54・恋のバトル?
何だぁ?誰だろうとキョロキョロと見渡すと、居並ぶ人達の中から見慣れた一人が、ヨロヨロと蹌踉めきながら現れる。ああっ!アンドリュー?
そのアンドリューをよくよく見ると、目の下にはくっきりとした隈が!そして徹夜明けの影響で足元も覚束ないようで…
「あれっ、アンドリュー…どうしたんだ?何だか酷い状態じゃないか!それに待った…とは?」
そう反応したのはお兄様だ。もう何度も会っているので仲良しな二人だけど、いつもの元気一杯な姿ではないのをお兄様は心配している。そして私も『待った!』って何?と思いながら見つめて…
そしていつもの倍くらいの時間を掛けてやっと目の前まで辿り着いたアンドリュー。それから初めて会うルシード殿下に、サッと手を胸に当て礼を取る。そんな行動をするアンドリューに、またまた疑問が湧いて…
おやっ、アンドリューは殿下のことを知ってる?流石にあの距離では聞こえてなかったと思うけど?そう不思議に思って見ていると…
「君は私を知っているのかい?それと、あちらのご令嬢とは双子なのかな?そっくりだね。それにしても具合が悪そうだけど…」
殿下も思わずそう言って、アンドリューを心配する。そして肝心のアンドリューは…
「お初にお目にかかります!僕はスコット伯爵家のアンドリューと申します。失礼ですが先程からのやり取り、聞こえておりました…全てを!」
──うそ?聞こえてたって!?だけど物凄く遠かったわよ?それに殿下が私の手にキスをしたせいで、このカフェテリア全体がザワザワしてたし…
だけど待てよ?このスコット家の双子…地獄耳だった!あの距離からも聞こえるなんて…恐るべし!
そんな特殊機能など気にもしていないのか、殿下はそれに「そうなの?」と返事をし、それで何を?と不思議そうにアンドリューを見ている。すると…突然アンドリューは私の手を取り、それから甲にキスをする…さっきとは反対の手に。
──あ、あんたもかい!おまけにどっちの手なのかも分かっててやったわね?耳だけでなく、目もいいのか。だけどこの状況って…何なの!?
いきなり殿方二人に、自分の手をキスされるなんていう非現実的な状況に、驚き過ぎて声にならない叫びを上げる。おまけにアンドリューとは、ずっと仲良くしてきて、ダンスの練習までみっちりしてきた私達が、こんなキスなんて初めてー!どうしちゃったんだろう?とドキドキして。それからアンドリューはお兄様の隣にいるルシード殿下を、真正面から見つめる。
「ルシード殿下、すみませんが僕の方が先にアリシアをパートナーにと誘っています。ですから…諦めていただけませんか?」
いつもの砕けた口調とは違い、真剣な顔と丁寧な言い方でそう言うアンドリュー。その意外に凛々しい横顔を見ていたら、何故か胸のドキドキが増して…な、何かしら?この感情は!
そんな自分の感情に戸惑っていると、今度は私の方へ向き直すアンドリュー。そして…
「どうする?アリシアはどちらを選ぶんだ」
「ええっ…どちらを?」
力無くそう呟いたけど、どうしよう?と思って焦る。目の前のアンドリューはいつになく真剣で、おまけにもう体力が限界なのかフラついている。これは早く休ませてあげなくては!という思いに駆られて…
だけど…アンドリューも分かりにくいわよね?あのお誘いがまさか本気だったとは思わなかったわよ。そうなると、私のパートナーが居ないっていう二ヶ月ほどの悩みって一体何だったの?って気持ちになってくる。ハッキリ誘ってくれれば、こんなに悩まなかったんじゃ…だけど今となっては仕方がないか!
「そうなんですルシード殿下、そしてお兄様。もうアンドリューと約束してしまってますの。お誘いいただいて申し訳ありませんが…」
そう言う私に殿下は、ちょっとだけ残念そうな顔をして「そうだったのか?分かった!」とおっしゃる。
「ではアリシア、これから生徒会では頼むね。ではディラン、私達もランチに行こうか?」
そう言ってお兄様と顔を合わせて頷く殿下。それにお兄様は「早速サロンにとご案内致します」と言ってから、私達にウィンクを一つ飛ばして二人で去って行く。
「はあああっ…疲れた!」
クリスティーヌが思わずそう大きな声を出して、私達もそれにウンウン頷いて同意する。すると…
──バチン!
「あんたねぇ、誘うならもっと早く正式に誘いなさいよね。アリシアが困ってたでしょう?今回だけは選んで貰えたけど、こんなんだったら次はナシ!だからね?」
何故か私の気持ち100%をブリジットが代弁してくれる。それにいつもの元気は何処へやら、アンドリューは倒れてそうになりながら「ゴメン…アリシア」と苦笑いしている。
それからそう怒っていた筈のブリジットが、「何でもいいわよね?昼食持って来てあげるから、そこに座ってなさい!」とアンドリューに向かって言い捨てて、カウンターの方へと歩いて行く。なんやかんや言っても、とっても良いお姉さん!
「だけどさ、ブリジットの言う通りよ?アンドリュー。アリシアはずっとパートナーが見つからないって言って悩んでいたんだから!」
「そうそう…ルーベルト邸まで行って、そうボヤいてたのよ?だから私達も心配して…」
続けてお小言を頂戴して、バツの悪い顔をするアンドリュー。それに私は…
「まあまあ、私もそう思ったけど、アンドリューがパートナーになってくれるならそれで…知らない人と踊るのも緊張するしね!」
そう言う私に、ええ~っ?と口を尖らせる二人。すると…
「だってさ最初に誘った時、アリシア…嫌そうな反応をしてただろ?だから少しでもマシになってから、改めて誘おうと思って…」
アンドリューはそう言って少し悲しそうに目を伏せる。うん…これは何か誤解させちゃったかしら?それにマシ…って何のことだろう?そう思ってアンドリューを見つめると…
「僕の背が低いことが嫌なんだろう?それで努力して…この休暇でかなり身長伸ばしたんだ!」
それには一瞬目が点に!はぁっ?何を…そう思ったが、よくよく見ると明らかに背が高くなっている。5cm?もしかしたら10cmくらい伸びているかも知れない…この時期の男子の成長って驚異的なんだよね!ギシギシいいながら伸びる…って言うわよね?
「ホントに凄いわね?だけどね、言っておくけど私は身長のことで引っ掛かっていた訳じゃないからね?それは…アンドリューが私より可愛いからよ!そんな可愛い人がパートナーだったら私、間違いなく公開処刑になるじゃない!」
そう正直に話した私に、アンドリューを始めとする面々は唖然としている。そしてドリアセットを片手に、いつの間にか戻って来ていたブリジットも…
「ブハッ、アハハハッ!」
そして案の定、この場は笑いに包まれる…だから言いたくなかったのにぃ。
「ハハッ、そういう訳だったのか?安心した!そしてその可愛い僕から正式に誘うよ!どうかアリシア様…僕とパートナーになって下さい」
目の隈くっきりでフラフラなくせに、そう言って明るく笑うアンドリュー。その顔を見ていたら、笑われたけどまあいっか!と笑いが出て来た。
だけどさっきの感情は何だったんだろう?と、ちょっとだけ戸惑っているのは隠したままだけど…
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