21・年下の彼
「ああ、すみません!ア、アリシア様とお呼びするべきですね?それに突然…」
どうもここまで来るまで、他は全く目に入っていなかった様子のその人は、私の親友三人はもちろん、他の高等部の令嬢達からジロジロと見られている。どう考えてもここに、中等部の生徒がいること事態おかしいし、それにこの人特有の問題もありそうだ。そう…物凄く格好いい!
そんなのお姉様達が放っておく訳もなく、上から下まで舐めるように見られている。そんな視線にドギマギして、顔を白黒させながら汗をかいていて…
それを私は微笑ましくて、フフフッと笑ってしまう。そして私は一目で気付いた…彼がフィリップなのだと。
ロブとそっくりだと思っていたその顔立ち。だけど明らかに違う…少し朱色というのか、柔らかい印象の赤い髪だ。そしてその黒い瞳は、まるで星が煌めいているかのように輝いている…
そしてイエローグリーンのシャツの袖から伸びるのは、思いのほか逞しい腕で。そしてその長い腕で、恥ずかしさを誤魔化そうとなのか、頭をボリボリ掻いている。思わずじっと見つめてしまう…
「あなた…辺境伯家のフィリップ・ロード令息じゃなくて?」
その見知った声に我に返り、バッと振り向く。その声の主は…キャロライン!何故かフィリップの名を言い当てる。まさか中等部の生徒の名前を知ってるなんて!これは誤魔化し切れない?
そう焦っていた時、中等部の生徒達からフィリップを呼ぶ声が…それに見ると、生徒達は既に走り始めている。中等部はこれから体力強化の授業の時間だ。それを見て焦ったフィリップは、私を見つめて…
「すみません…仕切り直させて下さい!良かったら今度、お時間を作っていただけませんか?いつでもいいので…待ってます!」
それからフィリップは、颯爽と駆けて行く。そしてやはり来た時と同じように、あっという間に中等部の生徒の一団へと戻って行った。やっぱり辺境伯家の令息だわ…物凄く速い!その後ろ姿を暫く見送ったところで、何故か視線を感じる。うん?
力強くガシッと肩を掴まれ、ギョッとする!それに驚いて振り返ると…クリスティーヌだ。おまけに少し離れたところで、去って行ったはずのブリジットまでもがガン見している。
「さあ、もうお昼の時間だわね?歩いて疲れたし、とっととカフェテリアに向かうわよ!」
そう言ったのはキャロライン!今まで聞いたこともないくらい迫力のある声を出している。
それに私は「そ、そうよね?ハ…ハハ、疲れたぁ~」と誤魔化し笑いを浮かべながら歩きだす。これはマズい…と呟きながら。
+++++
「それで?あのフィリップ令息だけど、アリシアとどういう関係?それにしてもなんだか意味あり気だったわよね?…白状しなさい!」
私は今、俯いて汗をかいている。だが決して暑い訳ではない!この状況がそうさせるのだ。いくつもの目に私だけが晒され、詰め寄られている…このカフェテリアで!
体力強化の授業の後は、直ぐにお昼休みの時間だ。結構ハードな運動をした後で、それから後は筋肉痛で授業にならない!それでもう今日は下校になっているんだけど…だからたっぷりと時間がある。これはマズいでしょ?そりゃ嫌な汗かくってー!
「そうよ!私達の仲じゃないの?教えてくれないなんて、ホントは親友だと思ってないんじゃないの?」
「酷いわぁ~ブリジット、泣いちゃう!だけどあのフィリップ令息、ちょっとだけ見たことある気がしない?誰かに似てるのかしら~?」
皆んなが口々にそう言って私を追い込む。あーどうしょう?白状しちゃった方がいいかなぁ…だけどそうなるとロブのことも話さなきゃならなくなる。…いいかな?もう話さなきゃいけない雰囲気だし…いいよね?
