49・ベリーの記憶
もう、ミステリー!だなんて言ってられないんだわ…スティーブ殿下からも聞いていたルーシーの友達が私?な件。そのことが本当なのかを真剣に考える時が来たみたい。本当に私なの?って半信半疑だったけど、ルーシーの幼馴染みだと公言するニクソンが言うならどうも事実のようだ。だけど…どうにも思い当たらない!きっと時期としては、かなり小さい時だと思うけど…
健康優良児みたいだった私が、急に病弱になったのは6歳の頃だ。それまでは普通に暮らしていたもの…ということは、それ以前の友達ということになる。それを知る突破口になるかもと、ルーシーのことをニクソンに尋ねてみることにする。
「ニクソンあなた、ルーシーの幼馴染みなんでしょう?それはあの子が、このルブランに住んでいたってことなのよね?だけど私は、全く記憶にないの!いくら小さい頃のことだといっても、少しくらいは覚えてる筈だと思わない?」
それにニクソンは、ほんの少しだけ顔を歪める。ああもう!分かりにくいわね?それはどういう表情なのよ!
そんなニクソンに、もういいわ!と自力で考えてみようとする。私が唯一友達だといえる子はベリーだけ。確か、ノックス子爵家の令嬢だったように思う。このルブランに住んではいたけど、親戚筋という訳ではなく、お父様の仕事の都合でここに住んでいただけだ。赤い髪で最初は男の子?って思うほどに元気一杯な子だったの。ソバカスだらけの顔をクシャッと笑って、とっても明るくて印象的な女の子だった。その子以外は『友達』なんて…考えられないわ!
だけど見た目も名前も全く違う…それにこう言うのは癪だけど、ルーシーはヒロインだけあって物凄く可愛い。じいやが私と一緒に遊ぶベリーを見て、「野猿ですな!フォッフォッホ!」なんて笑われていた子とはかけ離れているわよね?
「野猿、ベリー、ソバカス…ノックス…」
そう呟きながら考えていると、分かりにくいながらもニクソンの表情に変化が現れる!うん?何だぁ。
「それだよ!その子がルーシーなんだ。君と一緒に野猿…って呼ばれてたんだと、可笑しそうに笑ってた。そして、ルーシーの以前の名前はノックスだ」
──ええっ!ルーシー・バーモントじゃなくて、ルーシー・ノックスだったってコト?でもそれは…
「ルーシーの両親は離婚したんだ。それでお母様と一緒にルブランを離れることになって、最後だからとランドン邸まで君を訪ねて行ったらしい。だけど具合の悪い君とは、面会を許されなかったって。それから俺が再会したのは帝都学園の中等部に入ってからだ。最初は俺だって誰なのか分からなかったけど…」
それはそうでしょ?とても同一人物だとは思えない!それじゃあ、赤毛がピンクの髪に変化したってことなのね?確かに子供の頃の赤い髪は、成長するにつれ金髪に変化したりする。だから色が変わりやすいとは聞いてるけど…ピンクって!
だけどあんなにソバカスだらけだったのに!?綺麗になるもんだわね~
──だけど一つどうしても分からないのは名前よね?どう考えてもベリーと呼ばれていた。確かベリーのお母様もそう呼んでいたから間違いない!それがルーシーだと?
「でもね、名前はベリーだったと思うわよ?それにルーシーのお母様は再婚されたってことなの?それでバーモントに…」
そう尋ねると、ニクソンの表情がサッと曇る。それは聞いちゃいけないことだったのかしらと心配になって…
「それはルーシーの、お父様がつけた愛称だったんだ…赤毛でソバカス、まさにベリーだろ?俺だって子供の頃はそう呼んでいたさ。だけど両親が離婚してからは…その愛称で呼ばれるのを極端に嫌っている!そしてそのお母様が再婚した相手、バーモント子爵が最低な奴なんだ!」
普段は埴輪か?ってくらい表情に乏しいニクソンが、本当に辛そうな顔をしている。そしてルーシーの新しい父親を、最低な奴…だと憤っている。あの明るくニカッと笑って一緒に野山を駆け巡っていたあの時のベリーが、今のようなルーシーへと変貌を遂げるなんて…それは何か重大なことがあったのだろうと、容易に想像出来る。見た目は愛らしく変わったけど、何の罪もないキャロラインを執拗なまでも追い詰めるような苛烈さは、子供の頃には一切無かったものだ…あなたはどうしてそんなに変わってしまったの?
かつては、田舎の素朴な子爵令嬢であったベリー。それが…
でも確かにゲームの設定でも、幼少の頃は苦労した…となっていた。だから人の痛みにも寄り添えるんだと…その原因が両親の離婚で、おまけにお母様も再婚だったの?そして現実では痛みに寄り添えるどころか、自からそれを産み出してしまっている。それはどうして?
「ルーシーは、本当に君が学園に来ることを楽しみにしていたんだ!病気が治ることを神様に祈ったりして…。それなのに君は気付きもしなかっただろ?おまけにあろう事か、キャロラインの味方をする始末で」
──な、何?キャロラインの味方をする始末?それは当たり前じゃないの!
「ちょっと…ニクソン!あなた何か勘違いしてない?確かにルーシーのこれまでには、同情する点もあるのでしょう…だけどキャロラインのこととは別よ!もしもベリーがルーシーなんだと気付いていたとしても、私はキャロラインを庇い、そしてルーシーを叱るわ!間違っていることは間違っていると伝える…それが友達でもあるんじゃないの?」
そう言って私は、ニクソンのガッシリとした肩を掴んだ。本当はジャンピング拳骨をお見舞いしたいくらいよ!




