074_王国暦467年_春/07
よっす。
冒険者への憧れが強くなったオレだぜ。
とはいえ、そう簡単にはなれないのも冒険者。いや、冒険者を目指せないのは賊という生い立ちのせいかね。
賊ってのは徒党を組んでいるのが普通だ。
弱いから組んでいるってのもあるし、賊社会がそれを求めているのもある。
数を以て弱きをボコすオレたち賊は、数そのものが重要な要素になるんだ。
群れが大きければより多くの弱きものたちをメシの種にできる。
だからこそ、数が減れば減るほどしなびた賊の群れになってもいく。
数を減らさないためには幾つかやり方はあるが、
一番簡単なのはその群れに所属する賊が、他の賊を睨んでおく。つまり相互に監視するって手段だ。
足抜けしようとしたら殺す、そういう仕組みを作るのが手っ取り早い。
だからこそ、賊から上がって冒険者になったり、他の道を選ぶのが難しくあるのだ。
それはオレも例外じゃない。
何十万回も死んでは賊になっていると自称するところのオレですら、簡単に抜け出せないことをよーく理解している。
死んだって構わないと思っているオレですら抜けるのが難しいってことは、人生一度切りって連中にゃあハードルがより高くなる。
それに足抜けしたところでその先に必ず楽園が存在しているって確証があるわけでもない。
むしろ、より悲惨なことになりかねないのだ。
であればカシラの下で悪事を働いている方が安定しているし、ときどきは甘い汁も吸える。
悲惨な賊の在り方を思い出したところで、今回の賊生チェックだ。
オレは特に取り立てて特徴があるわけでもない。
青年、中肉中背、取り立てて目立つ物品もなし。
所属している群れは『徘徊系』らしい。
要するに、拠点を持たずに街道を歩いたり、野営しやすそうな場所に寄ってみたり、
そういう場所にいる連中で、自分たちで食えそうなら食っちまう。
野犬の群れも同然な集まりなわけだ。
ここのカシラは元々は闘士、つまりは『闘技場』で生計を立てていたらしい。
『闘技場』ってのはちっとばかり大きな街なら大体は存在している見て楽しむタイプの娯楽施設だ。
ぶん殴る、蹴りまわす、投げる締める、暴力ってのを娯楽に昇華した武力の楽園。
持たざるものが翌日にはヒーローになれるかもしれないし、ショーに使う獣のエサになっているかもしれない。
夢のある地獄ってやつだ。
王国は表向き人材の商いを禁止している。
人材商への締め付けが厳しい王国の表であれば、命の価値は高くなる。
価値が高ければ簡単にはエグい行為ができなくなる。
結果として殺伐としていない『闘技場』も公的にそれなりに存在もしていて、闘技場って言葉から来る血みどろのイメージよりかはクリーンだったりする。
だが、殺伐とした時代だ。流血と死が最高の娯楽だって嘯く連中も少なくないし、
結局のところは殺してなんぼ、殺されてなんぼの『闘技場』が大人気で金になる。
で、カシラはその殺してなんぼって方向の闘技場出身らしい。
人材商に捕まったってわけではなく自分の意思でその道に入って、上を目指すのがキツすぎて逃げ出してきたのだと云う。
その割には小規模ながら賊のカシラにまでなっているわけだから、腕に多少の覚えのある人ってことなんだろう。
上司についてあれこれと想起していると、手下がカシラと会話しているのが聞こえてきた。
「カシラ、断って良かったんですかい」
「男爵の依頼とやらか?
