14・婚約者の訪問
ブリジットから聞いた、クラスが二分する事態になっていること…それは私とは関係ないでしょ?正確にはあるのだが、そこまでは責任をもてないというか…
だけど私達を支持してくれている人達が、他にもいるのだと知ってホッとする。積極的に動いてはくれないだろうが、あのヒロインや皇太子殿下に対して、少なからず行き過ぎな行動だと感じているのだろうと思う。それだけで今は十分だ…
そしてそれについて考えてくれる人が、増えてくれればいいな…って。まずは一歩進んだ感じかしら?
そんな時私は、意外な人からの訪問を受けた。もうすっかりと忘れられてるのだと思っていた人に…今さら何故なの!?
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それは突然にやって来た!今朝目が覚めると、ロッテが血相を変えて部屋へとやって来る。
──バン!
それにワッと飛び起きる私。ロ、ロッテさん?
「お嬢様…大変です。先程ガーイン伯爵家から連絡がありました。お嬢様さえ良かったら、午後からご令息がこちらを訪問したいと…おっしゃってるんですがー!」
「ロ、ロブ様が!?何でいきなり…」
寝起きでそんなことを伝えられ、驚き過ぎて頭が働かない…何故?何で?どうして?と繰り返す。
「取り敢えず、分かりましたと返事しておいてちょうだい。これを断って後日にしたら、それまでずっと気にするのも嫌だし…。それに午後なら、まだ時間もあるから!」
それからは大混乱のメイド達は、ドレスはこれを!とか、アクセサリーはこれね!とかいう声が飛び交っている。屋敷の使用人達は敢えて何も聞かないけど、私と婚約者の関係がどうなったのか気になっていたのだと思う。誰だってそうだよね?それはお父様だって…
お父様が言うには、まだ婚約は有効なんだそうだ。つまり向こうも何も言ってはこない。お互い黙っていて、どちらが先に婚約解消を言い出すのか…腹を探っている感じ?先に言い出した方が謝ることになるだろうし、あちらとしても言い難いのだろう。今日はもしかして、それを言いに来るの?
「もしかして婚約解消の件だったら、蹴り倒してやる…。お嬢様、先立つ不幸をお赦し下さい!」
ロッテがそんな物騒なことを言って私を脅してくる。ホントにこの子は、やりそうだから怖い~!
それを宥めながらお風呂に入って、それから軽食を取り、そしてその最終準備に取り掛かった。メイド達の目が血走っていて怖すぎる…だけど何だか、有り難いとも思った。皆んなが私のことを思って、一喜一憂しているのが分かるから…
だから気を強く持たねば!何を言われたとしても、取り乱すことだけはやめよう。いつものように毅然として振る舞えばよいのだわ!
そうは思ってみたものの、動揺は抑えきれない。そんな状態の私だが、メイド達がそつなく用意をしてくれて、後はロブ様の到着を待つだけになった。またまた可愛さ三割増しになった自分を鏡に映して、やっぱり違うわよね…と呟く。
あのヒロインのルーシー、確かに可愛い。顔もだけど、仕草の一つ一つが愛らしいというのか…あざと可愛いってやつ?
おまけにあれは天性のもので、とてもじゃないけれど真似など出来ない。まさしく魔性…あれではロックオンされたら、誰だってコロッといっちゃうだろうな。だけど何だかなぁ…
「お嬢様、ガーイン令息様がおいでになりました。客間にお通ししてありますので」
執事のロメオが落ち着いた声で知らせてくる。それにはメイド達は「来た!」とばかりに身をブルッと震わせる。あなた達の方が緊張してない?
そのおかげなのか、私自身の緊張は少し解けたように感じる。二階の自室から出て、一階へと階段を降りていき、もうこの頃になると覚悟も決まっていた。このまま有耶無耶でおかずに、今日話し合いに来てくれただけマシなのだと…そう思おうと。
そして客間の前に立つ…
──トン、トン。キィーッ。
ノックしてから客間の扉を開ける。その向こう側からは眩しい光が入って来た。ちょうどこの時間は、初夏の日差しがここまで差し込んでくる。その日差しを背にして立ち上がったのは、ロブ・ガーイン。一応、私の婚約者だ。それに一礼して、中へと入って行く。
「ようこそ、ロブ様。このように二人でお話しするのは、久しぶりですね。どうぞお座りになって」
そう精一杯落ち着いた声で言って、ロブ様の斜向かいに座る。それからロブ様を見上げると、凄く動揺しているように見える。今から話すことで、緊張してるのかしら?と少し不安になる。それから戸惑いながらもロブ様は、再びソファに身を沈める。あの時と比べて、鮮やかな赤い髪は変わらずに、体格だけが子供から大人になっていた。やはりガーイン家だけあって、体格は立派ね?確かガーイン伯爵様も、二人のお兄様達も見上げるほど背の高い方だと聞いている。今は同級生達より少しだけ体格がいい程度だが、あと一年もせずにお兄様達と同じくらいになるのだろうな。そう思ってから不躾だけど、お顔をマジマジと見つめる。学園の初日にロブ様が攻略対象者だと気付いて以来、ワザと視界に入れないようにしていた。うっすらと認識はしているが、じっとは見ていない感じ?だから今日は、およそ四年ぶりに間近で会うということだ。前もこんな感じだったかしら…?と思っていると、執事のロメオがお茶を持って入ってくる。例え婚約者だとしても、結婚前の男女が二人きりではマズい!だからロメオはそのまま、邪魔にならない程度に離れて、この部屋の隅で控えている。そして…
「ロブ様、今日はどういったご用事で?」
率直にそう聞いた。回りくどいことを言われても、私がこの世界を乙女ゲームの中だと知っている以上、良い方にはとらない。だからロブ様も、率直な気持ちを言えばいいのだと思う。
あなた…ルーシー・バーモントが好きなんでしょう?と、言ってみる?先制攻撃だわね。
そう想像して、ちょっと苦笑いしていると、次の瞬間ロブ様は思ってもいないことを言い出した。それは私の想像の斜め上をいっていて、予想も出来ないことだっだ。
「アリシア様、ルーシーと仲良くしてもらえないだろうか?」
「ええっ…?」
私は愕然とした。あなたが何故それを言うの?と。ほとんど婚約者らしいことなどしていないが、それでも今はまだ間違いなく婚約者同士の筈よ。それなのに?
「そして出来れば、友達になってやって欲しいんだ」
「あ、あなた…何を言っているの?寝言は寝てから言いなさいよねっ!」
余りのことに、本性の赴くままにそう言った。もう取り繕うことは、出来そうにもない…正気なの?と。それから私は、フツフツと怒りの感情が湧いてくる…
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