32・気の置けない親友達
そんなロブの悲痛な告白に、私はどう答えてあげれば良いのか分からない…
それは皆んなだって同じようで、いつの間にかロブの話を聞いていた面々は、顔を見合わせてどう慰めるか迷っているようだった…
「それは僕だって酷いと思ったよ。僕も以前はルーシーのことが大好きだった!それほど魅力溢れる人だったんだよ。それなのに…ある時からそれは、変わってしまったように思う。それが何故なのかは分からないけど…。それで僕はあのグループからいち早く抜け、自ら距離を置いたんだ」
今明かされるアンドリューの理由。私も皆んなも、きっと何かあったんだとは思っていた。だけど本人が言いたがらないのに聞くわけにはいかないと、それに触れないようにしてきた。 なるほどそういう訳が?と驚く。
アンドリューは聡い人だから、敏感にルーシーの変化を感じ取ったんだろうなぁ…
だけどアンドリューもロブも、気になることを言ってたわね?ルーシーが変わってしまった…って。
それはどうしてかしら?高等部に入ってからってことかしらね。確か、中等部は成績でクラスを分けることは無かったと聞いている。それが高等部ではそうならず、クラスがバラバラになってしまったことと関係があるのかも…こればっかりはあくまで憶測だけどね。
「さあ、ロブもアンドリューも。今日はそんなことは忘れて楽しく過ごしましょう?ねっ!」
そう笑顔で言うと、二人共告白したことで気持ちが楽になったのか、表情が明るくなった。そして…
「アリシアに話したおかげで、心の靄が晴れたよ!ルーシーのことも、やっと踏ん切りがつきそうだ。ありがとう!」
ロブはさっきまでとはまるで変わって、そう明るくお礼を言ってくれる。そのことに安心していると、そのロブが意外なことを聞いてくる。
「だけど例の件で、一つだけ分からないことがあるんだ。あの暴言騒動の時、アリシアは凄く早く下に降りて来てただろ?あれはどうだったのかと不思議で…まるでマジックみたいだったよ」
ロブってば、また余計なことを!と思ったけれど、それは時すでに遅し…それを聞いた皆は、一斉にこちらを向く。それに私は誤魔化し笑いを浮かべて……
──フィリップにロブ…この血筋は、どうして言っちゃいけないことを言っちゃうわけ?そういう呪いでもかかってる感じ?全く余計なことを~
「はーい!私も聞きたい。どうやったの?もしかして、二階で叫んだんじゃないってこと?」
ううん!二階から叫んだわ、ブリジット。
「教室が違ったんじゃないか?端のAクラスの教室じゃなくて、階段に近いCクラスの教室で叫んだんだよ」
ロブはそう思ってた訳ね。そうだったらもっと早いけど?
「えーっ!私は一階で叫んだと思うわ。拡声器とか使ったんじゃない?」
そんなの持ち込んでたら目立つでしょ?クリスティーヌ。
「いや、俺は窓からロープで降りたんだと思うなぁ…」
フィリップ!意外と冗談もイケる口なのね?おまけに素だと俺!?
何だか勝手に謎解きで盛り上がっている…おまけにあり得ない説まで流れて、迷宮入りしそうだけど?これもまた正直に話すしかないのかしらね…
「もーう、答えは階段を二段飛ばしで降りたから!自分で言うのもなんだけど、猛スピードだったわ!」
それにはここにいる私以外の全員の目が点になって…その後は大爆笑~!またまた恥ずかしい…
そしてワイワイガヤガヤとお茶会はその後も楽しく進んで、皆んな大満足でそろそろ御暇を…となった。
「今日は皆んな来てくれてありがとう!とっても嬉しかったわ」
最後にそうお礼を言うと、皆んなも同じく嬉しそうな顔をしている。それからまた休暇後にね!と言いながら、来た時と同じくアロワ公爵家の馬車で帰ることになった。そして最後にフィリップは…
「今日はお招きいただきましてありがとうございました。だけど…結局二人で話が出来ませんでしたし、また改めてお伺いしても…いいですか?」
そうフィリップは遠慮がちに聞く。それには私も嬉しくなって…
「ええ、是非に!フィリップ様、どうかまたいらしてね?」
そう言うとフィリップは即座に「はい!」と返事をする。だけど次の瞬間、何かを言いたげに口をモゴモゴと…何だろう?
