなんでもね、このまま何もせずにお終いだなんて無責任なことはできません。

 コンサートは見られなくても、会場の外までは行けるはず。グッズも買えるかどうかすら怪しいですけど、可能な限り一歩でも嵐様に近づいて、現場の雰囲気だけでもレポート出来ればと思っています。


 本番は3日後。

 アラフィフおやじの悪あがきを、どうか最後までお楽しみあれ。




 ちなみに、ファンクラブ会員であることは間違いない会社の若手女子のシーちゃんに、この事を報告したら。


「はあっ?! 部長ったら、会員でもないのにコンサートに行こうとしてたんですか?!

 あり得ない! 信じらんない!

 そんなの無免許で車を運転するのと同じじゃないですか!

 犯罪ですよ!!」


 と、死ぬほど罵られました。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