91・貴族の責務
「うん、ロ…」
ああ、喉がカラッカラだわ…だけどフカフカだし温かい!いい匂いもするし…
「お嬢様が私を呼んでます!ロッテって…」
「いや…俺だろ?ロメオって言ったんだよ」
ロッテにロメオ!無事だったのね?本当に良かった…
「もうあれから、三日も目を醒さない!もう一度医者を呼ぼうか?」
この声は…お父様!私、家に帰って来たのね?嬉しい…
「旦那様、何度呼んだって同じですよ。それよりもゆっくり休ませてあげないと。頭の傷も縫わずに済みましたし、本当に良かったです!お嬢様の頭にコイン禿ができちゃったら…と気が気じゃなくてぇ!」
うん…頭?ハゲって…失礼ね。だけど縫ってないなら、治りが早くて有り難い。だけど…アンドリューはどうなったかな?縫うことになったんじゃないかな…。起きなきゃいけないんだけど、まだ目が開けられないわっ。
「旦那様、今日も皆さんがお見舞いに来てくださいますよね?ホント毎日来てくださって…」
「アリシアの親友達だろ?いつも悪いな…目覚めてもいないのに」
ええっ、毎日来てるですって…放課後見に来てくれているってこと?どんなに心配を掛けているんだろう…それに皆んなに会いたい!もう、起きなきゃ…
「お、お…とう…さ、ま」
そう掠れた声で呼び掛けると…
「アリシア!起きたのか!?」
それにワッ!と皆は私の周りに集まって…
「お嬢様…良かった!もーう、心配しました~」
「はぁーっ、お嬢様…あんまり心配させないで下さいよー!」
ああ、元気そうな顔を見ることが出来て本当に安心した…ロッテはもう頬の腫れは引いたようでいつも通りだし、ロメオは腕に一箇所だけ軽い傷が残っているだけ。あの時はどうなってしまうのかと思ったけど…
そしてお父様の顔を見ると、涙を流しながら私を見つめている。どれだけの心配を…と苦しげに見ていると…
「アリシア、よく聞きなさい。こうやって無事に帰って来れて良かったが、一歩間違えれば死んだって不思議ではなかった。おまけにお前は自分だけでなく、使用人達の命まで脅かしてしまったのだぞ?それは貴族としてあるまじき行為だ。我が家門の使用人として雇っている以上、貴族として皆を守る責任を負う!」
お父様は安堵の涙を浮かべながらも、私に貴族としての責任を説く。それにロッテやロメオは慌てて…
「旦那様!お嬢様は気付かれたばかりですから…」
「そうです!それは元気になった後にでも…」
そう言って私を庇う発言をする二人に、厳しい表情でフルフルと頭を振って…
「いや、今だから言うのだ。使用人達はお前の命令を断れると思うか?実際断れないだろうな。お前の間違った判断で迷惑を受けるのは誰だと思う?今回はこれで済んだが…この次はないぞ!それを肝に銘じなさい」
それをまだ呆っとしている頭で、それでもしっかりと聞いていた。それ程大事なことだからだ…私は心に刻んだ!もうこれからは間違いを犯すまいと。そして何とか身を起こしながら…
「はい。肝に銘じます!今回は本当に申し訳ありませんでした」
そんな私に三人は、わぁ~っと身体を支えて…
「結局は、お嬢様が無事ならイイってコトです!」
そして私達は、泣きながら笑い合う。お互いの無事を喜びながら…
「それにしてもですよ!お嬢様…ロメオさんがあの時、両手の指の間全部に小刀を挟んで、ビューッと投げるんですよ。それがまた百発百中で!ロメオさんは執事を辞めても、大道芸人で食べて行けますよ」
「俺、辞めませんからね~」
おおっ?そんな技を!すっかり有耶無耶になってたけど、あの裏地は何だったのだろう…あんなところに武器を収納出来るだなんて!ロメオも元騎士ということしか知らないけど、なかなかハードな人生送って来てそう…
「それを言うならロッテもあの時、グーパンチで目潰ししようとしてましたよ?不発でしたけどね~」
「あれは相手が悪かっただけよ!決まれば効果抜群なんだからね?」
そんないつものように騒がしい我が家にどこか安心して、フフッと微笑んだ…今回の件では物凄く反省点も多いけど、得るものだって多かった筈。そう思っていると…
「旦那様、お嬢様のご友人の方々が…」
そんなメイドの声が聞こえて直ぐ、返事をする間もなく部屋になだれ込むように入って来る。
「ア、アリシア!目が覚めたの?」
寝ていたからどのくらいなのかは知らないけど、恐らく一週間くらい?ぶりの再会…なのに凄く前のような気がする。運が悪ければ、もう二度と会えないことだって…
「この、お馬鹿!」
「怖い物知らずなのにも程があるわよ!」
散々な言われよう…だけどいつも通りで嬉しい!そう思った瞬間、皆んなが私目掛けて飛びついてくるもんだから…揉みくちゃになる。ち、ちょっと!私…病み上がりなんですけど?
キャロライン、ブリジット、クリスティーヌは私を抱き締めながら、オイオイと泣く。そんな三人を見ていたら…泣けて来た。そんな私達を優しく見つめながら、フィリップとロブ、ルシードがベッド脇に立っている。良かった…皆んな無事だわ!それから視線を感じて真横を見ると…アンドリュー!
ルシード達と同じように、穏やかな笑みを浮かべながらこっちを見ていた。だけど…その顔には、クッキリとした傷が!右頬に縫ったような5センチほどの傷が、赤く残っている。それには凄く悲しくなって…
「暫くしたら、薄く目立たなくなるって!男の勲章でしょ?好きな子を守ったんだから」
ブリジットがそう言って笑う。きっとブリジットだって心配だった筈だ…私に気を使わせないように、ワザとそう明るく言っている。それにアンドリューは…
「その通りだ!僕はあの時、アリシアを助けようとして傷を負ったことを少しも後悔していない!守れてこの傷を誇りに思っているくらいだ…だから笑って?」
それには精一杯泣き笑いを浮かべ、アンドリューの手を握る。ありがとう…私を救ってくれて。躊躇なく飛び込んでくれて!と感謝しながら…
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