16・意外過ぎる真実
「君が言った四年ぶりの会話、それはちょっと事実とは違うんだ…」
そう言って項垂れるロブ。想像の斜め上…というか、もはやオカルト?
だって四年前に顔合わせで会った筈が、今日が私達の初めての会話だと言う…そんなの怖い話以外あり得ないでしょう?
いつもは会話に入るなどの失態は皆無のロメオも、「ちょっとご令息、それは~」と呟いている。
そりゃそうだ!一体、何を言ってるの?ロッテがもしここにいたとしたら、張り倒されているわよ!私とロメオは、開いた口が塞がらない状態でロブを見つめる。
「まず、謝らせてくれ…本当に申し訳ない!実は…あの四年前、君のお見舞いに行ったのは俺じゃない…」
──衝撃の事実ー!何ですって?あの時の少年は…ロブじゃないって!はあああっ?
私は驚き過ぎて、見開いている目の瞬きすらも忘れる。それくらい衝撃的な答えが返って来たから…。だけどじゃあ、あの時の少年は誰だったの?ロブとどういう関係の…
「始めに聞くけど、アリシアはどう聞いていた?俺達の婚約のことだ。君のお父上から、どういった経緯で婚約をしたのか聞いているのかな?」
「ええっ!婚約の…経緯ですって?それは全く知らないけど…」
そう言ってから私は、まずロメオの方を見つめる。それにロメオは「私も知りません!」と言いたげな視線を送ってくる。ええっ、ロメオも知らないの?それなら私が知る訳ないでしょ!
「君のお父上が、俺の父に頼み込んだんだ。死の病に罹っている娘の心の支えになるように婚約させてやりたいと!不憫な娘に夢を与えてやりたいって。そしてうちは三人兄弟だろ?それにはうってつけだと思われたようだ。そしてその中で年が同じな俺が選ばれた。その時もう兄達は学園に通っていて、俺はまだそんな年じゃない。だから言葉は悪いけど、暇だから…という理由もあったように思う」
それには私は、父の心を慮って目を伏せた。きっと重病の娘に、最後の夢を見せたかったのだろう。『私だって結婚できる…』そんな心の支えがあれば、闘病を頑張れると思ったのでしょうね。そうか…そうだったのかと、やるせない父の心情を想う。そして…
「それで?それであなたじゃなかったのなら、私に会いに来たのは誰だったの?お兄様のどちらかなのかしら…」
それにロブは、頭を大きく振った。お兄様じゃないのだったら、誰だというのだろう?と困惑していると…
「俺はその時、辺境伯家の領地にいたんだ。中等部に入る前に剣術の修行をしたくて。そこには父の妹である辺境伯夫人がいる。ようは、叔母様が辺境伯家に嫁いでいるんだ。そして俺はそこで鍛錬に励んでいたんだけど、そこに帝都にいる父からの手紙が来た。その手紙で、婚約に至った経緯と、馬車をやるから顔合わせを兼ねてお見舞いに行くように指示されて…」
「へ、辺境伯家に?それとどういう…」
ロブのその時の状況は分かった。確か辺境伯様は、この帝国屈指の剣豪と呼ばれるお方だ。かつての戦いで、皇帝陛下と供に活躍したと聞いている。そんな方の元に行くのが、剣を極める一番の近道になるだろう。そしてお兄様達も、そうしてから入学されたのだろうな。だけど…何か理由があって、結局は私のところには来なかったってコトだよね?それならあの子って誰よ?ますますオカルト~!
そう考え込んでいる私の様子を見て、全ての事実を告白しなければ収まらないのだと覚悟したのだろうロブは、「最初に言っておくけど、悪いのは俺だけだ。それだけは間違えないでくれ…」と弱々しく呟いた。
「辺境伯ロード家には、俺の従兄弟がいる。フィリップというんだけど…彼だ。君のお見舞いに行ったのはフィリップなんだよ。俺はヘマをして脚を骨折して…それを父や兄達にバレて叱責されたくなくて、フィリップに無理やり頼んだ!幸い俺達はよく似ていて、年も殆ど違わない…だからバレないと思ってた。そしてこれが、その後一度もお見舞いに行かなかった理由だ。本当に申し訳ない!」
はあぁ…何だか頭が痛くなってきた。そんなことだったとは…と呆れるけど、それで納得いくことも多い。何故これまで一度も会いに来なかったのか…の答えや、ロブを見た時に感じた不思議な違和感の正体も分かった…
初恋かも?と、多少ときめいていた筈の私。だけどどうしてなのか、実際会ってみるとそうでも無かった…どこか冷めている自分がいた。四年も経っているから?って思ってたけど、違う人だったのなら納得だわ…
「怒ったか?酷いやつだと、責めてくれていい!それ程のことをしたから…おまけに正式な婚約者な君を差し置いて、違う人に恋をするなんて…」
そう言って真っ黒な瞳を伏せ、苦渋の表情を浮かべているロブ。そしてチラッとロメオの方へ視線を向けると、呆れ果てた顔をして強い視線で私に向けて頷く。それに私も大きく強く頷いた。
「分かりました…非常に驚きましたが、正直に言ってくださってありがとう。それで全てがハッキリしました。実は私も、理由の分からない違和感があったんです。自分でも何故か分からない程の…。だけど一つだけ理解できないのは、学園で初めて会った時私だと瞬時に分かりましたよね?あれは何故ですか?」
あの日が初対面なら、そんなに早く気付くものかと不思議に思った。あの時私だと直ぐに気付いて、おまけに名前も完璧に言えていた。あっ、名前くらいは覚えてて当然か!
「あれは、アリシアの特徴をフィリップから聞いていたからだ。君の領地で過ごした日々を、包み隠さず話してくれたから…。そして君のその榛色の瞳は、凄く特徴的だからね…直ぐに分かったよ」
うん…この地味過ぎる目の色が?「嘘っ?」と思わず声を上げる。それにロブは不思議そうな顔をして…
「珍しい色だよ?見つめられると、吸い込まれそうだ。それを自分では気付いていないのかい?それこそ嘘だろうと思うけど…」
そう言って少し緊張が解けたのか、ハハッと口と大きく開けて笑ったロブ。その笑顔を見て、私が感じていた違和感の正体が、今ハッキリと分かった!
──笑顔が違うんだわ!あの時の少年は私を見ながら、はにかんだような笑みを浮かべた…こんなに口を開けて笑った姿など見ていない!そうだったのか…
それから私とロブは、元々親達だって本当に結婚するとは思ってなかっただろうから、穏便に計らいましょうと約束する。そしてロブは、心のつかえが降りたようなスッキリとした顔をして、ランドン家を後にする。
そして私達は、婚約者を失った。だけど心は、まるで晴天の空のように晴れやかだった…
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