ケッ、くだんねえ。俺たちゃ自由が信条の賊だろうがよ。
自分から首輪つけられるなんてごめんだぜ」
「へへ、流石カシラ。
恐れ知らずですねえ」
カシラは「勿論、信条の問題だけじゃないがな」と付け加える。
彼の権力嫌いはよく知っている。
『詰め所破り』なんて二つ名を持っていて、オレの体にある記憶じゃあ、その雷名に惚れ込んで一団に加わったようだ。
「噂だとあの男爵どもも四人で群れていたらしいが、一角がくたばったらしい。
となれば次も欠けるのも時間の問題だろうよ。
そんな泥舟に誰が乗るんだ……って思ってたけど」
オレもその会話に混じるべく、
「案外乗ってた奴はいましたねえ」
そんな相槌を打った。
実際、記憶にあることを口にしただけだが。
「馬鹿な連中だぜ、こんな世の中だが死ぬよりゃマシだろうによ」
このカシラについていっているのは七人程度。
小規模だが、徘徊系の賊ってことを考えればこの辺りの数がいいところだろう。
「しっかし、獲物がいねえな」
「この先に野営地があるっぽいっすよ。行商どもがよく使っているとか」
「そこに今日のメシが転がっていることを祈るか」
『詰め所破り』とはいえ、破る場所がなければメシにも困るのだ。
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行商が野営の準備をしていた。
勿論、そんな無防備な相手を見れば襲いかかるのが賊のお作法ってものだ。
徘徊系の生活の一部がこれなのだから襲わない理由がない。
が、一番槍と意気込んで突っ込んでいった賊はその行商によって斬り伏せられた。
鮮やかな剣捌き。素人じゃない。いや、そもそも行商とも思えない。
カシラもそれに気がついたのか足を止め、すぐさま剣を抜いた。
大剣に分類されるそれは闘技場のような興業では人気の一品だ。
デカいから客席からもよく見える。よく見えれば人気が出る。
人気が出れば命が繋がる可能性も大きくなる。
闘技場での戦いを辞めた今も愛用しているってことは、カシラにとってこの大剣は手足の一部のようなものなのだろう。
「ナニモンだ、テメエら」
と言いつつ、一歩二歩と踏み込んで一番槍を斬ったものを一瞬で斬り殺し返した。
彼から聞く理由はない、と言いたげに。
そしてカシラの予想通りにどこに隠れていたのか、賊がぞろぞろと現れる。
「男爵が誘ってくださったってのに、それを蹴るとは馬鹿なことをしたなあ」
「こうやって俺らが送られてくるくらい予想できなかったのか、格好つけのアルバートさんよお」
現れたのは賊だ。
直接的な記憶には存在しない顔だが、カシラは誰かがわかっているようで、にたにたと笑いながら現れたその連中を睨んでいる。
アルバート、つまりはカシラはすぐさま返答をする。
「テメエらこそ、よくもまあ泥舟乗ってキャッキャと騒げるもんだな」
「誰が泥舟だと?
もしかして、我らが主である男爵閣下のことを言っているのかね?」
気がつけばオレたちは囲まれていた。
賊たちの人垣を割るようにして現れ、怒りを押し殺しながらカシラへと質問する男。
口調や装備からすると賊ではない。
男爵が賊に付けた監視役ってところか?
囲んでいるのがカシラが協力をお断りした男爵の手下と、協力要請に頷いた賊どもの集まり。
カシラの腕が立つことを聞いていたからか、それに対抗するために相手も腕っこきを揃えたのかもしれない。
立ち姿がなかなか様になっている奴らがちらほら。
「四人の男爵が同盟を組んでいたってのに、その一角が殺されたんだろ?
男爵様なんて尊い位置にいるお方が死ぬなんてその時点で泥舟だろうがよ」
「もう一度言ってみろ」
では、僭越ながら拙も……と言った感じでオレもおずおず会話に参加することにした。
「どっかで聞いた噂があるんすよ、カシラ。
男爵は戦いの中で死んだとかなんとか」
「そうだ、我らが主と崇める男爵閣下は自ら戦いに行くことを恐れな──」
無視ではなく返してくれる。
乗ってくれてありがとうと手を掴んでお礼を言いたいくらいなので、代わりに言葉をプレゼントすることにした。
「よっぽど手下が集まらなかったんでしょうねえ。
腕もへっぽこなら、人望までからっぽなんてマジで泥舟じゃないっすか。
それって四人もいたのにお互いに手下を融通したりもできないって有様ってことなんでしょ?
