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3・帝都へと

 あれから私は、短い時間で精一杯準備をした。付け焼き刃にしかならないかも?だが、それでも大恥をかくよりマシだと、基本的な学習全般と貴族としての礼法を学ぶ。それらはある程度お母様から学んでいたことではあるけれど、もう自分には残された時間などなくて、それを活かせる場に行くことすら無いと思っていたもの。ようは、真面目に聞いてなどいなかった…私って馬鹿!


 ──それを今になって後悔することになるとは~


 そうは思うけど、今さら後悔したってどうにもならないし。それなら一度入学してから頃合いを見て具合が悪いとか言って領地に帰ろうかしら?少しの間だけならバレずに済むのじゃないかしらね。それまでにきっと学園に通っているのが皇帝陛下のお耳に入って、お役御免にならない?


 そんな無茶な望みを思い浮かべて、それから母が好きだった庭を窓から眺める。それで少しだけ癒されていると、控えめなノックの後にメイドのロッテが部屋へと入って来る。


 「お嬢様、お茶をお持ちしましたよ。お勉強でお疲れになられたでしょう?」


 そう言ってカップをテーブルの上に置き、温かな紅茶を注いでくれる。ふわっとその芳醇の香りが部屋に広がり、思わずそれを手に取った。そしてコクリと一口喉を潤して…


 「ありがとうロッテ。だけど…勉強が全く頭に入らなくて!どうしよう?」


 そう弱音を吐いてしまう。それにロッテはちょっと笑って、それから両の拳をギュッと握って前へ出す。


 「大丈夫です!お嬢様なら、そんなのすぐ解決出来ます。ロッテは信じてます…お嬢様が学園でご友人の方々と楽しくお過ごしになるのを!」


 そしてキラキラの瞳を向けてくるが、それはそれでやり切れない。ロッテには申し訳ないが、この期に及んではもはや、ジタバタしても間に合う筈はない。それにこんなド田舎出身の伯爵家の令嬢、鼻で笑われるに違いないわ!見た目が良い訳でもないし…

 そうして再び窓の外に目を向けると、ある人が思い浮かぶ。私の婚約者であるロブ様…


 ガーイン伯爵家の三男ロブ…その方が私の婚約者だ。だけどもう四年以上会ってはいない。私が病に倒れて一年後、お父様が突然婚約者だと言って連れて来た。それにはびっくり仰天だったけど、寝たきりの私の手を取り「早く元気になってください」と言ってくれた。その時の笑顔が忘れられない!あのはにかんだ笑顔を…


 ロブ様は、何の変哲もない茶髪の私と違って、明るい太陽のような髪色をしていた。燃えるような赤毛だけど、陽に透かすと柔らかな色合いに変わり、まるで元気の源のような気がしたわ。力強い赤で私を照らしてくれて、元気になれるような気がした。だけどその明るさとは正反対な印象の黒い瞳は、ただただ静かに煌めいていて…きゅん!


 こんな素敵な人と婚約?と胸がときめいた。初対面ではお互いまだ十二歳で子供だったけど、今は成長してどんなに素敵になっているだろうかと…

 だから学園には行きたくないけど、ロブ様には会ってみたい!だけど少し怖いわね…あれから一度も会いに来てくれなかったから。こんな死にかけた婚約者…当たり前だと言えばそうなのだけど、それでも期待してしまっていた。なのに…


 ──もしかしてあの婚約は、無かったことになっている?


 そう心配になるけど、怖すぎてお父様に聞けない。だけどそれも学園に行けばハッキリするのよねぇ…


 大きな不安と、少しの期待…それを胸に私は、嫌々ながら帝都へと向かう。


 

 +++++



 帝都に着いて初めて感じたのは、まず人が多い!こんなに沢山の人がいるなんて…どういうこと?それに田舎では考えられないくらいに建物がある。それに遠くに見える大きな城は、皇帝陛下がいらっしゃる皇居よね?ってことは、お父様はあそこで働いてらっしゃるの?凄いー!


