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42・スティーブの決心

 「そ、それは!あの…」


 私は驚き過ぎて、それ以上何も言えなかった…だってスティーブ殿下が私と話したいなんて、言う筈もないと思っていたから…だけど本当に?


 「そうだな…今までのスティーブの行動ではアリシアが躊躇するのは無理もない。あれのしたことが赦せないと思って当然だ。私も始めはそう思って問い詰めた!何か企んでいるのでは?と。だが…今回だけは、あれを信用してやっては貰えないだろうか?詳しくは本人から聞いて欲しいのだが、あやつの覚悟は相当なものの筈だ…」


 そう言う皇帝陛下に戸惑う。どうして?どうして私なの?と。だけど…私に話したいこととは何だろう?と気になる気持ちも正直ある。相当の覚悟?それを聞いてみたい気持ちも。それで…


 「分かりました。私、スティーブ殿下にお会いしてみようと思います。だけど…もしもふざけたことを言ったなら、殴ってもいいでしょうか?」


 それに皇帝陛下は目を丸くする。だけど次の瞬間、ワハハハッと豪快に笑い出す。


 「それでこそアリシアだ。是非そうしてくれ!私がそれを許そう。そしてもしもの時に、アリシアを守る騎士も当然同席させる。それに…そなたの祖父である、前ルーベルト侯爵も同席すると言っている。だから安心して欲しい!」


 ──ええっ…お祖父様も?それで今日こちらにいらっしゃってるの!


 それには驚いたが、あのお祖父様のこと…何かお考えがあるのだと理解する。それに大好きなお祖父様の前では、スティーブ殿下も滅多なことなどしないだろう。それで私は好奇心が勝って、「はい!分かりました」と元気よく返事をした。


 それから皇帝陛下の御前を失礼して、一旦控室で身なりを直し、それからジャックマンと共に庭園の方へ向かう。それに私は「えっ…外で?」と少し驚いたが、キョロキョロとしたまま後に付いて行った。すると…目の前には大きな温室が!何だろうここは?


 「こちらは珍しい植物が植えられた温室でございます。もうすっかり秋ですし、それほど暑くは御座いませんので安心なされて下さい。内部はそれはそれは美しいですよ?」


 ジャックマンのその言葉に、そうなの?と頷く。すると…


 「それにこの温室は、前ルーベルト侯爵様が管理をしておいでです。もちろん専任の庭師はいますが、このように珍しい植物ばかりです…分からないことばかりで、博識な前侯爵様にご指導いただいているのですよ?そしてスティーブ殿下のお気入りの場所でもあります…」


 そう言ってジャックマンは、少し寂しそうな顔をした。きっと幼少期の頃から殿下を知っていると思われるジャックマン。あの時は厳しいことを言われていたけど、それだけではないんだろう。孤独な少年だった頃もきっと…


 だけどそれで一つ分かったことがある。何故あの時、お祖父様が駆けつけて下さったのか?ってことだ。もう叔父様に侯爵の地位を譲っているし、どうして皇居に?と思っていたけど、それで納得した。あれからお祖父様は、一度お見舞いに来てくださり、その後ルーベルト邸でもお会いした。だからあの事件の時も含めたら三度お会いしているが、今でも少し緊急する。もちろん私には優しい笑顔を見せていただいているけど、あれほど立派な方だから…そのうち慣れるのかしら?

 そう思いながらジャックマンの後から中へと入って行く。


 一瞬ムワッと暖かい空気に襲われ、だけど不思議に中へ入ってしまうと暑さは感じない…過ごしやすいくらいで。そしてキョロキョロと辺りを見回すと、色とりどりの花々が咲き誇っている。ランドン邸にも咲いているような花から、こんな花があるの?と驚くものまで…まるで森の中にでも居るように感じる。


 ──わああ!思った以上に広いわ。それに内部は外から見えないように蔓性の植物で壁を造ってある。そしてこれは秘密の会合に便利かも知れないと、この皇居の奥を垣間見たような気がする。その壁を抜けると突然拓けたところに出た。そして目の前に目を向けると、その先にテーブルが配置されていて…一番奥にいるのはスティーブ殿下だ!

