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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
却説:逍遥周回

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50/200

050_継暦136年_秋/A01

 よお。


 不死身じみた聖堂騎士セバスに立ち塞がられているオレ様だ。


 セバスは剣を杖にするようにしながら立ち上がり、ゆっくりと構える。


「……このことは聖堂に伝えねばならぬ。

 そしてなにより、猟犬が群れから抜けることは許されないのだ」


 脇に突き刺さった剣を抜いて、それを捨てる。

 血は流れない。

 おそらくはフェリと喋っている間に請願で血止めと簡単な治癒をしたのだろう。


「フェリシティの前に立つか、少年」


 それが自然なことだとオレは思っていた。

 だから、そうする。


「少年、君よりもフェリシティの方が強い。

 君よりも、手負いの私のほうが強いのだぞ」

「だからってこんな子供の背中に隠れろってのか」

「……ふ、いい心構えだな」


 男は剣を構えようとしたときに、


「なんだあ?終わっちゃってるじゃんかよ!」


 声が響いた。


「おいおい、セバス!これどういうことだよ!!」

「……オーガスト男爵、なぜ貴方がここに。

 子飼の商人ではなく」

「任せられない商談だったからだよ。

 いや、だけど」


 男爵がオレを見やる。


「商談を挟む必要はなくなったわけだ、ラッキーラッキー」


 片手を上げると矢が飛来する。

 フェリがオレの前に立ち、盾を構え、それらを防ぐ。

 セバスもまた盾を拾うと同じように防いだ。


 結局守られているのは格好悪いが、ありがたい。


「まあ、これくらいじゃあ駄目だよなあ。

 この程度で殺せるなら猟犬の甲斐もないものなあ」


 オーガストと呼ばれた男の背後から弓を捨てながら剣や槍を構え直す連中が現れる。


「ちまちまと弓で戦ってもどうせ無形剣(ブレイズ)で距離無視で叩っ切られるだろうからさ。

 白兵の方が得意な連中を選んで正解だったな」

「男爵閣下、私まで狙う理由は」

「決まってるだろーよ。

 折角権力中毒(パワージャンキー)のチャール君を育てていたってのに、こうなっちゃったらさあ……報告するだろ、お前ら。

 そうなればお前らの飼い主は次の人材商を探すだろうけど、そのときにチャール君のところからこっちの名前が割れたら困るんだよねえ。

 暗躍している奴がいるなんて、思われたくないわけ」


 オレはつい笑いを漏らしてしまった


権力中毒(パワージャンキー)はアンタだろ、男爵」

「は?

 今なんつった?もしかして僕に言ったわけ?

 おいおい、聞き間違いじゃないよな?なあ?なあなあ。

 権力中毒(パワージャンキー)?僕の崇高な使命も何も知らないくせに?何言っちゃってんの?」


 すごいキレてる。痛いところ突かれたってそこまで怒るかよ。

 いや、でも都合はいい。


「はいはい。

 その崇高な何かしらの中身もひけらかさないんじゃあ、

 アンタの使命ってのはチャール君並に空っぽだってことだ。

 だって自信がないから喧伝しないんだもんな?」

「安い煽りしやがってえ!!!」

「安い煽りでキレて燃費がいいなあ、男爵ッ」


 オレとオーガスト男爵が言葉での殴り合いをしているのに乗じるように、セバスはじりじりと後ろへと下がる。

 流石にオーガストもその動きに気がついたようで、であればこそこそと話す理由もない。


「セバス、一人で勝てる相手か?」

「残念だが、手負いの私では無理でしょうな」

「それじゃあ、一時休戦と行こうぜ。殺し殺されはその後だ」

「……承知した」


 一方でオーガストはオレたちを睨む。


「傷の舐め合いかあ?

 ……おい!!ボサッとしてないでさっさとアイツらをぶっ殺してこい!

 安い金払ってるわけじゃないんだ!」


 そうして癇癪を起こしたオーガストだが、配下たちは何か言い訳をするでもなく、

 周りのものは簡単なハンドサインを出してからこちらへと進む。


 オレも一応はブラウンヘアの聖堂騎士が持っていた剣を拾い、構えた。


「フェリ、逃げるんだ」


 オレの言葉に悔しさをその表情に滲ませるフェリ。


「……いやだ」

「いやだと来たか……」

「自由、でしょ?

