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29・皇居での顛末

 次に私が意識を取り戻したのは、次の日の昼だった…

 あれから直ぐにまた気を失ってしまって、ビックリする程に寝てしまっていた。だけどその前に気付いたのは、助けてくれたのが私のお祖父様だった…ってこと。結婚のことでお母様を勘当し、それ以来一切の付き合いも接触も無かったあのお祖父様が!夢じゃないよね?


 確かお兄様は、スティーブ殿下の教育を任されていたのが、お祖父様だとおっしゃっていた。そして殿下は、師匠ともいえるお祖父様に頭が上がらないのだということも…本当だったんだ?

 遠のく意識の中で聞こえてきたのは、驚くべきお二人のやり取り。お祖父様が厳しく叱責し、殿下はただ恐れ(おのの)いていた。しどろもどろになりながら、呂律さえも可怪しくなっていたようだったけど…


 「それにしてもお嬢様ったら、あんまり私を驚かせないで下さい。寿命が三年は縮まりましたね?間違いなく!」


 そう言いながらロッテはスプーンで掬った、パンをトロトロに溶かした粥を目の前に差し出してくる。それを私は「鳥の餌付けみたい!」と思いながらも、パクッと頬張る。それにこうやって食べさせて貰うのは、何だか懐かしい…お母様を思い出すわ。そう感傷に浸っていると…


 「それにしても、前ルーベルト侯爵様がお嬢様を抱き上げて連れてこられた時は驚きました!皇居で倒れられたと聞いた時は本当に肝を冷やしましたし、おまけに侯爵様は背が見上げる程に大きな立派な御方で…。この方がお嬢様のお祖父様なんだと思って、じっと見てしまいました」

 

 そう言ってロッテは、うんうん頷いている。そうだろうな…きっと屋敷中が大変だったのだと思う。聞くところによると、あれから直ぐに皇居の一室に担ぎ込まれた私は、医師の診察の末絶対安静になった。それから半日程そのまま休ませていただいて、少し落ち着いたところでお祖父様が、ランドン邸まで連れ帰ってくださったのだ。その時は既に深夜…お祖父様から連絡を受け、そのまま屋敷で待機しているように言われたお父様は、気が気じゃなかったようだ。皆んなには心配を掛けて、本当に申し訳なかったわ…


 「そしてその原因となった皇太子殿下なんですが、皇帝陛下から張り倒されたようです…そして皇居でも大問題になったと聞いてます。罰が当たりましたね!」


 プリプリと怒りながらそう言って、もう一口分を私に差し出すロッテ。それをまたパクリと口に入れながら思った…殿下はもう、完全に廃嫡を回避する機会を失ったと…


 きっと誰かから聞いて、私が皇居に来ていることを知ったのだと思う…それが三度目だということも。そして疑心暗鬼になったのだろう私が有ること無いこと言っている…と。もちろん私は、()()()()しか言っていない。だけど殿下にしてみたら、皇帝陛下に告げ口しに来たのだと思ったのだろうな…。それこそ、実は皇帝陛下から()()()()やっていることさえ知らずに…


 「おまけに殿下、皇帝陛下から謹慎を言い渡されたんだって?だから部屋から一歩も出れないんだってね~」


 「そりゃそうですよ!もう一生出れなくてもいいくらいです!」


 ロッテのその言葉に、苦笑いを浮かべて聞いていたが、かえって良かったかも知れない。もちろん今回のことは、腹が立って行き過ぎた行為だと思う…一歩間違えれば、これだけで済まなかった恐れもあるからだ。だけどスティーブ殿下にとって、何をすれば堪えるのかを考えると、今はルーシーに会えないことが一番じゃないかと思う。だからまさしくこれ!…って思っちゃう。


 そしてあと一週間で夏季休暇の筈が、このことで私と殿下の二人は早々に休暇に入ることになった。ようは二週間の休暇の筈が三週間になったってこと!私は身体的負荷で大事を取って、殿下は謹慎で…。

 

 ──やだ~!皆んな絶対心配しているに違いないわ!だけど仕方ないとも思う…


 「さあさ、お嬢様。もっと食べないと元気になれませんよ?それにフィリップ様とのお約束も、日程を変更せざるを得なくなるかと…どうしましょう?」


 ──あっ、ヤバい…どうしよう?約束が!あんの、金髪キザ野郎~!おまけに浮気者のくせにっ。


 そう毒づいたが、本当にどうなる?日程をずらして貰うことは可能だと思うけど、そうなると夏季休暇の予定だってあるだろうから、かなり後になってしまうかも?聞いてみなければ何とも言えないけど…


 「あ、あいつ…あいつのせいで、フィリップ様との楽しみを延期するなんて…無理でしょ!これは体調を早く回復させるしかないわね?明後日までは登校があるはずだから…週末まであと五日しかないわ!」


 そう決心して、取り敢えず食べて元気を!とロッテに向かって口を開ける。

 

 「はい!お任せ下さい~」


 それから私とロッテは、また口を開けてはお粥を入れるを繰り返す。


 「はいどうぞ!」

 

 「うん!」

 

 「お次はこちら!」

 

 「はい!」

 

 「ほらほらもう一つ~」

 

 「はいよ!」


 まるで椀子(わんこ)そばを食べるような阿吽(あうん)の呼吸で、食事を続ける私達。それが功を奏して(?)か徐々に身体は回復し、何とか間に合ったー!

 明日はいよいよフィリップ様が、我がランドン伯爵邸にやって来る。


 ──そうワクワクして寝たけど…どうしてかしら?何だか思ってたのと違う。おまけにこんなに沢山?


 そう思って私は、楽しい筈のフィリップ様とのお茶会で、途方に暮れる…


 

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