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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
却説:逍遥周回

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63/200

063_継暦136年_秋/A05

 よお。


 インク切れで死ぬという間抜けを晒したオレ様だ。


 いや、死ぬんだね。

 驚きだ。

 が、前回の生は実に有益だった。

 技巧を知り、何より仲間を得られた。


 仲間との合流をしたいところだけど、状況が簡単にそれを許してはくれなさそうだった。


「あれ? お前どこの組だ?

 もうみんな集まってるぜ」


 オレに声をかけてくる青年。

 年齢はオレの一個か二個上ってところか。

 毛皮を鞣した鎧、腰に蛮刀。

 山賊って感じの出で立ちだ。


 警戒を顕にしかけるも、


「あー、もしかして途中合流か。

 ならオイラと一緒に来な、仕事の面倒見るのも先輩の役目だろうしな。うんうん」


 何かを納得してくれた。

 先輩風を吹かせてくれるというならその風下にいることにしよう。


「なにかあるって聞いて来ただけなんだけど、大丈夫かな」

「ん? あー。そういう奴も多いよ。

 あっ、オイラはアレック。

 アドハシュ原野にゃ爺さんの代から住んでいる由緒正しい賊だぜ!」


 お前は?と言いたげな顔だ。

 まあ、名前は隠す必要もないだろうし、素直に名乗っておこう。


「ヴィルグラム、冒険者崩れだよ。

 偉い人を怒らせちゃったのか、命を狙われて逃げてきた」


 偉い人は男爵で、いられなくなったのも死んだからなんだけど、全体的に嘘はないだろう。


「いかちい名前だなあ」

「ただの冒険者だからね、せめて名前はお貴族様さ」

「ははは、いいねえ。

 それじゃヴィギー、こっちに来てくれ」


 即愛称付け、アレックからとんでもない『陽』の血を感じる。

 嫌な気持ちはしないけどね。


 アレックの背を追うと、そこには結構な数の賊、それにオレのような冒険者崩れが集まっている。

 それだけではない。

 そこそこの大きさの食堂に寝所に、武具やら道具やらを販売している連中もいる。商人だけでなく娼人たちも集まっている。

 ちょっとした軍の野営地の様相を呈していた。


 やや離れた場所にはオレたちを見下ろせる、小高い場所に男が立っている。


「リトルウォーレン男爵閣下のォ! お言葉であるゥ!

