94・プロポーズ?
どうして?どうしてそんなことを言うのだろう…エルバリンに一緒にだなんて!
困惑しながらルシードを見つめると、私よりも早く反応したのは、当然というかお父様で…
「あの…ルシード殿下は、うちの娘とはどういう…」
──ち、ちょっとお父様?ルシードとは、どうもこうもないわよ?正真正銘友人ってだけです!そんな誤解をされて、他にも同じように思ってる人がいるんじゃないの?と、ルシードをちょっと睨んだ。それにルシードは微笑んで…
「すみません、誤解を与える言い方でしたね。私はアリシアを凄く買っているのですよ。こんなに行動力も勇気もあって頭脳明晰な令嬢など、他にどこにもいないですからね。エルバリンに来て私を補佐してくれるのなら、何でも出来そうな気がするのです…それこそ何だって!」
そ、それはちょっと、買いかぶりし過ぎない?何だって…って、何するってーのよ?それこそ国を上げての重要な事業とか?帝国に次ぐ国にと、のし上げちゃったりするわけ…そう思ってくれてちょっぴり嬉しいけどさぁ。
「確かに卒業後、結婚して子を生み育て家門を守るのも大事でしょう…でもアリシアなら、その前に彼女しか出来ないような、大業を果たせる気がします!」
大業…どんだけ大きなことをするつもりなのよ?そんなに大風呂敷広げるのはヤメて~だけど皇帝陛下もお祖父様も…お兄様だって、ウンウン頷いて納得顔だわ!まさかお父様は違うわよね?と隣を見ると…難しい顔をしている。う、うん?
「それはどういう意味なのですか?うちの娘を側近に…ということなのでしょうか。それならば私は、可愛い娘を行かせる訳には…」
お父様!可愛い…っていうのが、ちょっと照れくさいけど、そう言ってくれて少し安心した。お父様は反対なのね?と。
「プロポーズです!」
「プロポーズだとぉ~」✕アリシアと仲間たち
前から突拍子もないことを言うタイプだと思っていたけど、これはちょっといきなり過ぎませんか?
「ち、ちょっとルシード?いくら何でもそれは違うんじゃないかな。まさかそんな意味だとは…」
「びっくりしちゃった?だけど私は本気なんだ。君は王妃に向いているし、君とだったら良い国を造っていけるだろう。どうだろう…少し考えてくれないか?」
何故か途中から公開プロポーズ…みたいなことになってしまって、事件の報告そっちのけの様相を呈する。まあ、報告は全て終えてからだったからいいけど…
「行きません!」と返事したかったけど、ルシードは「返事は考えてからでいいから!」などと言い、そのまま有耶無耶のままその報告会は終わる。だけど私って、そんなイメージなの?と…
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「それでアリシアちゃんはどうするの?エルバリンに留学しちゃうってことなのかしら…」
その報告会から三日経ち、今日は放課後、ルーベルト邸に皆で集まった。叔母様がまた夕食を共にと誘ってくださったんだけどね。いつものように和やかな夕食を終え、それからリビングでお茶をいただいていた時、ルシードからのプロポーズの話になって…
「ええーっ、アリシア行っちゃうの?そんなの寂し過ぎるわよ!」
「まだ卒業まで、一年以上あるのよ?嘘でしょう…」
「絶対反対~!」
そうなるとは思っていた。もちろん私もお断りするつもりでいるし、だから皆んなには敢えて言っていなかったんだけど…それに苦笑いしながらそう伝えようとする。
「アンドリューは、何か言うことはないのかい?」
いきなりそう言ったのはお兄様だ。今日は私達が来るというので、お仕事を早めに切り上げて帰って来てくださった。キャロラインによると、毎日とっても忙しいらしくて家に帰り着くのも遅い時間になるって。それでもキャロラインとの時間を大切にしていて、アロワ邸へと送って行く馬車の中だけが二人の唯一の楽しみだったり…そんなの酷いわ!もうルーベルト邸に住んだらどうかしら?叔母様達は、大歓迎だと思うけど。そういう訳にもいかない?
おっと、いけない!またまた思考がトリップしちゃったけど、お兄様…それはどういう意味なの?アンドリューが…って言ってたけど。それにルシードの話を言い出したのもお兄様だったわね?
そう不思議に思ってチラッとアンドリューを見ると、いつになく真剣な面持ちで俯いている。どうした?と心配になり見つめているとスクっと立ち上がって…それからアンドリューは、私の前までやって来る。こ、これは…もしや?
ここにいる皆が一言も発せず黙り込む中、アンドリューは私をじっと見つめて片膝をつく。その顔にはまだ、生々しいくらいの赤い傷が見える。だけどそれが気にならないくらいの、真剣な眼差しにドキドキして…それに、いつの間にこんなに大人の男性になったんだろう。
女性的な可愛さは影を潜めて、顔の輪郭は太くなり私へと差し出す腕は筋肉が盛り上がり血管が浮き出ている。誰がどうみても男の人のそれで…私は自分で自分に、落ち着くようにと指令を出して…
「アリシア、もう気付いていると思うが僕は君が好きだ!いつからなんて分からない、気付いたらもう好きになっていたんだ。僕は伯爵家の次男で頭だって君より悪いよね?だからルシードよりも君に与えてあげられる物が少ないだろう。それに泣き虫だし身体の線もまだまだ細くて、頼りないと思っているだろうね?だけど…想いだけは誰にも負けない自信があるんだ!この手を取ってくれないか?この先ずっとアリシアと過ごす…そんな毎日を僕にくれない?」
そう言って薄く笑って、手を私の方へと差し出すアンドリュー。だけどその手は緊張してか、小刻みに震えている。不安なんだろう、唇も青ざめていて…だけど私の気持ちはとっくに決まっている!
「ありがとう…喜んで!」
そう応えてアンドリューの手を取ると、わぁーっ!と皆んなが抱き着いてくる。ち、ちょっと!余韻を楽しませて?そう思うけど、嬉しいからいいわね。やっとアンドリューは、申し込んでくれた。正直言うと、ここのところずっと待っていた。今回はお兄様の力を借りて…のようなものだったけど、感動したから大成功よ!もう私からプロポーズしちゃおうかと思ってたわよ?それはそれで私らしいかもね!
またまた私達は揉みくちゃになりながら、笑って泣いた!これからもずっと、こうやって過ごしていくのだろうと…
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