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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
却説:逍遥周回

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64/200

064_継暦136年_秋/A05

 よお。


 魔剣獲得のために動きはじめたオレ様だ。


 部隊は二つに分けられた。周囲を警戒する部隊。

 そして魔剣があると見られる場所へ進行する部隊だ。


 オレは後者。

 アレックは土地勘があるから警戒と探索がメインの前者に割り振られた。


 魔剣なんて物騒だが、しかし高値の付きそうなものがずっと放置されていたのには理由があるそうだ。

 魔剣の周りに大量のアンデッドがいるのだ。

 そいつらはある一つの個体に紐づけされているらしく、倒せど倒せど復活する。


 言うなればその紐のもと、親玉に関してはどこにいるかもわからず、現れれば必ず探索者を敗北に導くという触れ込み付き。

 ……アレックが無事だったらいいんだが。


 オレたち魔剣獲得チームは警戒、探索チームが作った道を進む。

 リトルウォーレンを筆頭として、彼の騎士が二人、腕利きそうな冒険者がオレを含めて四人。


 警戒探索には三十名以上が割り振られていることからも、こちらが最精鋭で固められているのがわかる。


 オレが選ばれた理由は『付与術の鑑定ができる』ということをリトルウォーレンが重く見たから、らしい。

 魔剣を発見できればその場で鑑定できるのは明確に目的に沿った人材だったとも言えるか。


 アドハシュ原野はその名に原野を持つだけあって、木々は殆どない。

 背の高い草が繁茂していないのは歩くのに体力を使わずに済むのでありがたいものの、何とも寂しい風景が広がっている。


「あー、男爵閣下」


 一応、周りに騎士もいるし、リトルウォーレンを何と呼ぶべきかに悩み、そのように声をかけた。


「男爵だけで構わんよ、どうしたんだねヴィルグラム」

「アンデッドがいるんだよな……ですよね?」


 男爵は小さく笑うと「普段通り話したまえ」と。


「ん、それじゃあ」


 騎士たちをちらりと見るが、彼らは男爵の意見に従うようで特に反応を見せていない。


「アンデッドがうろついているから危ないって言ってたけど、

 ただただ寂しい風景が広がっているようでしかなくない?」

「アンデッドは警戒側に向かっているはずだ、そのように仕向けているからね。

 とはいえ、あちらには戦力もあるし、兄上から借り受けている対アンデッドの力を持つ兵もいるから問題もない」


 兄上、つまりは男爵同盟でも信頼できる可能性のある人物だ。

 ここにリトルウォーレンが出るにあたって虎の子を貸し与えたのだとか。

 特にアンデッドに覿面な力を持つ部隊だとか。


「安心したまえ、ヴィルグラム。

 あちらより、我々の方が危険かもしれんのだからな」


 ……アレックがいることを気にしていると思われたらしい。

 勿論、気にしてないと言えば嘘になるけど。


「アンデッドが現れたって腕っこきが五人もいるんだろ?」

「それはそうだが──」


 リトルウォーレン何かを言おうとしたとき、離れた場所から光が上がる。


「《退去》の請願……。

 あちらで戦いが始まったようだな。

 こちらは安全であることは確約されたが……急ぐぞ、諸君。

 アンデッドを倒せるのと、彼らが生き残れるのは別問題だ」


 その言葉に一同の移動速度は一段階も二段階も速いものになる。

 リトルウォーレンに関しては最早、普通に全力疾走レベルであった。

 今までの男爵のイメージが悪すぎるせいで、彼に不信感を持っていたのが申し訳なるくらいに、彼は必死だった。


 ───────────────────────


 全力で走った先に『それ』はあった。

 風化しながらもかろうじて人の姿だったものだと認識できる亡骸。

 水分は全て抜け、腐敗することもなくなったそれは膝をつくようにして、地に突き立てた剣に体重を預けるようにしている。


「あの姿こそ『魔匠』ロドリック……。

 間違いない、彼の手にあるものが魔剣」

「閣下、いかがしますか」

「うむ……まずはわしが」

「お待ち下さい、そのために彼を連れて来たのでしょう。

 彼に任せるべきでしょう。

 おい、冒険者!」


 話の流れからして付与術の鑑定ができるオレへと向けられたものだろう。


「貴様の能力であれば鑑定ができるのだろうな」

「ああ」

「それに関して質問がある」


 高圧的だ。

 何を言われるのかと思えば、


「その能力は武器によって負担が掛かり、貴様が死ぬことがあるのか!」


 心配だった。

 男爵の部下なだけあって、口ぶりはさておいても心配してくれているのはわかる。


「魔剣がどんなものかわからない以上は確約はできないけど──」


 そう言いかけたときに背後から悲鳴。


 冒険者の一人がミンチになっていた。

 眼の前には全身甲冑に巨大な鉄槌を持った『なにか』だった。

『なにか』といったのは、それは甲冑の内部から青白い炎が漏れるばかりで、人間としての要素を一切持たないものだったからだ。


「アンデッド……!?」

「応戦しろ!」


 騎士二人が詰め寄る。

 冒険者たちも、ここに選ばれるだけあって恐れ慄いて動けなくなる、なんてこともなく応戦する。


「ヴィルグラム、魔剣を頼む!」


 リトルウォーレンは剣を構え、オレの背を守ろうとする。


「……わかった!」


 オレが死ぬならいい。

 だが、オレがうかうかとしていて周りが死ぬなんてのは勘弁して欲しい。


「ロドリックゥゥゥゥ!!!」


 声というよりは、意味そのものが空気に反響する。

 インクによる発声とはこういうものだと、昔█ー████に教えられた気がする。


 ……なんだ?

 今、誰のことを思った?


 あの鎧男のインクの影響か、知りもしない記憶が掘り返されるようだ。

 いや、これがオレの記憶かもわからない。これ以上混乱させられてもたまらない。


 急げ急げ!


 魔剣だってなら、付与術が絡んでいるのは間違いない。

 こいつは、この魔剣ってのは何ができる?

 この危険な状態をなんとかしてくれるのか?

 そもそもとして、オレが持ったところで、解決になるのか?