 

 ほんの二週間ほど前まで、クラスメイトとして毎日のように共に学んだ殿下。だけどもう随分前のような気がする…少し痩せられたようだし、何か雰囲気も以前とは違うような気がして…


 「今日は会ってくれてありがとう、ランドン令嬢。感謝するよ」


 いつもの斜に構えたような態度は影を潜めて、私を真っ正面から見つめている。おまけに驚いたのはその穏やかな笑顔。そんな顔など初めて!今までとは全く違う、まるで憑き物が落ちたような変化で…


 「い、いえ、光栄でございます!」


 そう言うのがやっとだった…そんな殿下に、どうしたの?と動悸が止まらない!そこに…


 「ハハッ!アリシア、そんなに緊張せずとも良い。さあ、こちらに来てかけなさい」


 ──お祖父様~天の助け!お祖父様が居てくれて本当に良かった。二人だけだったら、普通の反応など出来ないところだったわっ。


 ちょっと戸惑いながらも二人に近付いた私に、タイミングを見計らったように殿下から声が。


 「堅苦しい挨拶など必要ない。どうぞ椅子にかけてくれ!」


 そんな殿下に従って、殿下の真向かいに座るお祖父様の隣に腰掛けた。少し緊張していたが、隣を見上げるとお祖父様の優しい笑顔があるので安心だ。

 さっきまで今でも緊急すると言っていたお祖父様に安心?その自分の気持ちの変化に戸惑う。そして隣のお祖父様をチラッと見上げると、普通は背の高さが違っても座れば案外高さを感じなくなるものだ。だけどお祖父様はそれでも大きい!そしてそれはお兄様も同じだが、その圧倒的な存在感…だけど今は安心出来る!ホント不思議~


 「まずは…ランドン令嬢。今まで君にしてきた数々のこと、本当にすまなかった!謝っても赦されないだろうが…」


 唐突にそう謝られてビクッとなる。だけど前も謝っていただけたけど…それなのにまた?と驚いた。


 「はい。それは前にも謝っていただきましたから…その時に謝罪を受け入れております。ですからもう…謝らないで下さい!」


 そう言う私に殿下は少し微笑んで、それから大きく頷いた。そして…


 「私は帝都学園を去るつもりだ。散々君やキャロライン、そして同級生達に迷惑を掛けてしまったが、新たに知らないところでやり直したいと思っている。まずは隣国に留学するつもりでいる。そして…尊敬する前侯爵様のように見聞を広めるつもりだ。だからもう暫く会うことはないだろう」


 「ええっ!隣国に…留学を?」


 まさか!と驚く。学園を休んでいるのは知っていたが、まさかもう戻らないなんて思ってもみなかった!そして殿下はそう告白して楽になったのが、お祖父様に笑顔を見せている。

 その穏やかな顔を見て分かった…そうか、お祖父様のようになりたいのね?と。

 若い頃のお祖父様のように各国に留学し、知識を身に付けたいのだと理解する。


 「今後暫くしたら、弟のウィリアムが皇太子になるだろう。今後はそれを少しでも助けていけたらと思うのだ。これまで兄らしいことなど、何一つやって来なかった私だが、その罪滅ぼしとも言えるな。そしてこれは君にも関係があることだが、許されるならキャロラインにも会って謝罪したいと思っている。それこそ赦してはくれないだろうが…」


 何だか情報が一度に沢山で頭に入ってこない。キャロラインへの謝罪はいい…是非誠心誠意謝って!それだけのことをしたのだから…

 だけどあなた…ウィリアム殿下やキャロラインのことを言う前に、肝心の人を忘れていません?


 ──ルーシーは?お付き合いしているルーシー・バーモント令嬢のことはどうするのよ!


 それからスティーブ殿下は、「どうしたらキャロラインは私と会ってくれるだろうか?」なんて私に相談してくるけど、一つ忘れてない?

 ルーシーのことなど全く頭にない様子の殿下に驚き戸惑う私。

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