44・友達(仮)
あのルーシーによる友達発言…それにはクラッときた。誰が?誰と?どうして?って聞きたくなったわよ!
だけどよくよく殿下から聞いてみると、それを言ったのは中等部の時だそう。なら、ますます私じゃないよね?
おまけにルーシーは、その友達は高等部から学園に通うのだと言ったらしい…ミステリー!
だけどどう考えてもバーモント家なんて知らない!もしも知っていたとしたら、最初会った時にピンとくるはず。
あの子は確か…グァーデン伯爵家の領地スローンにある子爵家出身なのよね?そんなの何処にあるかも知らないわよ!
それなのに友達だってコトあるのかしら。それとも友達になる予定…ってやつ?
てことは、友達(仮)か!?どちらにしても怖すぎる!
取り敢えずは静観を貫こうと思う…
「それでもう殿下は、隣国に向けて発たれたのですか?前侯爵様」
そんな鈴の鳴るような声に我に返る。ああ癒やされる…キャロラインの声だ。
「ああそうだ。もう三日前になるか…やっと行程は半分過ぎたところだから、来週にはお着きになるな?手紙でも書こうか…慣れないところで不安だろうし」
そう寂しそうに言うのはお祖父様だ。結局お祖父様は厳しいことを言ったとしても、放っておくことは出来そうにない。殿下が子供の頃から一緒だし、そうなるわよね…
あれから一ヶ月後の今、スティーブ殿下は留学の為に隣国へと旅立って行った。殿下はああ見えて華やかな方だったから、居ない学園はどこか寂しく感じられた。そしてルーシーだが、殿下が去っても思いの外冷静に見えた。そうなると殿下の言っていた内容の信憑性が増してくる。そして私達とはほぼ会うことはなくなった。クラスが違うから、当たり前なんだけどね?唯一一緒だったダンスレッスンだが、特訓のおかげで初級クラスを脱出し今は何と!中級クラス。だからますます接点はなくなり、どうして過ごしているのかも知らない。風の噂ではニクソンと一緒にいるらしい。ということは、ニクソンルートに変更?
「さあさあ、アリシアちゃんに皆んな!そんな過去の人の話は抜きにして沢山食べて~」
叔母様のその言葉にブッと吹き出す。過去の人って…ちょっと酷くない?まだ去ってから三日だけど…。そして皆んなはそれを気にしている様子もなく、楽しそうに食事している。去るものは追わずの精神?
私達は今、ルーベルト侯爵家からのご招待で夕食をご馳走になっている。今回は…何と!私の友人達にも会いたいとお祖父様がおっしゃって、キャロライン、クリスティーヌ、双子達、おまけにロブまで招待された。えっ…ロブ?と思うだろうが、殿下が学園を去った後、どうしても同じグループになるわけで…まあ、いいけど?
「このローストビーフ、物凄く美味しいです!それにこの皮付きのポテトも」
「そうそう!このチキンソテーも絶品で。このソースがまた良く合うなぁ」
「そう?それは私のお母様のレシビなのよ!どんどん食べて~」
そんなふうに賑やかな晩餐は進んで、初めて来たというのに物怖じしない親友達に、この子達只者じゃないわね?と改めて思う。叔母様は泣く子も黙る侯爵夫人なのに、料理を趣味にしている。それは亡くなったお祖母様もそうだったらしい…私は全然だけどね?
「それにしてもキャロラインちゃん…あなた大変だったわね?綺麗サッパリしたんだからもう周りを気にせず、好きなことをしていいのよ?だけど…痩せすぎだわね。もっと食べないと!」
私の親友達にも『ちゃん』付け…叔母様らしい!そして元来のお節介気質でキャロラインにそう言い、お皿に山盛りのポテトをよそっている。それを見てキャロラインはポカンとしているが、どこか嬉しそう!