「どうして私をフィリップ様と言うのです?寂しいですね…昔は呼び捨てでしたよね?これからも是非そうして下さい!そのかわりにアリシア…と呼ぶ許可をいただけますか?」
そうフィリップから微笑みかけられ、もう瀕死寸前の私!
──これ以上はダメ…笑顔がパワーアップしているわっ。なんだろう?これこそ天性じゃないの~
すっかりとフィリップに翻弄されてしまって…そして、頑張れ私!と自分で自分を励ましながら何とか笑顔を作る。
「分かったわ!フィリップ…そして是非アリシアって呼んでね」
何とか平常心を装って、そう返事をした。それにホッとしていると、何やら視線を感じる。うん?
「またまたお取り込み中だけどよ…帰るぞ!アリシアはまだ体調が万全じゃないし、これ以上居たら負担かけちまうぞ~」
馬車に既に乗っているアンドリューがそう声を掛ける。アンドリューったら、普段は憎まれ口叩いてるくせに、こういう時は気遣い出来るんだよね!それにフフッと笑って「ありがとう」とお礼を言う。それからフィリップも「そうでした!」と慌てて馬車にと乗り込んだ。それから…
「アリシア!新学期までに身体治して来てよ~」
「いい気になって、出歩いちゃダメだからね?」
「ちゃんと布団掛けて寝ろよ!」
なんだか母親から言われているみたいだが、その気持ちがとっても嬉しくて満面の笑顔で皆んなを見送った。そして私は、大好きな親友達が乗った馬車をいつまでも見ていた…
「お嬢様…今日は最初こそはびっくりしましたが、本当に楽しかったですね。私も学園でのお嬢様を垣間見ることが出来て、感無量でございます!」
ロメオがそう言って何だか感動している。それは大袈裟じゃない?とは思うが、きっとずっと心配していたんだと思う…
「今日はありがとう。準備大変だったでしょ?まだ沢山お茶菓子残っているし、お礼に屋敷の皆んなで食べましょう!」
私はそう言ってロメオをはじめとする使用人皆の労をねぎらった。何日も前からソワソワしてたもんね…
それに笑顔のロメオは「はい!」と返事をして、屋敷の中へと入って行く。するとロメオが、あっ!と声を上げて首を傾げていて…
「そういえばお嬢様。お祖父様である前ルーベルト侯爵様に助けていただいたこと、お話しになりませんでしたね?そのことは秘密になさるのですか?」
──うわ!忘れてた…どうしてだろ?
完全にその件を言い忘れた私…一番といっていいほど大事なことだったのに、何故その話にならなかったのだろう?と暫し考える。ああ、思い出した!フィリップが言ったことで、話の流れが暴言事件の方へと行ってしまったんだわ…そう気付く。立派なお祖父様のことを皆に話せなかったのは残念だけど、また幾らでもチャンスがあるわよね?
「また次の機会に話すわ。それに今度、今回のお礼にお祖父様とお会いしなくっちゃ!」
そう言ってお祖父様と会えることを想像して、楽しみになった。あれ程心配してくれていたし、会っていただける筈!そう胸を弾ませながら。そしてこれは思っていた通りに実現する。実はルーベルト邸へ行く度に、お祖父様が隠れて私を見ていたことを。そして娘であるお母様の最期を看取れなかったことを凄く後悔していたことを知る。そしてこれからはその罪滅ぼしに、私やお父様と交流をしたいとおっしゃって。だからこの件は大丈夫なんだけど…
私はまだこの時は知らなかった。このことで私の大切な人の人生が大きく変わり、そして私自身もそれに否応なしに巻き込まれて行くことを…
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