 全員、傾注ーッ!」


 男爵付きの騎士が大きな声で演説を知らせる。

 どうやら到着はいいタイミングだったらしい。


 年齢は三十かそこら。

 やや肥満気味というか、筋肉と脂肪が同居している樽のような体つきだ。

 禿頭(とくとう)。顔の半分近くが髭。

 眼鏡を着用し、その奥にある瞳は猛禽類のような鋭さがあった。


「よく集まってくれたな、諸君。

 わしはリトルウォーレン男爵である。

 諸君には既に手付金は渡っているだろうか、渡っていないものはあちらで受け取ってもらいたい。

 さて、今回の仕事を把握していないものもいると思うから改めて説明をさせていただく」


 その雰囲気からは想像もできないくらいに話がわかる風だ。

 割と人を見る目はあると思うんだが、その見地からしてもこのリトルウォーレンはある種の誠実さを感じる。


 ある種、というのはまあ、オレ側の事情だ。


 つまり、彼は男爵であり、オレはヴィルグラムであるという関係性である以上は警戒してしまう。

 なにせオレの死体を回収しようとしている手合の、その仲間かもしれない。


「この地にはかつて魔匠と呼ばれた騎士がいた。

 その人物が遺した魔剣が今も眠っているという。

 魔剣回収こそが今回の任務であり、承知していると思うがこの仕事には危険が伴う。

 改めて、各員の奮闘に期待するものである!」


 激励と演説と自己紹介を一度で終わらせたリトルウォーレンは去る。


 その後に任務内容が書かれた紙が流れてきた。

 識字率の問題を解決するために絵も多く書かれている。

 右下にリトルウォーレンのサインがある辺り、彼の手作りらしい。マメだなあ。


「あ、ヴィギー。まだ手付金とか貰ってないんだよな」


 アレックが案内をしてくれる。

 賊らしからぬ手厚さ。


 オレは手付金をもらい、その近くで店を開いている商人のもとへと進む。

 アレックは「もらった端から使うのか?」と不思議そうだった。


「道中で武器を落としちゃってさ」


 並んでいる武器は中古品だが、手入れはされている。

 金額もかなり良心的だ。

 こういうのって渡した金額をそのまま横から奪うような仕組みにでもしているのかと思ったが……。


「あのリトルウォーレンって人は本気っぽいな」

「何が?」

「今回のこの仕事を成功させるために全力を尽くしているってこと。

 商人もこっちの財布狙って高額設定にしているわけでもないし、そもそもこの金だって」


 軽くコインに歯を立てて、


「本物だしね」

「男爵同盟ってのが本気でこのあたりを探索しているんだ、今回みたいな仕事も初めてじゃない。

 担当者はあのリトルウォーレン以外にもいるけど、確かに一番手厚いのはあの人だな」

「男爵同盟……」


 まあ、やっぱりそうなるか。


「オイラも爺さんや親父から聞いただけだから詳しいわけじゃないけど、アドハシュ原野にゃ昔の戦いの遺産っつうか、廃棄品が多くあるんだとか。

 それを回収して武器にしている辺りデカい何かを起こそうとしてるんじゃないか?

 それこそどこぞの伯爵に喧嘩を売るとか」


 アドハシュは元々もっと豊かな場所だったと記憶していたんだが……。

 オレの記憶なんてのは頼りにならない。これも古い知識なんだろう。

 いや、それなら。


「オレ様はこの辺りは豊かだったって聞いてたんだけど、そうは見えないな」

「ああ、昔の戦いって奴で荒れちゃったんだとさ。これでもよくなった方だって爺さんは言ってたけど。

 五十年かもっと昔にすんげえ戦いがあったらしいよ」

「豊かだったのはその前ってことか」

「だろうね」


 つまり、オレのこの記憶は五十年以上前。

 少しずつ情報は上書きするのも、それなりに楽しい作業ではある。


「ん……?」


 話しながら商品を眺めていると割安な品の中にオンボロな直剣を見つける。

 値段はベーコン半分の値段だ。


「ボロいな」

「ああ、ボロい」


 が、これは付与術が備えられている。

 下手なものを持つよりはこれを選んでおくべきだろう。


「が、デザインがいい。これをもらおうかな」

「おいおい、ボロなのに良いのかよ」

「ちょっと手入れすりゃ見れるようになるかもだしさ」


 そんなこんなでひとまずは武器を得た。


 ───────────────────────


 アレックが飯を奢ってくれるというので甘えることにした。


 メシを摘みつつ、オレは買ったボロい直剣を技巧でアレコレと触れている。

 あのときはあれこれといじれたが、そもそもの質が低いものは変更できる幅やら、後天的に付与しなおす効果やらが極めて少ない。


 例えば、この買った直剣は威力に関わる出力自体は増加させられるが、刃の延伸なんかはできない。

 刀身の色変更はできるのでインクが流れたら派手な赤色に光るようにしてやった。


 彼はここで金を貯めたらルルシエット伯爵領に行って冒険者を目指すらしい。

 賊なんて命が幾つあっても足りなさそうだし、いい判断じゃないか。


「やあ、相席良いかね」


 そこに現れたのはリトルウォーレン。

 盆の上には軽食。

 周りの席は確かに埋まっているが……。


 アレックを見ると彼も「偉い人なのに」みたいな顔をしている。


「相席でいいの?

