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5・ルーベルト侯爵家

 思いがけないところで叔母様にお会いしてから三週間が過ぎた。もう後二週間ほどで 帝都学園に入学する。それに必要なドレスや靴、それから文房具などを揃えて、あとはその日になるのを待つだけになった。

 初めは慣れなかったこの帝都での暮らしも少しずつ慣れていき、最初はこんなに人が必要なの?って戸惑ったこの家も、人から世話して貰うことが当たり前になり、やっと慣れてきたと感じる。これで人並みなお嬢様になれた?


 そして約束したルーベルト侯爵邸への訪問だけど、正式に叔母様からご招待があって、これから出掛けることになっている。だから今日は朝から、その準備に余念が無い。叔母様からプレゼントしていただいたドレスの一着を着て、髪もメイド達から綺麗に整えてもらう。ロッテは自分がやることが無くて、隣で口を尖らせているけど…

 だけどルーベルト邸へのお供が自分だと知らされると、途端に機嫌が直ってニコニコに。全く現金なもんね?まあ、そこが良いところでもあるけどね!


 それからロッテと二人、馬車に乗ってルーベルト侯爵邸へ向かった。叔母様によると、今日はお祖父様はお出掛けしていて、従兄妹のディラン様は在宅しているという。お祖父様にもいずれ会ってはみたいと思うけど、まだ早いかしらね…もしも知らない顔をされたら、落ち込んでしまうわ!

 そのタイミングは叔母様にお任せして、いずれご挨拶出来たらいいなと思っている。無理は禁物!


 ランドン伯爵邸から一刻ほど走ると、明らかに大きなお屋敷が立ち並ぶ一画に入って来た。他のところとは一線を画しているというか、同じ貴族家?と戸惑うほどの違いがある。それならもしかしてルーベルト邸も?と、途端に心配になるけど…


 そう不安が後を絶たないが、それでも馬車は順調に走って行き、やがて物凄く大きなお屋敷の前で速度を弛めて…


 ──まさかここ…じゃないわよね?


 そう思ったのも束の間、馬車は緩やかなカーブを描いてその屋敷へと入って行く。ここ城じゃないの?と思ってしまうような屋敷の大きさにドギマギして…


 ──うちのランドン伯爵邸なんて、全然大きくなかったんだ!


 まずは規模が違う。敷地の大きさはもちろんだが、歴史的にも価値のありそうな佇まい。これが伯爵家と侯爵家の違いなんだと改めて感じる。だけどね…ここはお母様の実家なのよね?だとしたらお母様って、本当に勇気がある人だったんだと思う。お父様との恋の為に、ここを躊躇なく捨てられたのだから…


 そしてそのドキドキが最高潮になった時、大きな扉の前で音も無く馬車は止まる。こういうところはランドン伯爵家の御者だってなかなかのものよ?とは思うけど、今はそれどころではない。静かに馬車の扉が開くと、目の前に現れたのは…圧・倒・的!


 空まで届くんじゃないかしら?(大袈裟すぎ)な大きな扉がスゥーッと開いて、奥からは嬉しそうに微笑む叔母様が!


 「ようこそいらっしゃいましたアリシアお嬢様。私はルーベルト侯爵家の執事カヘルと申します。どうぞこちらに」


 叔母様しか見ていなくてビクッとなったけど、ルーベルト家の執事がそう挨拶をしてくる。それに「ありがとう。よろしくね」と返して、その後に続いて奥へと進む。


 侯爵邸の中はまるで白亜の宮殿のように、歴史と高貴さを感じさせる。そして驚くのは、ホールの天井がステンドグラスになっており、光を集めてキラキラと床を照らしていて…

 どこか庶民的な温かさのランドン邸とは違っていて、尚更緊張してしまう。


 「今日はよく来てくれたわね。ようこそ!ルーベルト邸へ。さあさあ、こっちよ」


 挨拶もそこそこに、どんどん進んで行く叔母様に慌てて付いて行きながら、侯爵邸の奥へと進んで行く。所々に高価そうな絵画や壺なんかが置いてあり、それに近付かないようにしながらも、遅れまいと進んで行く。そして一つの部屋の前で叔母様は止まり、そして執事がサッと近付き扉を開けて…うん、ここは?


 「アリシアが緊張するだろうから、応接室じゃなくてリビングにしたわ。だって家族だしいいわよね?」


 それには本当に有難いと思う。それに家族だなんて、とっても嬉しい!

