68・初めての役員会
「ハハッ…ハリー、ほら指輪をしまって!無くしたら大変だろ?新役員達がビックリしてるじゃないか…ハハ」
「うん?ディラン様に挨拶してただけなんだが?だって俺が後を継いでから、初めての役員会だぞ。挨拶しなきゃならないよね?」
──ああ、この人…残念な人なんだ。確か、この人も公爵家の出身じゃなかったかしら?
この帝国に三つだけしかない公爵家。キャロラインのところのアロワ公爵家。そしてこのジョーイ先輩のロベルタ家。おまけにハリー先輩のデイビス家だったはず。そんな高位貴族の頂点みたいな人が…こんななの?
会長、副会長が言い合っているのを見つめながら、これはヤバいところに来てしまったんだと思い知る。どうなるの?生徒会…
「それ…もしかして、ディラン先輩の物なんですか?」
唖然と見つめる私達役員メンバーの、沈黙を破ったのはアンドリュー。私はもはや何をする気力もなくて、聞いてくれて有り難いと思う。
「うん?君は確かアンドリュー君だね!ディラン先輩から聞いているよ?」
「えっ…ディラン先輩から!」
もう既に、この二人からは絆が見える。きっと二人にした見えない絆なんだろうな?そして生徒会長は、アンドリューに指輪を見せながら衝撃の告白をする…
「これね、ディラン先輩から頂いたんだ。何でも、スティーブ殿下から学園に入学する時に贈られたみたいだよ?ほら、この宝石はアクアマリンで、先輩の瞳の色だよね~。おまけにルーベルト侯爵家の家門が彫り込まていて。そんな貴重な物を俺にくださるなんて…幸せだ!」
──な、なんか今、聞き捨てならないことを聞いたような~
そういえば、スティーブ殿下もお兄様を尊敬していたわよね?だからきっと記念にと贈ったんだろうけど…それ、あげちゃダメでしょう?そしてよっぽどいらなかったのね…
アンドリューはそれに、「わあ!いいなぁ~」とか言っている。そういう問題じゃないんだけど…。会長も「これほど貴重な指輪をくださったくらい、私を買っていただけたのだろう」と満足そうに言っている。そのやり取りを半ば呆れて二人を見ていると、私の隣を掠めて前に出る人物が!それにはこちらが唖然とする番で…な、何?
その人物とは、クリスティーヌ!いつでもどこでもクールで、だけど私達親友の前では情に厚い面も見せてくれる。侯爵家令嬢という身分や容姿、全てを兼ね備えている割に行動は控えめで奥ゆかしいところがあって…そんなクリスティーヌが珍しく私の前にと出ていることに驚きで!それでどうしたんだろうと見ていると…
──バン!
何故かクリスティーヌが、ハリー生徒会長の頭を思いっ切り叩く。は、はいっ?ク、クリスティーヌどうした…
「痛ぇだろ?クリス~」
ハリー会長がそう言って頭を押さえる。そして何故かクリスティーヌをクリスと言っている…どゆこと?
「お前が変なことを言ってるからだろ?ハリー!み、皆んな気にしないで~。私とハリーとクリスティーヌは幼馴染みだから!大丈夫だからね?」
副会長が驚いている生徒会メンバー達にそう言って、誤魔化し笑いを浮かべている。だから何だって?クリスティーヌがこの二人と幼馴染みだと?初耳…というか、去年学園で会った以前のことは知らないから…
ここでまた先日の皇后様にお会いした時のことを思い出す…あの時、キャロラインとブリジットの気持ちを、本当の意味で思いやれていたのだろうかと悩むことになった。ましてやクリスティーヌ…今まで無茶をする私達の中でお姉さん的存在で、一歩後ろに立って客観的な意見を伝えてくれた。本当はクリスティーヌだって、色々と我慢してきたこともあった筈。だからもし力になれることがあるなら…そう思いながらクリスティーヌの顔を見ると…うん、めっちゃ怒ってるわね?
クリスティーヌはハリー会長を睨みながら、何だかとっても怒っている。これは幼馴染みだからこそ引き出せる顔なのかも?とその貴重な表情を見ていると…
「あれあれ?何だか揉めてる感じかな」
そんな声に驚いて振り向くと、特徴的な菫色の瞳が目に入る…ルシード殿下だ。皆んなよりも少し遅れて着いたようで、この状況は何だろうと不思議そうに見ている。
「これはルシード殿下でしたか。お騒がせしましてすみません!ちょっとだけ幼馴染みとフザケていただけなので、心配には及びませんので…」
ハリー会長は怒っているクリスティーヌから視線を外すと、サッと立ち上がりルシード殿下の前まで来る。そして目の前で一礼してから笑顔を向ける。この人、普通にしてると相当にイケメンなんだけど…残念なイケメンって奴かしらね?
そしてまだ仏頂面のままのクリスティーヌは、私の隣へと戻ってくる。そして…
「今日はよく集まってくれたね!新役員諸君を歓迎します。俺のことは会長と、そしてジョーイを副会長と。その他のメンバーは、全員敬称なしで呼ばせて貰う…これはこの生徒会の伝統なので!学年、身分を問わずそれは同じだ。分かったかな?ルシード」
それに皆は固まる!宣言後とはいえ、いきなり殿下を呼び捨てにしたからだ。これはマズい?そう思って殿下をみると…笑っている!うん…?
「もちろんいいとも!皆んなも気軽にルシードと呼んでくれて構わない。私は三年生で一年で卒業になるから、これは皆んなだけの特典のようなものだね?よろしく頼む」
そう言う殿下に驚いた。この人は…なんて適応能力があるのだろう?エルバリン国は、それほど大きくはないが、それでも帝国の隣に位置する重要な国で…なのに伝統とはいえ、抵抗があるようなことをすんなりと受け入れている。そのことに非常に驚き戸惑った。本人がいいなら、呼んでもいいんだろうけど…
「よろしく皆さん。そしてアリシア、よろしくな!」
何故か一人だけ名指して呼ばれて、他のメンバー達がバッとこちらを見る。それに顔を引き攣らせながら、もうどうにでもなれと、「よろしく…ルシード」と返事をした。
それから一人ずつ簡単な自己紹介をして、初回の役員会は終了する。そして解散になると…
「アリシア、ちょっとこっちに!」
突然ルシードからそう呼び止められ、えっ?と振り向く。するとルシードは至近距離まで近付いてきて…
「役員会に遅れた理由なんだけど…どうも私は、命を狙われたようだ」
私にだけ聞こえるような小声で、そう爆弾を落としてくるルシード。
──はあっ?命を狙われた…ですって?
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