 邪魔ならどけるけど」

「いや、君たちの話に混ぜてほしくてね。

 こう見えても緊張するタイプで出陣前にはどうにも、こうして誰かと話していたいのだよ」

「なら、どうぞ」


 オレは彼が座る予定の椅子を引いて一応の歓待した。


「ありがとう、若い人」


 彼は貴族ではあるが、他の賊や冒険者崩れと同じく、会話しながら食事をすることに躊躇いがないようだった。


「なるほど、アレック君は冒険者に。

 では、この戦いが終わったらわしも一筆したためよう。男爵の紹介状なら邪魔にもならなかろう」

「いいんすか!」

「ああ、いいともいいとも」


 会った男爵が人材商のオーガスト、話したがりのタッシェロ、人食いのサリヴァンと来ているせいでどうにも信じがたい。

 が、色眼鏡で見るのも失礼だろう。なんとか価値判断の均衡を保つ努力をする。


 リトルウォーレンはオレを見て、

「君はどうだね」

 とこれからのことを聞いてくる。

 正直、アレックのような強い目的はない。

 受動的というわけではないのだが、仲間との合流をしたいところではあるが……。


 オレの命を狙う男爵たちの近くにいれるという機会はレアかもしれない。

 危険はあるだろうが、情報を集めておきたい。

 まずは、男爵同盟の一員であるリトルウォーレンがオレを知っているかどうか。


「ちょっと人に狙われていてね。

 この顔に手配が掛けられているんだってさ」

「ふむ……似た顔、か」


 リトルウォーレンはオレをじろじろと見て、


「よい面魂をしているくらいしかわからんな」


 わっはっはと笑う姿はやはり隠し事がなさそうだ。

 男爵同盟でも情報の格差ってのがあるんだろうか?


「ま、だからオレ様が狙われないような場所まで逃げる。

 そのための路銀稼ぎだよ」

「誰に狙われているか、それはわかるのかね」


 アンタらだよ!男爵同盟に狙われてんだよ!

 ……とは言えないよな。


 ──いや、いっそ言うのもありか?

 こういう状況でなければできないことではある。


「……リトルウォーレンさん、怒らないでよ?」

「約束しよう」

「オレ様を狙ってんのも、その男爵同盟って奴らしいんだが」

「我々が?

 ……何故だ?」


 困惑が浮かべるリトルウォーレン。


「オレ様の技巧が必要だからって話だったけど、男爵様ともなればオレ様からじゃなくたって協力的な奴を探せそうなもんなのに」

「ちなみに、その技巧というのは?」

「付与術だよ。とはいっても、付与術ができるわけじゃなくって、付与術の鑑定だ」

「うむ……。

 確かにそれならば外部から幾らでも人を雇えるというのに……。

 だが、なぜ同盟が……。シメオン卿か……?」


 深く悩むようにしてから、リトルウォーレンは立ち上がり、


「この身に恥じるものがなくとも、わしが所属する組織が君に多大な迷惑を掛けたのだな」


 膝を折って礼を取るリトルウォーレン。


「我が身において、謝罪申し上げる」


 流石にそれは求めてない。

 他人の名誉をむざむざ汚すためにやったわけじゃない。


「よしてくれよ、リトルウォーレンさん。

 アンタが悪いわけじゃないんだろ?」


 オレはすぐに腕を掴んで立ってくれと願うようにする。

 申し訳無さそうな顔をこちらに向けて、わかった、と。


「だが、……どうして君が狙われるのかはわからない。

 男爵同盟というのはビウモード伯爵家を打倒するために組まれたものなのだ」

「なんで伯爵を?」

「うむ……」


 少し悩むようにしてから、

「ここでは人が多い。わしの行動で注目も集めてしまったからね。

 悪いが、場所を変えてもいいかね。できれば──」

「ああ、オイラは腹減っちまったからここで軽く食べてくぜ!