 その事実に気付いて、お父様のことを誇りに思う。そして巨大な皇居にも驚いたが、帝都にある我がランドン伯爵家の本邸にも驚きで!

 私が生まれたのはここだったらしいけど、戦争が勃発してから直ぐに母と領地へと向かった。それからこちらには来ることはなく、そんなに立派なお屋敷があるのも知らなくて…あんな広い屋敷でお父様一人、淋しかったわよね?

 

 今まで住んでいた領地の屋敷では、元執事をしていたじいやと、その妻のばあや。そしてコック長と庭師、ロッテをはじめとするメイド達、あとほんの数名ほどの使用人しかいなかった。それなのに…本邸には大勢の使用人達がいて、正直落ち着かない!それに一番慣れないといけないのかも?


 「さあさあ、お嬢様。お口をそんなに開けてキョロキョロしてらしたら、どこの田舎者なのかと笑われますよ?早く目的地のブティックに向かいましょうね~」


 そんなロッテの言葉にハッと我に返りつつ、そしてギロリと睨む。ロッテとはたった二つしか歳が違わないが、私を子供のように私を扱う時がある。確かにロッテは幼い兄妹を助ける為、まだ幼さが残るような歳からメイドとして働いている。そんなロッテの苦労を知っている私は、口煩いところには目を瞑ってきたけど。いくら何でも酷くないかしら?


 「ロッテだって田舎者のくせにっ!」


 「流石にこの違いにはビックリですよね~」


 ロッテの本音が出て、私達はアハハッと笑い合った。それから今日の外出の目的ドレスを仕立てようとブティック『カトレア』に向かう。

 

 街の喧騒とは少しだけ離れた所にその店はある。この帝都でドレスを仕立てるのは初めてで、全く知った店もない私は、メイド達に評判の高い店を聞いてやって来た。執事のロメオは、予約を取りましょうか?と言ってくれたけど、帝都見物を兼ねて直接行ってみると答えたんだけど…

 

 目の前に店を見上げて思う…連絡なしに来てしまったけど、大丈夫なのかしら?まさか追い出されたりはしないわよね?と。そうドキドキしながら店の扉を開けると…


 ──ギイッ。


 途端、目の前に広がる見たこともないような煌びやかな世界!それに驚き声も出ない。

 まるでホテルのような豪華な内装に、トルソーには色とりどりのドレスが掛かっている。これはこの帝都で流行っているの?とキョロキョロしてしまう。自分が知っているブティックとは全然違う…それほど選択肢のない生地を選んで、サイズを測り、それから好みのデザインをカタログで選んで作って貰う。それが主流ではないのだと初めて知った。あんなに沢山のドレス…売れるの?


 「いらっしゃいませお嬢様。失礼ですが…初めてでいらっしゃいますか?どなたかのご紹介がお有りでしょうか」


 店主だろうか?斬新なデザインのドレスを身に纏った女性が声をかけてきた。だけど高飛車な感じではなく、案外優しそうな人で少し安心する。


 「こちらはランドン伯爵家のお嬢様です。学園の入学に際して必要なドレスを仕立てたいと来てみたのですが…紹介がないといけませんか?もしかして、それで断ったりなんかしませんよね?」


 それに戸惑いまくっている私だけど、ここはロッテの強心臓が心強い!こんなお洒落な人物に物怖じせず意見出来るのは流石よ。だけど店主は、少し困った顔をしていた。やはり紹介や事前の予約は必須のよう。それに出直そうか?と困っていると、思い掛けない人に声を掛けられる。


 「今、ランドン伯爵家と言いましたね。本当に?」


 そう言って奥の個室のような部屋から、一人の貴婦人が現れた。その顔を見て私もロッテもギョッとする。


 「嘘…あ、あなたは!?」





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