 次々と冒険者や騎士が倒されていく音が聞こえる。

 振り返っている暇も躊躇している暇もない。

 かつて魔匠と呼ばれた男の作り出したそれに触れる。


 思えば、これは無警戒過ぎた。

 いや、自分の技巧の無理解が過ぎた。


 ───────────────────────


 剣を掴み、魔剣かどうかを調べようと技巧を使おうとする。


 ──ああ、しまった。

 なんて無用心な。


 ()はなんと無用心なのだろうね。


 だが、君のようなものをずっと待っていたよ。

 さあ、さあ、さあ。


 さあ、()の憎悪を燃え上がらせよう。


 意識が、混在する。

 これは──


 ───────────────────────


 継暦84年。

 相続戦争が一旦の終わりを見せたと言われてから三年が経った。


 その決着とは巨大な戦いの果てではなく、最大勢力でもあるウォルカール伯爵が急死、

 苛烈な亜人酷使による反乱が重なって瞬く間に栄華が歴史の露と化したからだ。


 結果として、次点を争っていた三大伯爵は満足できるだけの領地をウォルカールから切り取ることに成功。


 相続戦争はここで一区切りがついた、そう歴史書には書かれるのだろう。

 だが、実際にはまるで争いや諍いが終わる様子はない。


 特に三大伯爵のうちのビウモード、ルルシエット両伯爵は都市と領地が近いということもあって、今も睨み合いが続いている。


「ロドリックよ、どうしても我が頼みを聞けぬか」


 まったく下らない。


 さっさと平和な世の中を作ればいいものを、ビウモード卿は未だカルザハリ王国以来の統一を夢見ている。


 無理だ。

 アンタじゃあ無理なんだよ、ビウモード卿。

 随分と長生きを頑張ったらしいが、それでも老齢にしか見えないアンタがあとどれほど生きれるというのだ。


「ああ、聞けねえなあ。

 そんなもんを作りゃあ、ようやく作り出された平和が壊れるだけだ。

 オレはなあ、平和な世界で包丁でも作って過ごしてえんだよ。

 それを魔剣を作れ、だ?」

「それによって我が民は幸せになるのだぞ?」


 一気に頭に血が昇った。

 こいつは自分が今までやったことを覚えてないのか!?

 自領にいたエルフどもを片っ端から拐って、それで足りないとして隣領にも手を出した。


 そのエルフどもに何をしたか。

 オレは知っている。

 その血を抜いて風呂にして、臓物を食らい、延命のための忌道の材料としたのだ。

 効果があったのかは知らないが、それでもビウモード伯は少年王の時代に王国に仕えていたと聞いている。


 民が幸せになれる?