 私が貴方と一緒に戦うのも」


 思わず苦笑が漏れる。

 そうだな。

 それを持ち出したのはオレだ。


「そりゃ、……ああ、そうだな。

 それも自由だ。

 勝って冒険者を目指すぞ、フェリ!」

「うん!」


 ───────────────────────


 オーガストの手下は四人。

 全員が弓を捨てて白兵武器を持っている。

 ただ、ただの寄せ集めではないようで、付かず離れずの距離を全員が取り、それぞれが仲間をカバーできるように立ち回っている。


 セバスが先陣を切って、一人に盾を叩きつける。

 周りがそれに反応するが、カバーに入ろうとした一人を盾で防ぎ、もう片方には剣で応じる。


 連携という意味では猟犬たちも負けてはいない。

 セバスが二人の攻撃を受けたその瞬間に、剣で応じている相手に無形剣が叩き込まれ、絶命した。

 すぐさまセバスの剣を自由にさせまいと別の一人が襲いかかるが、そいつにはオレが挑んだ。


「いい連携じゃないか。

 どこの騎士団から崩れたんだ?」


 オレの言葉に小さく反応する。

 言葉こそないが、頷いたも同然だ。


「アンタらの飼い主、オーガストだったか?

 あんなんに手を貸すんだからよっぽどのことをして騎士団を破門になったんだな。

 私掠でもしちまったか?村か商隊か、その辺りだろ」

「賊に取られるくらいなら、こっちがやったって同じだろうが!」


 反論を述べた隙を衝いて、オレは剣を深く握り込んで体当たりをする。

 体ごとぶつかりにいくってのは武芸としては下の下だが、ただ殺せばいい今の状況ならこれが最適だと考えた。


 言葉での戦いにでもなると相手は考えていたはずだ。

 先程のオーガストとオレのやり取りを見ていればそう思うだろう。

 だが、あれは見せ札に過ぎない。


 オレの実力はたかが知れている。

 そこらの賊やらサンピンどもならまだしも、こいつらは明確な戦術行為を骨身に叩き込まれている。

 正面から切った張ったじゃこいつらを倒すことなんてできない。


 だからこそ、見せ札を用意して、そいつをちらつかせて、そして攻撃は騎士らしいものじゃないただの特攻を振る舞って。


 重ねた策は上手く機能し、剣が騎士崩れの命を奪う。

 それをフォローしようとした一人はフェリの無形剣によって命を断たれた。

 盾で攻撃を防がれていたセバスの側にいたものもセバスの盾殴りで頭をかち割られ、即死していた。


「愉快なお仲間は全滅したが、どうする?」

「そんな、馬鹿な……!」


 へなへなと座り込む。


「悪いようにはしないよ、男爵」

「それは……感謝する」


 男爵が白旗同然の言葉を吐いたとき、セバスがうめき声をあげて共に倒れた。


「なあんちゃって」


 特に理由はない。

 やったことは先程と同じ。

 オレはセバスのうめき声が聞こえると殆ど同時に無意識にフェリへと走っていた。


 殺したはずの騎士崩れが手に持っていた武器を投げようとしているのがやけにゆっくりと見える。


 狙いはオレじゃない。

 フェリだ。

 クソッタレ男爵め、よくわかってやがる。


 どうやったらオレが庇うか。

 つまりは、どうやったら相手の頭数を減らせるか。


 舌戦で手札を作ったのはオレだけじゃなかったってわけだ。

 オレが見せ札を作ったように、オーガストはオレって存在を見切ったってわけだ。


「フェリ!」


 殴られるような衝撃が背中から感じた。

 何があったかはわからないが、まあ、状況から察することはできる。


 なるほど。致命的な一撃ってのはぶん殴られたような衝撃になるのか。

 死ぬなら痛みも要らないだろうって、心が判断しているのかもしれない。


 オレはたたらを踏んで、フェリの肩を掴む。


「フェリ……、良い冒険者に、なれよ……」


 もっといい言葉を遺せてやれただろうか。

 けれど、きっと逃げろと言っても聞いちゃくれないだろうから、

 精一杯の言葉がこれだった。


 オーガストやチャールよりも、オレはよっぽど空っぽだったのかもな。

