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 夢の世界は風も吹かず、四季折々の香りを運んでくることもなかった。

 コンクリートや土のにおいも、ない。埃も生まれないし、蚊やコバエもいないし、食べ物も飲み物も摂る必要がない。(自分で作って味わうことはできるが、腹は膨れない)

 屋外というのに、まるで病院の隔離室のような虚無感を覚える。

 ただただ深い藍色で覆われ、数多もの星々や銀河で装飾された夜空だけは、まるで田舎でそこそこ名所と謳われる山頂から見た夜景のように綺麗だった。

 そんな夜景の中で、リリアと名乗る少女の指導が始まる。

 新規メンバーは五人くらいで、俺以外はみんな、美男美女ばかりだった。

 十頭身はありそうな美女もいれば、爽やかクールなイケメンもいるし、ホビットみたいな小人もいる。ああ、そうか。夢の世界だから、自分の外見も自由にいじれるのか。

 じゃあ、美少女に見えても中身はおっさんの可能性があるな。どうでもいいが。


「はーい、注目」


 よそ見をしている俺たちに、クイッキーがやる気があるんだか無いんだかわからない声で注目させる。


「これからお前らには戦闘のイロハを叩き込む。まずこの世界の戦い方についてだ」

「何でもできる夢の世界だろ。指導なんているのか」

「おう、生意気そうなお前、試験には丁度いいな。名前は」

「俺はリヴィーズ。隊長の名前は」

「クイッキーだ。さんを付けろよ野郎ども。いいか、この世界は確かに夢の世界だ。『明晰夢』って名前くらいはお前らも聞いたことあるだろ。夢っていうは、自分が思った通りのことができる世界だ。腕を伸ばそうと思えば伸びるし、燃やそうと思えば燃やせる。だが、ルールがある」


 そこまで言うと、クイッキーは手の平から、めきめきと黒く巨大な棒状の武器を生成していく。

 管状の芯から、何かよくわからんレバーや持ち手や引き金のついた武器。

 先端がハンマーのように膨れた銃身。車のシフトレバーみたいな取っ手に、デスクトップパソコンみたいな弾倉。

 ロリポップな見た目に反して、デカデカとゴツいスナイパーライフルが出てきた。


「いっぺん死んどけやクソ生意気な新入り」


 ズガン、と火が灯り、目にも映らぬ速さで弾丸が撃ち放たれ、俺の右肩を撃ち抜いた。


「……っ!」


 射撃が来るのは分かってた。だから避けようと思っていたのに、早すぎで避けきれなかった。

 傷口から血が噴き出し、鋭い痛みが俺を襲う。

 キッツいな、急に。

 痛いのは嫌なので、さっさと傷口は修復した。


「あん? なんで出血してんだ、お前。現実で似たような重傷を受けてない限りはイメージしないもんなんだが、まぁいいか。ハートを狙った攻撃以外は軽傷だからな。それはともかく、これがイデリアのルールその1だ。わかったか?」

「自分が『具体的に』イメージできるなら銃も作れるってことだな」

「それもそーだが、違う。正解は『自分が作った物は身から離れるとすぐ消える』だ」


 俺は振り返り、床に開いた弾痕を見つめる。

 

「ばっちり貫通してますけど」

「話は最後まで聞け、この間抜け。例えば……そうだな。手の上にボールを作って床に落としてみろ」


 俺たちは言われるがままにボールを作り出して、ぽいと投げたり落としたりする。

 俺はなんとなくバスケットボール。周りのみんなはサッカーボールとか、ラグビーボールだった。ボールって色々あるよね。

 すると、ボールは見る見る塵になって消えていった。


「ホントだ」

「何でも作れるが保存は効かねぇってことだ。つまり、何でもアリではあるが、飛び道具はないってことだ」

「矛盾してるんだけど。さては説明下手だろ、あんた」

「う、うううううるせぇな!! うるっせぇ、お前、うるっせぇな!」


 なんかそんな歌あったな。

 すげぇ図星っぽい。


「とにかく! ルールがあるってことは抜け道もあるってことだよ。あー、つまり、つまりだな。超高密度のシリムを乗せた弾丸なら消滅する前に対象に一撃をぶち込めるってことだ。ま、現実で銃の構造に詳しくないお前らは、そもそも作れねーだろうがな」

「じゃあ説明しなくてもよかったんじゃ……まぁもういいけど」


 ハート以外のダメージは大したことないのだとわかった。

 出血するってことはダメージでもシリムを消費しているだろうし、傷を治すのにもシリムは使う。とはいえ相手も攻撃にシリムを消費しているだろうから、結局はトントンってことか。

 なるほど。ハートの強化を優先させるわけだ。

 弱いやつは強いやつに対して全く歯が立たないことになる。ハートを不意打ちで粉砕する以外に。

 ああ、なるほど。それで『射撃』か。

 弱者が強者を覆す一手のひとつ。

 このロリポップガール。意外にも優秀なのかもしれない。


「つーわけで、あたしが後ろから見ててやるから、お前らはアモクを見かけたら接近して攻撃しろ。武器は斧でも剣でも好きにしな。自分が最も強くイメージできるやつでいけ」


 俺は剣を生成する。

 鉄の持ち手に長方形の柄、剃りのない直刀。ひやりとした金属の感触が肌に伝わって来たので、柄の部分に灰色の布を巻きつけ、グリップ感を増やす。柄の部分もお洒落っぽくしたかったので、羽ばたく鳥のシルエットのようにお洒落な形に作り変える。刃は日本刀チックに。よし、完璧……。

 と思った俺の横で、ヒートバーナーみたいな剣を作ってるやつがいた。

 ちょっぴり負けた気がした。いや、どうせシリム以上のダメージは与えられないんだから、何でもいいや。

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