「馬鹿言うんじゃねえ!」


 そんな奴に魔剣なんぞ拵えてみろ。


「魔剣なんぞ作ってまでするような戦争の、その後にどれだけの人間が残るってんだ!」


 求めて、得ても、次を求める。

 終わりのない欲望に任せて多くの戦いをそこら中に仕掛けては、散々に配下を殺してきた。

 オレの妹もコイツの行動騎士なんぞやってたせいで異邦で命を落とした。


「……どうしても、聞けぬか」

「くどいッ」


 立ち上がろうとしたオレに対して騎士たちが槍でそれを制する。


「待て」


 それはオレに云ったのか、騎士たちにいったのかは判断できなかった。


「『あれ』をここに」


 奥の部屋から連れてこられたのは童女。

 どこか、懐かしさを覚えるも──


「この娘は貴様の妹、ロザリーの実子。

 世界最高峰とも謳われる解析の技巧を持つ貴様であれば、判断もできよう」


 兵士の一人に蹴られるような勢いで突き飛ばされる童女。

 オレの手に収まる、手が触れると、技巧を通して彼女から確かに妹と同じ血を感じた。

 その表情を読んでか騎士が娘を引き剥がした。


 剣を向け、

「作るか、どうかだけを問うぞ。ロドリック」


 断れるはずもなかった。


 ───────────────────────


 解析の技巧そのものは、オレにとってはさほど珍しいものでもない。

 世界最高峰などと言われても特に感慨もない。

 技巧の持ち主だってビウモードに限っても数名は存在する。


 そもそも、似たような請願──つまりは真偽判断のためのものだったりするもの──とさして変わらない。

 請願で得られるなら、ある程度は使い手の量産だって可能ということだろう。


 ただ、オレはその解析を使い、既に存在する付与術の品で要不要の機能を判断し、

 それをもう一つの技巧である『転換』で違うものにし、更に解析し……機能を何度も研磨するようにして優秀な武器を作り直すことができる。


 人生で数度、そうして優れた武器を作った。

 その度にオレの武器は多くの命を奪ったが、当時は戦争が少しでも早く終わればと祈ってのものだったところもある。


 だが、今は違う。

 オレは平和を求めていた。戦いなんてクソッタレ、そんなものは求めていなかった。

 やらねばならなかった。


 与えられたのはどこから持ってきたのか、カルザハリ王国の少年王の生誕を祝して作り出されたかつての国宝だった。


 これそのものが魔剣などと比べようもないもの、偉大な技術が幾つも組み込まれた(ひじり)ある逸品。

 それをどうにかして、戦争の兵器である魔剣にしろなどと馬鹿げているにも程がある。


 だが、姪の命には代えられない。


 美しい剣はオレの手によってどす黒く染まっていく。

 弄れば弄るほどに伝わってくるのは、剣に籠められた平和と少年王に期待する平和な時代の存続の願い。


 オレはそれを、真逆の方向へと転換させていった。


 ───────────────────────


 姪を人質に取られたオレがやれることはそう多くない。

 例えば、魔剣を使って戦うことだの、命じられるままに人を殺すことだのくらいだ。


 魔剣の完成後はそれを扱えるものもまたオレだけであり、戦場へと駆り出された。

 行動騎士の位こそ渡されたものの、相手は勇猛で知られる『憎念』バスカル。


 戦って、引き分けて、退いて、再び戦い。

 それを何度も繰り返した。


