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もしも十年前の自分に手紙を出せるなら

作者: 川里隼生

 ご無沙汰しています、二〇一四年七月の私。二〇二四年七月の私です。その頃はどう過ごしていたでしょうか。もう詳しいことは忘れてしまいました。


 記録によれば、そろそろ『アンメディアリテラシーファミリー』を投稿して『小説家になろう』デビューを果たしますね。あなたはそれ以降も最低一ヶ月一作ペースを維持して、十年で二百四十五作を世に送り出していますよ。読まれているかどうかは別の問題ですけど。IDが七桁のユーザーさんも現れています。


 二〇一四年の私は、もしかしたら今より尖った目をしていたかもしれません。二〇二四年時点では、ちょうどあなた辺りが私の人生の底です。あなたから私は焼け野原になった心の復興を遂げていくのです。きっと二〇一四年の私は、悲しみや苦しみの渦から抜け出せず、辛い日々を送っていることでしょう。そうでなければ小説なんか描きません。過去の自作を読み返すとき、私はあなたが考えていたことを今も思い出します。喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉がありますが、反対に私はあなたが味わった苦しみを忘れまいと努めているのです。


 自作を読むことで過去の境遇を思い返すという行動は故郷の長崎が何十年も前に終わった戦争での被害をずっと覚えていようとしている活動と似ていますが、実は目的が違います。長崎のそれは二度と世界で同じことが起きないようにするためのものですが、私の場合は苦しいことに直面しても「十年前に比べれば大したことない」と痩せ我慢をするためのものです。


 この十年間、何度も何度も、死にたい、逃げたい、消えたいと思いました。実際に何度も自棄になり、逃げ出してきました。自分の罪を他人に擦りつけようとしました。軽率な言動で多くの人を困らせ、傷つけ、迷惑をかけてきました。小説家らしく格好つけて言うなら、恥の多い生涯を送ってきました。


 これからも、あなたには大小さまざまな艱難辛苦が訪れます。あなたが苦しいと言っても、周りは常に応援してくれます。それでも苦しみに耐えたくない、そう思ったなら、きっとあなたは逃げ出すでしょう。勝手にしてください。私にはそれを止めることはできません。ただひとつ、どうせ無理だろうとは思いますが念のため、死ぬ覚悟だけは決めないようにお願いします。


 あれこれ言ったけど、将来の夢は叶ったよ。よく頑張ったね。

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