 

 「はい!嬉しいです」


 そう笑顔で頷いて、それから中へと入って行く。そして進められるままソファに座って、やっと一息吐いた。そしてそのタイミングでようやくロッテが追いついて、部屋の端に控えている。そして…


 「今日はお招きいただきまして、ありがとうございます!今日を楽しみにしておりました」


 そう笑顔で挨拶をして、それからロッテをチラッと見る。するとロッテは、綺麗にラッピングされた箱を持って来て、目の前にコトッと置いた。


 「こちらは先日のドレスの御礼に持って参りました」


 そう言って、叔母様にお渡しする。


 「お礼なんていいのよ?私がやりたくてやったことなのに…」


 叔母様はそう言ってくれたけど、「是非に!」とお願いすると渋々受け取ってくれる。

 「開けていいかしら?」と聞く叔母様に大きく頷いて微笑む。


 叔母様がリボンを解き、包装紙を取り去ると中からは小さな箱が出てくる。その箱には花の模様が綺麗に描かれていて、それを見た叔母様はもしや?と反応する。それをカパッと開けると…中からはブローチが出てきて…

 

 ユリの花を形どった黄金の地金に、花弁の部分には白く螺鈿が施してある。そしてそのユリを束ねるリボンの部分には、鮮やかなブルージルコンがはめ込まれていて、煌めいている。

 それを見た叔母様は堪えきれないように涙を滲ませ、うるうるの瞳でこちらを見る。そしてそのブローチを愛しそうに撫でて…


 「こ、これはお姉様のブローチね?見たことがある…この箱だって!まだ小さい頃からとっても気に入ってらしたわ。だけど…これはあなたが持っていた方がいいんじゃない?」

 

 それにフルフルと首を振る。そして…


 「いいえ。母は生前、このブローチを見ると妹を思い出すと話していました。いずれ妹に譲りたいと…。だから母のためにも貰っていただけますか?母の遺品は他にも沢山ありますし…」


 それに叔母様は「フフッ…憶えていてくださったのね」と嬉しそうに呟く。それに不思議そうに見つめると…


 「子供の頃、私がどうしても欲しいと駄々を捏ねたの。こんなに綺麗なブローチを持っているお姉様が羨ましくて…。譲ってもいいわよ!と言ってくれたんだけどね、そのやり取りを見ていた御父様に私が叱られて…それでうやむやになってしまって。それを気にしてらしたのね…きっと」


 そう言って叔母様は、このリビングから見える庭園の方へと目を向けた。まるでその思い出を辿るように…


 「ありがとう本当に…大切にします。これをお姉様だと思って使わせて貰うわね」


 それに笑顔で頷きながら、きっと母も喜んでいるだろうと思う。会いたいけど会えない…愛する妹の手に、やっと渡ったのだから。そんな感動の場面だけど、部屋の端で貰い泣きしているロッテが気になって仕方ない…泣きすぎじゃない?


 それからお茶を頂きながら、これまであったことをお話しして、それから学園の話題になる。


 「うちの息子のディランなんだけどね、生徒会長を務めているの。親のわたくしが言うのも何だけど、凄く成績が優秀でね。だから何か困ったことがあったら、絶対ディランに相談して!力になるように言っておくから」


 それには心強い!と感じる。この帝都には知り合いもいないし、友達だって直ぐ出来るか分からない。それにしても我が従兄弟は、侯爵家という名門貴族でありながら優秀な生徒会長!やはり叔母様の育て方が素晴らしいのだと思う。こんなに優しい叔母様だから、そう育つのね!そう感心していると…突如部屋の向こうから足音が聞こえる。うん…叔父様かしら?


 ──トン、トン。


 「どうぞ!」という叔母様の声で、そこから姿を現したのは…ディラン様!?


 扉の向こうから現れたのは、物凄く背の高い筋肉隆々の男性で。その体格の良さに少しアンバランスな、知的なメガネをかけていらっしゃる。私や母、叔母様と同じ明るい茶色の髪を横に撫で付けて、そのメガネの奥に光るのは知性を感じさせる碧眼!どうしよう…もの凄く素敵だわ!


 まさか自分の従兄妹が、これだけ素敵な男性なんだと思ってもみなかった。人懐っこいお兄さんのような人なんだと、勝手ながら想像していたんだけど…


 「ランドン令嬢だね?俺はディラン・ルーベルトだ。初めまして従兄妹どの!ディランと呼んでくれ」


 その格好いい挨拶にもおっかなびっくり!


 「よろしくお願いします!デ、ディラン様。私も是非アリシアと呼んでくださいませ!」


 つっかえながらそう言うのがやっとだった。おまけにその後ろから叔父様のルーベルト侯爵様も登場して、平常心の許容量が一杯一杯!

 その後何をしゃべったのかイマイチ記憶にない。ただ、侯爵様は思いの外優しそうな方で、私の緊張を解こうと積極的に話してくださった。

 それから夕食までご一緒させていただいた私は、緊張と感謝で心が一杯になりながら楽しく過ごし、それからルーベルト侯爵家を後にした。

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