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4・思いがけない再会

 「あ、あなたは…」


 そう一言口にして、グッと押し黙る。それほどに驚いた…そして隣のロッテもガタガタと震えている。


 「お、奥様?お亡くなりになったのでは!」


 ロッテがそう言って驚愕の表情を浮かべている。明らかに貴族の夫人…そんな人に平民出身のメイドのロッテが、先に声を掛けるのは御法度!だけどそれを注意出来ない程に驚いている。どこからどう見ても、亡くなったお母様そっくり…

 まるで生き返ったかのようなその方に、恐る恐る声を掛ける。ただ一つ、思い当たることがあるから…


 「失礼をお許しくださいませ夫人。もしかして…叔母様ですか?私はランドン伯爵家のアリシアと言いますが…」


 私がそう言った瞬間、その方は涙を流す。ポロリ、ポロリとまるで懐かしい人を見るかのように微笑みながら…。そして私に近付いたかと思うと身体をギュッと抱き締めてくる。それには驚いて…


 「そうよ!あなたの叔母のアンナよ。ルーベルト侯爵家のシャーロットは、あなたの母親ね?そして私の姉でもあるの」


 抱き締められたまま、やはり…と思う。だからそっくりなんだと納得する。そしてロッテは初耳らしく、ポカンと口を開けてこちらを見ている。さっき私に口を開けているとみっともないと言ったくせに、今は自分だってそうよ?だけど母に姉妹がいるなど、知らなかったわよね…。母シャーロットはかつて、由緒あるルーベルト侯爵家の令嬢だった。二人の娘しかいなかったルーベルト侯爵家は、長女の母が婿を迎えて後を継ぐのだと思われていた。だけどそんな時母は、通っている学園で父と恋に落ちてしまう…


 伯爵家の嫡男であった父との結婚は、困難を極めた。真っ先に立ちはだかるのは身分の差。本来なら侯爵夫人となる母が、伯爵家の夫人となるなんて到底許せないと、ルーベルト侯爵様は大変お怒りで。その怒りは凄まじく、母は当然勘当に…


 そして今後一切の付き合いはしないという条件を呑むしか無かった。だから母の葬儀の時は侯爵家の方は一人も…


 「ごめんなさい!葬儀にも行けなくて。愛する姉の葬儀には、どうしても駆け付けたかった…だけど、行けば私は勿論、息子までも勘当すると父から脅されて…本当にすまなかったわ!」


 涙ながらにそう詫びる叔母様。それだけお祖父様の怒りが今も燻っているのだろう。だけどその真実を聞けて良かった!あの時は、母は実家の誰にも愛されていなかったの?と寂しい思いがしたから。それを話してくれたことに感謝して、叔母様の背中を優しく擦る。


 「いいえ…話してくれてありがとうございます。それで胸のつかえが降りました。母が叔母様に愛されていたことを知っただけで十分です…」


 そう伝えて、叔母様へ向けて笑顔を作る。それには叔母様もホッとしたように笑顔になる。


 「ありがとう…本当にお姉様そっくりね。姿形も似ているけど、優しいところがホントそっくり!私、一度だけあなたの姿を見に行ったことがあるのよ?勿論そっとだけど、あの時の子がこんなに大きくなったのねぇ…」


 思ってもみないところで感動の再会をして、二人はこの奇跡のような偶然に感謝する。それからそんな二人の側で遠慮がちに様子を見ていた店主が、恐れながら…と声をかけてきた。


 「ルーベルト夫人の姪子様でしたら、私どもで是非ドレスを用意させてくださいませ。よろしいでしょうか?」


 そんな店主の言葉に、ルーベルト夫人は早速反応する。


 「もちろんそうして!アリシアが困らないように完璧に用意してあげてちょうだい。そしてそのお会計は全て…ルーベルト侯爵家に!」


 叔母様がそう鼻息荒くおっしゃって、私はそれに血相を変える!そ、それはいくら何でも…


 「お、叔母様!それは余りにも行き過ぎですわ。私、父からドレス代はいただいていますので大丈夫です。その御心だけで…」


 「アリシア…そうさせて欲しいの。今まで何もあなたの為に何もしてあげてないのよ?それはお姉様への罪滅ぼしだと思って…ダメ?」


 そう言われてしまうと…困ったわ。母への代わりに…なんて言われてしまうと、断りにくくなってしまう。迷った挙げ句、押し切られる形で了承してしまって…

 それから叔母様は、パッパと高そうなドレスを何着も選び、気に入らないところがあれば変更なさいね?と言う。本来なら物凄い時間がかかるようなことを、次々に指示してくざさって、あっという間に用意するべきものの手配が済んだ。そして…


 「わたくしはもう店を出ねばならないから、後は店主と相談して決めなさいね。それから…落ち着いたらルーベルト侯爵家に一度おいでなさい。待ってるから…絶対よ?」


 そう言われて返事に困る…私だって伺いたいが、それを許してもらえるのかと。


 「けれどお祖父様が…嫌がるのではないですか?それによって叔母様にご迷惑が」


 苦しげにそう答えると、叔母様はフルフルと首を振る。そして…


 「いいえ、大丈夫!主人が最近侯爵を受け継いだの。だから御父様にはもう遠慮しないわ!もちろん今でも侯爵家で力があるのは御父様だけど、私だって負けてないわよ?それに息子にも会って貰いたいし…ディランっていうの!あなたの従兄妹になるわ。それに帝都学園の三年生だから、一年間一緒に通うことになるわね」


 そう言われて驚く。もちろんお祖父様のこともだが、それよりも自分に従兄妹と呼べる人がいたことに非常に驚いて…

 私にはきょうだいもおらず、おまけに父方の従兄妹もいない。だから…初めて知った親しい存在に心が踊る!


 「それならば是非おじゃまさせてくださいませ。叔母様の御家族に会えること、楽しみにしていますね!」


 そう笑顔で応えると、叔母様は嬉しそうに笑う。それから「また連絡するから」と手を振り店を出て行く叔母様に、深々とお辞儀をした。その後ろ姿を見送って、それからフゥーッと息を吐く。


 「お嬢様、ようございましたね?ルーベルト夫人に偶然お会い出来るなんて、亡くなった奥様の思し召しです…ロッテは感動しました!」


 ロッテがうるうると目を潤ませながら、まるで天に祈るように握り合わせた手を顔の前に出す。それには大袈裟な…とは思うが、嬉しさで私もそっと目を瞑る。それからパッと目を開いて…


 「ロッテ、後は普段のドレスを選ばなきゃ!手伝ってちょうだい」


 「はい。センスの塊の私にお任せを!」


 それに二人でフフフッと笑って、あとひと頑張り!と慣れないドレス選びに奮闘する。

 

 

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