「母さん、アリシアの友人に、ちゃん…はダメじゃないかな?」
お兄様はそう言って叔母様を呆れて見ているが、そんなことはお構いなしのようで「アンドリューちゃんもね!」と今度はアンドリューの前に巨大なプディングを差し出している
「それでディラン先輩、ダンスパーティーはどうなるんですか?中止に?」
育ち盛りで急成長中のアンドリューはそれをあっという間に平らげて、お兄様にそう尋ねている。開催される筈だったそのダンスパーティーだが、今回はスティーブ殿下のことがあったために中止に?と学園内はその噂で持ち切りで…
「残念ながらそうなりそうだ。そのかわりといっては何だが、卒業パーティーでそれを兼ねることになった。だから今回は規模がかなり大きくなり、中等部との合同はもちろんだが、家族と婚約者に限るが外部からの参加も出来るようにするつもりでいるんだ。だから楽しみにしているといい!」
「ええっ…外部からも?ということは、兄弟や家族も参加していいってことですよね?おまけに婚約者?」
お兄様のその言葉に、ブリジットはそう言って目を丸くしている。
「ハハッ…そうだね。私も今回卒業になるが同級生の中には既に、結婚が決まった人もいる。だから前々から婚約者を是非招待したいという希望が生徒会に寄せられていてね。それで今回からそうすることにしたんだ」
「卒業予定のご令嬢のお相手というと、年上でしょうしね。おまけに家族?ってことは、パートナーはお父様でもいいってこと?」
その変更点に即反応したのは私だ!だって…まだパートナーは決まっていないし。結局誰からも誘われなかったら?そうなるとお父様でもいいからキープしておきたい気持ちが…ちょっと酷い?
それから食事を終えた私達はリビングに移動する。お祖父様は「早速殿下に手紙を!」と、皆にはゆっくりしていくように言ってから、いそいそと自室に戻られた。そして私達とお兄様は食後のゆったりとした時間を共に過ごす。するとさっきのパーティーの話題になって…
「アリシアは、どうも自信がなさそうね?気になる人がいるのなら誘ってみれば?」
クリスティーヌがそう言うと、頭の隅にフィリップが浮かんだ。だけど…何というか決め手がないんだよねぇ。おまけに中等部というのが一番ネックで…年上の高等部の令嬢から誘われて嬉しい?とか思っちゃう。来年は同じ高等部だし…と、誘う勇気が出ない自分を正当化しがちで。そしてそれを簡単そうに言ってくるクリスティーヌにちょっとムカついてくる。それで逆に質問してやろうと…
「だけどクリスティーヌはどうなの?この前自信満々だったけど、誰かに誘われたりしたの?」
前は強気の発言をしていたが、まだそう言った噂は聞かない。だからそれはあなたもじゃないの?と聞いてみる。
「ええ、三人から。どの人にするかは考え中!」
「嘘ーっ!それはお見逸れしました…」
一体いつの間に?と思うが、きっと事実なんだろう…恐るべし!くそぅ…クールビューティーめぇ!
「じゃあさ、ブリジットはどうなったの?確かお目当ての人が居たんだよね?」
懲りない性格の私は、今度はブリジットだわ!と聞いてみる。その相手は誰なのかも知らないけど…
「うーん、誘ってみたけど…まだ返事なし!もしもダメだったら、お兄様でも誘うわぁ~」
──ふっふっふ。親友としては酷いかも?だけど、安心した!だけど相手って誰なんだろう。こんなに可愛いブリジットを保留だと?これは当日のお楽しみになりそうね。
その次は…と考えて、また私やっちゃったかも?と後悔する。キャロライン…でも私と同じで、今回はお父様に頼むのがいいのかも知れないわ。あんなことがあった直ぐ後だし、私達はまだ高等部一年だ…だからこれから良い出会いだってある!そう鼻息荒くしていると…
「私はお父様か、お兄様に頼もうかしら?だけど…三年間そうなるかもね!」
キャロラインがそう自虐めいたことを努めて明るく言って笑う。それに暗くなる訳にいかないと、私も精一杯明るく「私もそうなるかも?」と言う。すると…
いきなりこの中の一人が立ち上がる。うん…どうしたんだろう?と見ていると、脇目も振らずキャロラインの前まで来る。そしてスッと膝をつき、手をキャロラインの目の前に差し出す。えっ…これって?
「キャロライン様、私とパートナーになっていただけませんか?卒業パーティーには是非あなたと行きたいのですが」
──ひーーぁーーっ!!
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