お互いに信頼もしてない連中に付き合うなんてヤバすぎっすよねえ!」
ゲラゲラと笑う。
全然おずおずじゃない。
ともかく可能な限り馬鹿にして笑う。
カシラや他の連中も同様だ。
この言葉と行為の意味が彼らもよく理解していた。
その余裕の現れによってか、包囲していた連中から少しずつ脱落者が出ている。
一人でも脱落して、士気が落ちてくれれば構わない。
正直先程までの状況だと万が一にも勝てないくらいの戦力差だったのだ。
殴る蹴るだけが戦いってわけじゃない。
特にオレみたいなザコはこういう狡っ辛い手でも取らないと生き残れないのさ。
「愚弄は死を以ても償えんぞ!殺せッ!償いをさせろッ!」
幾つかの脱走者のお陰でこちらにも勝機が生まれている。
こうして乱戦が始まった。
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「泥舟だったじゃあ、ねえか!」
ズタボロになりながらもカシラが大剣を熱狂的な男爵好きの頭に叩き込む。
生き残ったのは結局オレとカシラだけだった。
そしてその二人ともにひどい怪我を負っていた。
五倍以上はあっただろう戦力をひっくり返しているんだからこの程度の怪我で済んでよかったとも言える。済まなかった連中は皆死んじまったが。
「カシラぁ、随分と一党が減っちまいましたね」
「はー……、こりゃあ立て直しが大変だぞ」
「とりあえずこいつらの装備をかっぱいで売り払ってから考えましょうぜ。
金さえありゃなんとかなるでしょう」
「だな」
とはいえ、まずは傷の手当か。
全員の身ぐるみを剥がせば請願か何かで治癒の力がこめられた水薬、その一つや二つは見つかるだろう。
そう思って行動を始めようとしたところで、
「尖兵が全滅とは──腕は錆びていないようだな、アルバート」
声。
記憶を辿れば、この声の主がカシラに声を掛けてきた人物だ。
そうだそうだ、わざわざ男爵殿がお越しになったってのにお断りしたんだったな。
名誉だの沽券だので商売しているような貴人相手にそんなことすりゃ、そりゃあ追手も差し向けられるだろうさ。
「ウォーレンの奴を殺しといて、付き従えってのは道理もクソもねえだろ。
あんな日和見主義でも一応、俺の弟なんだがな」
「不出来な男爵を殺し、その爵位と土地を有効活用する。
王が動けぬ今こそ下々のものが団結するとき、多少の流血もやむを得まい」
ウォーレンってのが元々の男爵で、ウォルカールはそれを簒奪したってことか?
いや、弟ってことはアルバートも貴族なのか。
オレは息を殺して探し続ける。
彼らの会話がヒートアップし、なおかつ長続きしてくれることを祈るばかりだ。
「それで?
『伝説の闘士』、『鋼の狼』、『無疵』……。
幾つもの異名を持つ名誉の塊みてえなお前がどうして貴族に媚びへつらうなんてつまらんマネをするんだ。
闘技場の王者で居続けるのはそんなに退屈だったのかよ」
「お前に譲られた勝利の玉座などに名誉はない。
だからこそ、得るべき名誉を探したどり着いたのがここなのだ」
なんだ、カシラも妙に強いと思ってたが王者と張り合えるくらいのレベルだったのか。
でも、話からするとカシラは元々貴族か、その血縁に由来している。
それが闘士になったってなら放蕩もいいところだな。
っと、死体漁り成功だ。目当てのものを発見できた。
水薬が数本、それに……オレ向きの武器もあった。
「ザールイネスだかって公爵様が西方の壁になってるってときに、
テメエは国の後方を荒らすってわけだ。
まさか闘技場の絶対王者、『無疵』様が俺と同じ賊に成り下がるとはよお、お笑いだぜ。
俺の弟から奪った爵位と土地が泣いてるぞ」
「賊に成り下がった、だと?