 最後の戦い、袈裟斬りにしたバスカルがワハハと大きな声でオレを笑った。


「もはや守るべき姪とやらも、既に殺されたと聞く。

 それでもお前が戦う理由はなんだ」


 何度も戦ってバスカルが言葉で相手を操ろうとするタイプの男ではないことを理解している。


 信じられないといった顔をしたときに、オレの体には矢が突き立っていた。

 先程まで共に戦っていたビウモードの騎士たち。

 彼らが何かを言うことはなかった。

 だが、彼らの行動がなによりバスカルの言葉に信憑性を与えていた。


 消えゆく意識の中。


 去来した思いは姪を守りきれなかったという無念と、

 魔剣に変じさせてしまった剣に対して懺悔であった。


 最後に見たのは多数の騎士たちを殺し、オレとの戦いによって弱っていたせいで殺されてしまうバスカルの姿であった。


 ───────────────────────


 インクが強引に引っ張られる。

 手足に自由がない。


「逃げよ、ヴィルグラム……!

 このようなことに巻き込んで、本当にすまな──」


 リトルウォーレンがこちらを向いて必死に退避勧告を出す。

 その頭上には巨大な鉄槌が構えられていた。


「そこに いたかあ 宿敵 哀れなもの 魔匠

 我が仇敵 ロドリックよ」


 にたりと笑い、それが振り下ろされんとしていた。


『無駄なことを。さあ、()の力を見せよう。

 アンデッドである彼奴を完全に滅ぼせずとも、気持ちは晴れる。

 あの男も助かるかもしれない。

 さあ、さあ、力を振るうのです』


「すぐに ころしてやろう 魔剣を封じて 眠らせてやろう

 お前を 解放してやろう 哀れな 哀れな我が宿敵よ」


 バスカルが鉄槌を振り下ろさんとしたのと同時に魔剣が振るわれる。


 この感覚は、ヤバい。

 主観的に、ついこの前に味わったのと同じ痛み。


 剣から放たれた青白い炎がそのままバスカルを消し飛ばす。


「アンタ、誰だ……」

()は、その手にあるもの。

 ただの機能。

 ああ、消えていく。

 また、持ち主を失う。

 まだ戦っていたい、この機能を使い続けたい。それだけを望まれたのに、なぜ、なぜ」


 地面に剣を突き立て、なんとか立ち上がろうとするが足腰がまったく動かない。

 リトルウォーレンがこちらへと駆け寄ってきているのが見える。


「魔剣そのものってわけか。ロドリックが祟ってるのかと思ったが」

「おかしなこと。彼はただ悲しんだだけ。

 ()に謝っただけ。持ち主に滅びをもたらすことになったことに。

 やがて振るえば耐えきれずに壊れる()を作り出したことに」


 意識が拡散し、闇に消えていく。

 これも知っている感覚だ。

 インク切れによる死。


 ただ、悪いことばかりじゃない。


 少なくとも男爵の全員がオレの敵じゃないってことがわかったし、

 味方でいてくれるかもしれない男を生き延びさせることもできたようだ。


 オレが次どこで復活(リスポーン)するかもわからないが、きっとここよりはマシだろう。

 こんな場所にシェルンたちを誘導せずに済むのなら、それは悪いことでもばかりじゃない。

 きっとそのはずだ。


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男爵も騎士もいい人で良かったです。
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