93・あの日の顛末
「ああ、アリシア!その豪胆さで、実年齢を忘れてしまいがちになるが、まだ十七だものな…さぞかし怖かったであろう。今日はよく来たな!」
「おはねきひたひゃいて、はりがほうごひゃいます!ほのたひはぁ…」
今日は本当に久しぶりに皇居に来ている。私の全快を期に、皇帝陛下は関係者全てを招いた。あの事件の顛末を報告したいと…。学園に再び通い始めて一週間が過ぎた。心配していたような後遺症はなくて安心したけど、ただ一つ…あれからルーシーはまだ姿を見せていないのだ。実の父親ではないが、ルーシーだってバーモント子爵家の一員。その責を問われてしまうのだろうかと、ずっと気にしていたから。だから今日は、全てを話していただきたいと、お父様と一緒にやって来たんだけど…皇帝陛下は元気になった私を見るなり、直ぐに近付いて来られて抱き締めてきて…。厚い胸板にぎゅっと顔を押し付けられているので、何を言ってんだか分からなくなっている。まあ、とっても光栄なことだけどね!
「陛下、我が孫娘が押し潰されてしまいますので…」
「おっ、すまん、すまん!」
お祖父様がそう言ってくださり、解放された私はプハッと息を吐いて。く、苦しかったぁ~
「改めまして…この度は私の勝手な行動により、ご心配をおかけしまして申し訳ありませんでした!それに私を救出する為に、近衛騎士団まで出動していただき…感謝の言葉もございません!お陰様をもちまして、やっと心身ともに傷が癒えましてございます!」
そして陛下と隣におられる皇后様、そしてロウブルグ宰相様に向かって深々と頭を下げる。
「無事で本当に良かったわね。それに元気になって安心したわ!」
皇帝陛下だけでなく、皇后様もそう言って優しい微笑みを向けてくださっている。そのことに、本当に申し訳なさと感謝で…
「本人も今回のことでは、大変反省しておりますのでどうかお赦しを!アリシアが伏せっておりましたもので、その後どうなったのか把握しておりません…。ずっと気になっておりましたが」
お父様は私の不始末を詫びると共に、そう言って説明を求める。そして私もいつもは必ず陛下の側で控える、ジャックマンの姿も見えないことに不安を覚えて…
「まず、密輸に関わっていたグァーデン伯爵は国境近くで確保した。バーモント子爵とモルド公爵と国境前で合流して、エルバリンへ脱出する手筈だったようだ。その時の為に人質にしようと狙ったのがアリシア令嬢だった」
ロウブルグ宰相がそう報告する。私はグァーデン伯爵とは面識がなかったので、どうなったのかと心配だった。一人だけ逃れてしまったのかと…恐らく、金目の物を掻き集める為に別行動だったのだろう。この帝国を出るとなると、二度と帰っては来れないだろうから。それから私への拉致監禁に関わった者達は…どうなったのかな?
「ご存知のように、あの密輸拠点にてバーモント子爵とモルド公爵、手下の者達は全て捕らえてあります。モルドはエルバリンに送還された後、向こうで処罰を受けることになるでしょう。そして首謀者のグァーデン伯爵家は取り潰しの上、伯爵本人は処刑と決まりました。そしてバーモント子爵ですが…」
ここまで宰相が説明したところで、皇帝陛下が手を上げてそれを遮る。そして…
「ここからは私から話そう。アリシアの一番知りたいことだろうからな」
そう言って私を見つめる皇帝陛下に、私は大きく頷いて顔を向ける。ルーシーはどうなるのだろう…それに夫人やまだ子供の弟も。どのような罰が!?と胸がぎゅっとなる。
「バーモント子爵家はもちろん取り潰し。そして家族も無事ではすまない…夫人と娘は修道院送りになり、実子の男子は国外追放。だけど幼い子供を一人国外に出すのは、死ねと言うのと同じだ。だから…バーモント子爵と取引きをした。夫人と今直ぐ離婚する代わりに命だけは助けようと」
ええっ、取引き…では既に、夫人は離婚済みなの?ということは…ルーシーは、バーモント家の令嬢では無くなった…ってコト?
「これには侍従長を長年務めてきたジャックマンの希望もある…。私も相当世話になっているし、たっての希望だ…一つくらい叶えてやりたいと思ったのだ。それでバーモントは身分剥奪の上、炭鉱送りとなった。一生そこからは出ることは叶わないだろう。それで…いいかな?アリシア」
それには何度も頷きながら、涙が流れる。修道院に送られるのは命があるだけいいと思わなければならないが、こんなに若い身で自ら選んだ訳でもない状態では、どんなにか辛いだろう…一切の自由もなくなって。そうならなくて良かった!それにルーシーと手を繋いでいた弟のことを思い浮かべるけど、二人は姉弟として仲が良さそうだったもの!ああ、本当に良かったわ…
「今はバタバタしているが、後にジャックマンから伝えたいことがあると言付かっている。アリシア…その時は、事の次第を聞いてやって欲しい。そしてアリシアの疑問も全て、その時に解けるのではないかと思うぞ?」
そう言って笑う皇帝陛下は、ジャックマンがルーシーの父親であることを知っていたのだろう。きっと昔離婚したことだって、何か事情があったことも…。そうでなかったら、こんなに近くで人知れず見守っているなんてことは、しなかった筈だもの。そしてその時にはきっと、ルーシーとジャックマン二人で現れるのではないかと思っている。
そうホッとしているところで、スッとこの場に現れたのはルシード。この先はきっと、自分への暗殺事件のことを話してくれるのね。そしてそれが解決して、どれだけ気が楽になっただろうと…
「モルドはエルバリンにて裁かれることになります。だが証拠が充分にあり、極刑は免れないでしょう。それに私に対する毒殺未遂ですが…王妃のスパイであったマクスウェルがもしもの時にと証拠を残しておりました。それによるとこの一件にもモルドと王妃が関わっているのが分かりました。もう既に王妃はその座を降ろされ、王によって幽閉されています。元の身分と第二王子の母ということで死は免れ、これからの一生を離宮で過ごすことになるでしょう。それと弟ですが…自ら望んで、王子の身分を離れることになりました。母親の犯した罪に対して責任を取るようです」
それにはホッとした!あの嫌な男、マクスウェルが死んだとは聞かされていたけど、どうやって証明するのかと心配していた…きっと自分が切り捨てられる時があったらと、証拠を持っていたんだろう。ああいう人種は結局、人を信用することなど出来ないから…だけどそれで万事決着ね!
「それからアリシア…私はエルバリンに帰国することにした。祖国が今回の件で不安定になっている。だから…早期に卒業することになったんだ。せっかく仲良くなったのに、皆んなと離れるのは残念だけど…」
ええっ…早期に卒業?でも…それがいいかも知れないわね。エルバリンの王妃が罪を問われ、一人の王子去り、そして公爵家が一つ潰れたのだもの。国民には不安が広がっているだろう…それを解決する能力がルシードにはあるし、きっとお父様であるエルバリン王と共に、立て直せる筈だわ!
「本当に残念だけど…また落ち着いたら是非、遊びに来て!」
そう笑顔で伝える私にルシードは…
「それでアリシア…君、エルバリンに来ないか?というか、是非一緒に来て欲しいんだ!」
「な、何ですって?それってどういう…」
この場にいる全ての人が、バッとルシードを見つめる。私はその意味を想像も出来ずに唖然としてしまって…
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