わからんのか、この国の病巣を取り除き、平穏な時代を作るという使命の重さが」
「出た出た、反乱分子のカス貴族どもがよく使うお言葉がお前から出るなんてな。
悲しみと不快感で耳が腐り落ちそうだ。
誰にそそのかされたのかわからねえけど、それをするまでに何人が死ぬのか考えなかったのか?
闘技場にあって英雄はそのまま英雄でいてほしいもんだったがな」
舌戦ではカシラの勝ちっぽいな。
「……ここまで言っても通じぬなら、仕方もない。
元よりこちらも口喧嘩をするためにお前のもとに現れたわけでもないのだからな」
ウォルカールもまた、カシラと同じ拵えの大剣を持っており、それを構えた。
「カシラ!」
オレは治癒の請願が籠められた水薬を幾つか投げ渡す。
ウォルカールが動く前にカシラは水薬を受け取り傷にふりかけている。
が、相手もそれを見逃すような男ではないらしい。
闘技場で王者になったくらいなら、そりゃあ隙は逃さないよな。
騎士なら見逃してくれたかもしれないが、闘士じゃあそうはいかないか。
ただ、こっちも水薬探しの間に偶然とはいえ良いものを見つけてんだ。
じゃじゃーん、捕縛分銅!
個人的には有用な武器だと思っているんだが、戦闘で扱おうとすると案外難しいところもあるんだよな。
そのせいであまり手元に回ってくることは少ない。
もしかしたら元の持ち主も戦いのためじゃあなくて、狩猟目的の道具だったのかもしれないが、使えるものはなんでも使うぜ。
カシラへと突っ込んでいくウォルカール。
オレは横合いから、
「オッホエ!」
気合を入れてボーラを投げつける。
凄まじい加速を伴ったそれだったが、当たる前に気がついたか、それを大剣で払われる。
それで諦めるほど、オレは判断は鋭くないぜ。
余っているボーラを投げ、それらも片っ端から見切られ、弾かれる。
群舞するボーラに混じるようにさせて、
「オッホエェ!」
握り込めるくらいの小さな礫をボーラの軌道に隠すように投げつける。
「ごあッ」
片目にそれが命中するも、頭を破壊するには至らない。
この手の強者ってのは当たった瞬間に勢いを殺すための動きを取ってくるんだよな。
それでも片目は潰せた。それで十分。
「好敵手ともう少し語らったらどうだい、ウォルカールさんよ」
「──ッ!」
片目を失いながらも一気に距離を潰し、ウォルカールが踏み込んできた。
オレの言葉に返答はない。
だが、その表情が物語っていた。
『話したい』だが『進むべきところではないところまで進んでしまった』。
そんな後悔がありありと見て取れた。
カシラの言う通り、貴族に踊らされたのか。
やったことに情状酌量の余地ってのはないんだろうけど、同情はするぜ。
「カシラァ!お先に失礼しますぜえ!」
大剣がオレを真っ二つに割る。
最期に見たのは水薬によって傷を塞いだカシラがウォルカールに向かい、猛進してくる勇姿。
もう少し早くに目を覚ましていたら別の道もあったんだろうか。
考えても仕方ないことだ。
既にオレの意識の殆どは闇の中へと溶けていっているのだから。
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最後の手下を斬り殺された。
腕前はそこそこだが、目端の利く男だった。
あんな風に働ける男だったか、その記憶はなかったアルバートは部下のことすら把握できていない不明を恥じた。
彼のお陰でアルバートもまた戦える状態にまでに戻ることはできた。
感謝にしろ、後悔にしろ、その手のことは戦いのあとにするべきだろう。
「テメエなら闘技場にのさばるつまらねえ連中を倒して、
純粋に戦いだけがある場所を作ってくれると思ってたのによ」
「理想を他人に委ねるか、愚かな」
「ウォルカール、テメエだからこそ委ねたつもりだったんだ。
俺も外で邪魔になる連中を殺し回って、誰も邪魔をしないところで決着を付けたかったんだ、俺はな」