 あとでな、ヴィギー!」


 空気を読む男、アレック。

 ありがたい。


 そういうわけでオレはリトルウォーレンと共に野営地の外れまで足を伸ばすことになる。

 人の耳目もそこなら気にならないだろう。


 ───────────────────────


「ビウモード伯爵の打倒の話だが」


 髭を一撫でしてから、


「彼らは呪われている。

 その呪いは民と土地、そして伯爵一族そのものすら喰らおうとするもの。

 多くの人間の寿命を吸い上げるカルザハリ王国の忘れ形見だと言う」

「だったら放っておけば労せず伯爵領手に入りそうなものだけど」


 呪いで打撃を受けたあとに攻めたほうがよほど楽そうだ。

 が、どうにもそういうわけにもいかないらしい。


「拡大しているのだよ、その呪いは。

 既に呪いはルルシエットの伯爵家をも汚染し、

 やがてルルシエットの民草と土地の全てが呪われることになるだろう」


 彼はその呪いの全貌を語るわけではないが、

 リトルウォーレンは呪いが爵位を持つものを祟るならまだしも、民や土地に牙を剥くことに関して忌避しているようである。


「寿命を吸い上げる呪い……」

「うむ、永遠の命を求めた過去のビウモード伯がカルザハリ王国のそれを使ったのだと」


 永遠の命はいつだって貴人の憧れの的だ。

 それこそ人形(オートマタ)が生み出されたのも、いつかの偉い人の発想からであろうし。


「それを止めるために」

「少なくとも、男爵同盟の現有戦力では強大なビウモード軍を打ち破るのは不可能。

 打倒を実現できるための力をこの場所で対抗策を探している」

「その対抗策ってのが魔剣か」


 彼は頷く。

 だが、男爵ってのは行動騎士にもなれるとか言ってた気がするが。

 気になったなら聞いてみればいいか。

 ここまで話したなら何を話しても同じだろう。


「追われているときにさ、男爵の一人が自分たちは行動騎士でもあるって言ってたんだけど、

 行動騎士だっていうなら男爵全員で攻めれば終わるんじゃないの?」

「確かに、我らは行動騎士でもあるが……全員が戦えるというわけではないのだよ」

「っていうと?」

「行動騎士はいかにも戦闘能力を大きくするものだと喧伝されているが、我々男爵は必ずしも戦闘に関わるものが強くなるわけでもないのだ。

 例えば、わしであれば」


 短剣を抜き、それを自身の手のひらになぞるようにした。

 しかしその肌は一切傷ついていいない。


「わしの行動騎士としての力は『皮膚が少し硬くなる』その程度なのだよ。

 多くの男爵はわしとそう変わらない。

 男爵の行動騎士というのはまあ、その程度でな」


 そりゃあ魔剣でもなんでも欲しがるわけだ。

 呪いをどんな風に破るかどうかも大事だろうけど、まずは伯爵家に勝てないと話にならない。

 もしかしたらその魔剣自体が呪いを破る何かに使うのかも知れないけれど、

 流石に魔剣についてのアレコレを聞ける雰囲気ではなかった。


 リトルウォーレンは小さく顔を振る。


「そう、我らはその程度の力を持つだけだ。であればこそ、行う戦いはせめて正しきものであるべきなのだ。

 他の人々が我らに味方をしてくれるような、正しさがある姿を見せねばならぬはず。

 であるのに、未来ある君を捕まえ、消費しようなど……それでは彼らの呪いと何が違うというのだ……」


 深いため息を漏らす。

 その姿は哀愁と悲嘆が多分に含まれていた。


「いや、すまない。このような姿を他人に見せるべきではなかったよ」


 彼はそう軽く謝罪をし、話題を切り替えるようにして言葉を続けた。


「わしには兄が二人居てな、わしよりも頼りになる偉大なお人だ。

 この件をしっかりと伝え、君にとって悪いようにならないように取り図ることを約束する」

「そんな、そこまでしなくても」

「いや、これは我らの戦いに関わる、名誉に関わることなのだヴィルグラム」


 少し離れた場所から笛の音が聞こえる。

 集合の合図だ。


「まずは魔剣の獲得。

 だが、それを向ける相手は……もしかしたなら、我が同盟からになるのやも知れぬな」


 リトルウォーレンは悲壮な表情をありありと浮かべていた。


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