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怪物から離れたい  作者: 胡蝶 蘭
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第八章 私と岩と守り木と・・・

昨日で、今年の学校は終わった。

今日から 冬休み が始まる。


12月23日、土曜日。

図書館は 年末とお盆、そして毎週月曜日が休館 になる。


もうすぐ、年末のお休みになってしまう・・・


しずくにとって、図書館は 家にいたくない時の逃げ場 だった。


和流まると出会う前の雫には、家の中に 自分の居場所 がほとんどなかった。

だから、学校が休みの日は、できる限り図書館へ足を運んだ。


それでも、休館日になると家にいるしかない。

部屋から ほとんど出ることなく、息苦しさを感じることも多々あった。


特に夏と冬は、つらかった。

春や秋なら、まだ外に出ても過ごしやすい。

でも、夏は 灼けつくような暑さ、冬は 凍えるような寒さ。

どちらも、外へ出ること自体が 苦痛だった。


・・・そんな時。

雷武神社を見つけ、お参りするようになった。

それから少しずつ、雫の心は 軽くなっていった。


夏の猛暑の日も、神社の境内は緑が多く、吹き抜ける風が心地よかった。

日陰も多く、息苦しい暑さを感じづらい。


そして何より・・・


家にいる時のような、あの息苦しさを感じずにすんだ。

それが、一番大きかった。


かえでは、休みの日 いないことが多かった。けれど、家にいる時は ねちねちと文句を言ってくる。


両親や祖母とは、何日も 顔を合わせないのが当たり前 だった。


でも、たまに顔を合わせると 『楓に聞いたんだけど……』と、小言を言われることも多々あった。

小言を言うのは、いつも 母か祖母 だった。


父は違った。

父は、何も言わなかった。


……そもそも、家にいるのか、いないのかすらわからない。


もしかしたら?

もう、父は私の顔を忘れているかもしれない。

いや、きっと、存在自体を忘れているかもしれない……

こんな日が続けば、私も父の顔を思い出せなくなる日が来るだろう……


そのくらい、父とは顔を合わせなかった。


生きているのか?

死んでいるのか?

いや?死んではいない・・・か!

そもそも、この家に帰ってきているのだろうか?

そんな疑問を抱くほど、父の姿を見ていない。

こんな家の人たちが、自分の家族……なんだろう……


この家にいると、息ができない……


そんな風に思っていた時、雷武神社と出会った。

そして……和流と、和流の家族に。


いつものように、

雷武神社らいぶじんじゃ香取剣社かとりけんしゃ岩鉄静流社がんてつせいりゅうしゃ

と、順番にお参りをする。


その後、


最後に向かうのは、私が 『磐長姫命いわながひめの守り木』 と勝手に呼んでいる、あの 大岩とクスノキ のもと。


それが、私のルーティーン。

何よりも——

『磐長姫命の守り木』を、下から見上げる瞬間が一番好きだった。


大きな 岩 と、それを守るように立つ クスノキ。


まるで、私を優しく見守ってくれているようだった。


『私は、あなたを見守り、ずっと動かずにここにいる』


『辛くなったら、ここに来ればいい』


『頑張れ』


風で揺れる葉。

葉の間から差し込む木漏れ日。雨の日は、優しく水をはじいてくれる。


それらを見ていると、まるで 木と岩が語りかけてくれるような気がした。

ざわついていた心が、静かに落ち着いていく。


そして、ほんの少し……安らぎを感じるんだ。


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