「あのね…話すと長くなるわよ?」
そして私は、全てを話し始めた。私が病に苦しんでいた子供の頃に婚約を結んだのが、クラスメイトのロブ・ガーインで。そして当時一度だけ会って、それから一度も顔を合わせなかったこと。そして約四年ぶりにこの学園で会うことになったけど、もう既にロブには好きな人がいて…婚約解消を申し入れられたことを。おまけに、昔会った筈の婚約者はロブではなく、替え玉のフィリップだったことを。まあ、乙女ゲームの世界のことは流石に話せないから、その辺は端折りました!すると…
「なるほど…あのロブ・ガーインがね。殴ってこようかしら?」
「さあさあ、行きましょう!善は急げよ~」
「まだ教室に残ってるかも知れないわね?一発やっちゃいましょう」
──おいおい、待てーい!それは…マズいわぁ。だけどそう言ってくれて、何だか嬉しい!
私は慌ててブンブンと頭を振りながら「納得してるから!全然好きじゃないんで大丈夫~」と大声で叫ぶ。それから声大き過ぎた?って心配したけど、周りは誰も聞いてなかったようでホッとする。
「あのね、もう済んだことだから!それにね、実は私ホッとしてるのよ?婚約なんて柄じゃないし、そして正直に言ってくれて良かったし…」
「そうなのぉ~?」✕3
何だか知らないけど無茶苦茶残念そうだ…そんなに殴りたかったのかしら?そして私の為にこんなに怒ってくれて、物凄く有り難い。やっぱり持つべきものは親友だわね~
「なるほどなぁ~。ロブの奴、無口だろ?だから何を考えてるのか、僕らでも分かんなかったんだよ。もちろんルーシーを好きなのは分かるけどさ、だけといつも遠慮がち…っていうか。それで理由が分かったなぁ…。まあ、アリシア。元気だせよ!」
そんな聞き覚えのあるハイトーンボイスに、バッと振り返る。も、もしや?
見ると、ちゃっかり私達と同席しているアンドリューがいる。唖然とする私の視線に気付いたアンドリューは…
「さっきから居たけど?だってさ、ブリジットどうやって帰るんだよ。脚、ガクガクなんだぜ?僕が担いで帰らないと…でしょ?」
でしょ?…じゃないわ!全然違和感なかった。怖い…可愛い系男子って怖いわぁ~周りから見たら、令嬢五人組でしょ?
「まあいいじゃない?アンドリュー、今の話は内緒だからね?皆んなにバレたら、あんたが犯人なの決定だから!そうなったらどうなるのか…分かってるんでしょうね?」
それにアンドリューはちょっとだけバツの悪い顔をして頷く。それを見る限りは心配なさそうだ。
「分かったって!僕だって人の秘密をバラす趣味はないし。大した秘密でもないから大丈夫じゃない?それに僕一人だけBクラスなんだしさ…。だけどロブはともかく、問題はフィリップじゃね?あいつ、中等部の中では相当人気あるぜ。もしも狙ってんなら、ライバルがゴマンといるってこと!」
──はああっ?狙ってる…ですって?
そう言われて、先程のことを思い浮かべる。まさかフィリップが年下だとは思ってなかったけど、確かに好感のもてる人だった。言動の一つ一つが自然というか、飾らない性格なんだと思う。それに見た目も…格好いいわよね。…ハッ!狙ってないわよ?
「ちょっと、勝手なこと言わないように。狙う…だなんて!」
クリスティーヌがそう代弁してくれて、ホッとするのも束の間…
「アリシアは狙うんじゃなくて『狩る』のよ!」
──ええーっ!クリスティーヌさん?だけどそれ、ほぼ同じでしょ!
黙っていた罰よ!と言わんばかりに笑うクリスティーヌに、私は口を尖らせる。だけどそれにアンドリューは、やっぱり?とばかりに肩を竦めている。本気にするのはヤメて欲しい…
それから私はふと考える。だけどね…ちょっとだけときめいたかも?
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