大剣が二つ。
交差するように振るわれる。
その一撃はどちらもが同じ速度、同じ角度で互いを斬りつけた。
そして、やはり同時に膝をつく。
「どうして、それをあの日に言わなかった……」
「言ったところで計画に頷くタマかよ、お前が。
俺の願いそのものはこうして半ば叶えられているってわけだが」
余計な邪魔の入らない場所での一騎打ち。
彼の望みは、当人の言う通り叶ってはいる。
「全盛期のテメエなら、この一撃は防げたろうぜ。
くだらねえ……貴族ごっこ遊びの報いだな」
「貴族生まれのお前には、持たざるものの飢えと憧れは……わからぬ……」
だが、その望みが完全に叶えられたというわけでもない。
二人ともに、闘技場から離れ、戦技の冴えの最盛期は過ぎ去ってしまっていた。
それは理解している。
だが、それが戦いを止める理由になるわけでもないと互いに見やる。
傷が深い。全力を出すことはできないだろう。
それでも武器を構えた。
「それでも、闘技場で戦い続けたお前は、俺が思う正しく強いものだったんだ。
しがらみばかりのあの場所で、あるはずのない自由がお前の強さに宿っているように見えたんだ」
アルバートの育った環境に正しさはなかった。個人の強さなど関係のない、不快な精神的な群体が触手を伸ばしては他者を侵す。
そんな場所で育った彼がウォルカールの戦いに出会ってしまった。
隷属されていながらも、自らの強さを誇示する彼こそ、原初的な正しさが宿っているように見えた。
陰謀も、暗躍もない、眩しい力強さだった。
「いつか、その正しさに追いつきたい。
その正しさに、オレに流れる不誠実な血をぶつけたいと望んじまったのさ」
人材商に隷属させられていたウォルカールは、命じられるままに戦う闘犬のような扱いだった。
だが、遂には戦いの中で自らを買い戻し、自由を得た。
解放されてなお、彼は戦い続け、絶対王者となる。
自らの力で、隷属やら人材商やらのルールを踏み越えた。
アルバートにとって、ウォルカールの正しい強さは一種の信仰でもあったのかもしれない。
「ああ、そうだな。
お前の言うとおりだよ、ウォルカール。
俺が愛したお前の正しさを、俺が勝ちを譲ったことで汚しちまった。
だから、次の一撃で帳消しにしてくれ。
命懸けをするんだ、いいだろ」
「……その一撃次第だな、アルバート。
昔日を上書きするような一撃であれば、ああ、帳消しだとも」
昔日。闘技場で行われた二人にとっての最後の戦い。
絶対王者とも呼ばれるタイトルを競った、その日。
アルバートが小さく笑う。
ウォルカールは笑えなかった。
やがて、最後の一撃が、或いはどちらかにとっての最期の一撃が放たれる。
ウォルカール男爵の名はここで消えはしなかった。
相対したものは死に、しかし、ウォルカールは生き残ったのだ。
酷い怪我と後遺症を受けながらも生き残ったのは、皮肉にも『貴族ごっこ』で得ていた防具や薬品のお陰だった。
だが、勝者はここに誰一人としていなかった。
「俺とて、お前に勝てたと思った日など一日もない。
いつか勝ちたい、それを願わない日もまた一日もない」
物言わぬ躯を見下ろし、ウォルカールは砕ける心から音を漏らすように呟いていた。
「……お前が俺に求めた正しさを知るために貴族になったんだ。
だが、未だにお前のことはわからない」
魂は燃え尽きた。
憧れを向けた相手を殺した。
ウォルカールという男の尊厳はこのときに自らの手で殺してしまった。
「俺の魂を焼いたお前が、賊に成り下がると言うなら、俺もまたそれに付いていくべきだったのだろうな」
死者は何も語らない。
人生における光を自ら消し潰してしまった生者もまた、死者とさして変わりはない。
この戦いに、勝者は誰ひとりとして存在しなかった。
「ああ……そうか。今日も戦うべきではなかったのか。
俺はまた、間違えてしまったのだな。
……アルバート、俺は……」




