23・絶体絶命のピンチ
突然そんな事実を突きつけられ、言葉もない…そして窓の外から見える、スティーブ殿下を見つめながら呟いた。
──それじゃあ、あなた…廃嫡ルート確定よ?
もちろん殿下がそれを知る由もないけれど、皇帝陛下の心の内は決まっている。それを知らない殿下は…そうなったら、立ち直れないほどの衝撃を受けるだろう…それこそ恋だ愛だと、言っていられない程に。
そして私はあれから、スティーブ殿下の真意を探れてはいない。廃嫡されてまでもルーシーとの愛を、貫く気持ちがあるのかを。もしも今、ルーシーとの愛を選択したなら、廃嫡する運命だと知ったら殿下はどうするのだろうか?そう思ってしまった私は、ちょっとだけイタズラ心が湧いた。嫌がらせ…といってもいいかも知れない。そして不貞行為だというのに、あんなに堂々と楽しそうにしている二人に対して、お灸を据えてやりたいという意味でも…
「んん…んん、あ、あーっ」
中庭にいる人達には聞こえないように発声練習をした。そして一度廊下に出て、誰も居ないのを確認する。それからまた窓際に戻った…
それから私は、喉仏に力を入れ精一杯低い声を出そうとする…
「スティーブ殿下って、婚約者がいるんじゃないのか?それなのに違う令嬢と二人きりなんて…間違ってる!」
中庭に居る全ての人達に聞こえるような大声で、そう叫んだ。
それから私は、全速力で走った!財布を握り締めながら。体力強化の授業のおかげで、思ったより身体が軽い。そして走りながら何だか愉快になって来る。『ついに言ってしまった!』というのと同時に『ついに言ってやった!』という二つの感情に包まれる。そして私は、間違ったことは言ってないのだ…と。
誰にも見られていないという安心感から、ドレスを翻しながら階段を二つ飛ばしで降りる…なんだか前世が懐かしい。そして校舎から中庭へと続く通用口のところで息を整えようと止まった。
「ハァっ…ふぅ…」
そして息が整ったところで、何食わぬ顔をしながら中庭に出ようとする。すると…そこで見た余りのことに絶句した!
そこには仁王立ちになっているスティーブ殿下、そして泣きべそをかいているルーシーが!そしてその後ろにはもちろん、ロブとニクソンも居て私を睨んでいる。それから中庭にいて声を聞きつけたらしい生徒達も集まって来ていて…
──私が言ったんだと疑ってる?声を変えたしバレないと思ったんだけど…甘かったかしら?
そんな私の心が分かっているかのように、スティーブ殿下は私を睨みながらも薄っすらと笑う。殿下とは今まで何度も対決しているけど、これほど冷ややかな視線を受けたことはなかった…明らかな『怒り』の表情だ。そして…
「ランドン嬢…君か?私に暴言を吐いたのは!いや、君しかあり得ないだろう…そうだな?」
そう詰め寄られ、どう言い逃れようかと頭をフル回転する。一番失念だったのは、教室に誰も居ないことだ。居ないからバレないと思ったんだけど、ここでまさか見つかってしまうことは考えても無かった!そうなると教室に誰も居ないからこそ、言い逃れ出来なくなってしまう…私、絶体絶命のピンチ!そうは思うが、何とか誤魔化さなければ…
「えっ…何のことですの?私は今からカフェテリアに行こうとここまでやって来たのですが…どうかされましたの?」
出来るだけ平常心を装い、苦し紛れにそう言った。だけど心臓は早鐘を打っている。ドキドキ…ドキと、まるで全身が心臓なんじゃ?と思うような動悸を感じて、それを何とか鎮めようと深い呼吸を繰り返して…
「私に対する批判があったのだ。皇族の私を批判するなど、あってはならないだろう?それに面と向かってではなく、隠れて批判するとは…小癪な!」
そう言いながら殿下は、私を睨み激高している。そしてジリジリと間合いを詰めて、私を恐怖に陥れようとしているようだ。
「あの声は、本当にランドン嬢ですの?いくら私が気に入らないからといって…酷いわ!酷すぎますっ」
ただスティーブ殿下の隣で泣いてるだけかと思われたルーシーも、そう言ってポロポロと涙を溢す。その迫真の演技(?)を見ていた生徒達からは「酷いわよね?ルーシー様が可哀想!」「いくら気に入らないといっても、あの言い草はないよな…卑怯だよ」などと言っているのが聞こえる。自分達は殿下達のことを黙認しているくせに、こういう時だけは批判してくる。と、そんなやり場のない怒りを感じて…
「どうなんだ?そう澄ましていられるのも、あと少しだ。今ニクソンに頼んで校舎を見廻っているのだから」
そう告げられドキッとする…もちろん皇帝陛下のお墨付きを貰っている私は、これによって不敬罪に問われることはない。だが卒業まで…が叶わなくなってしまう可能性がある。きっと今回のことが私の仕業だとバレた時点で、この学園に通うのは難しくなってしまうだろう。そうなったら…もうキャロラインを守ることが出来なくなってしまう。
そこに二クソンが、校舎を見廻って戻って来た。そして…
「二階の教室には誰もいないようです!それこそ一人も…」
マズい…と焦る。この高等部の校舎は三階まであるが、どうも声の響きから発生源は二階だと割り出したようだ。おまけに私も校舎の反対側の階段を降りれば大丈夫だったのに。まさか殿下がこっちから現れるとは…想定外だった!
「そら見ろ?今校舎には、生徒は誰も居ない。今の時点で、そこの通用口から現れた君だけだ!それはどう言い逃れする?」
それには流石の私も言い淀む。そして背中にはスゥーッと汗が流れ落ちるのが分かる…そんな万事休すな状況だが、何とかそれをひっくり返せないかと、画策してみることにする。
「本当ですか?ですが一つだけお聞かせ下さいませ。それはどんな内容だったのでしょう。その…批判というのは?それに、その声の主は女性なのですか?」
それに今度は、殿下の方が動揺したようだ。口の中でモゴモゴと呟いているが、ハッキリと言うことはない。それはそうでしょうね?ルーシーとの関係は、いわば不貞行為なのだから。それをこのような沢山の人達の前で、堂々と言えるのなら言ってみなさいよ!そう思いながら殿下の次の言葉を待つ。
「ウッ…内容については言えない…皇族の威信に関わることだからだ!それに今はそんなことは関係ないだろう?そして声だが、男とも女とも言えないような声で…だが、それはいかようにも真似出来ると思うが?そして君は、キャロラインの取り巻き令嬢Aだ!その犯人である可能性が一番高いということ…さあ、白状したまえ!」
──もうダメか…私だと告白しなければ場が収まらない?
そんな絶体絶命のピンチに、もう無理だと弱気になった時…
「それは違います!皇太子殿下。ランドン嬢は、私と一緒にいました。ですからそれはあり得ません!」
「えっ…」
突然私を庇うような声がこの場に響く!だ、誰?
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