 もうちょっと中身が詰まってりゃ、もう少しマシな未来を作れたかもしれねえのに。


 あーあ、フェリが敵に向かって走り出しちまった。


 せめてフェリが勝つか、逃げられるか、それ以外の結末なのか。

 見届けたかったが、オレの命はそれほど頑丈ではないようだ。

 闇が迫り、意識はその中に解けていった。


 ……ごめんな、フェリ。


 ───────────────────────


 ゼログラムが命を落としたあとのこと。


『聖堂の猟犬』フェリの動きは迅速だった。


 眼の前には死んだはずの騎士崩れが、糸で操られる人形のように動いている。

 いかな忌道か、或いは超能力か。

 そこに興味はない。


(判断しろ)

(決断しろ)

(必要なのは常に運動だ)

(結果をもたらす運動をしろ)


 その声は幼い頃から彼女を鍛え上げてきた師匠の声であった。


 判断。

 ──死体を更に殺すことはできない。


 決断。

 ──動く死体を無視。


 運動。

 ──オーガストの排除。


 フェリが扱える無形剣の種類は五つ。それは正しく天才の証明であった。

 幼くして聖堂最強の組織にして、最深の暗部である猟犬の一員になれるだけの理由がそこにある。


 ただ、彼女が戦場で見せるのは基本一つだけに絞っている。それも、オーソドックスなものだ。

 それもまた、師匠の教えであった。

 技の多さはそのまま彼女の武器、長所となる。


 そして無形剣は命を奪うために伝わった技、必殺技であればこそ、

 その長所を隠し、確実に殺せるときにのみ見せていない技を放つのだと教えられている。


「あの死体は回収せねば……だが、猟犬め……!」


 ゼログラムの体の回収こそが目的(商談)であったが、激昂するけだもの(フェリシティ)をかいくぐって回収できるとは思えなかった。


 オーガストの超能力である、死体を動かす力はそれほど高度な動きをさせることはできない。

 つまり、騎士崩れを生者のときと同じように戦わせることなどはできない。

 仮にそれができたとしても勝てるとも思えなかった。


 早く行動を決定しなければならない。

 あの少女の振るう無形剣の距離になれば確実に殺されるだろうが、オーガストはその距離を見切っている。


 命あっての物種。

 無形剣から逃れるように背を向けて走り出す。

 走る速度だけでならばオーガストは彼女よりも速い自信がある。


 背を向けて走ろうとした瞬間。

 オーガストの体が断ち割られた。


「なっ」


 距離を測り間違えたわけではない。

 自らを切った、地面から現れた刃の形の違いに気が付く、

 あの年齢で複数の無形剣を使い分けることができるのか?


「このオーガストが……こ、こんなところで」


 ゆっくりと近づくフェリ。

 彼女はオーガストを見下ろす。


「りょ、猟犬め……」

「それも今日まで。ここからはもう、ただの冒険者になるんだ」

「何を」

「だから、猟犬として命を噛み砕くのは貴方で最後」

「や、止め……」


 剣が地面でオーガストを縫い付ける。

 断末魔が上がり、やがてそれも終わる。


 墓標のように突き立った剣を引き抜くことはなく、盾だけを掴み、歩いていく。

 名を聞くこともできなかった彼を抱き抱えると、歩き出した。


 彼女は少年を埋葬し、漠然と街の方向へと進むフェリシティであったが、

 村から逃げていた一行が賊に襲われているのを見た彼女は加勢に入った。


 その後、戦いの功績と礼を兼ねて冒険者や聖職者の推薦から、冒険者としての道を歩みはじめることができた。


 少年が望んだように、フェリシティは『良い冒険者』となる。

 それこそが自身の命と心を救い出した名も知らぬ少年への唯一できる恩返しだとフェリシティが考えたからだった。

明日からはまたいつもどおりの更新とさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] げへへっ、よう!兄弟!ずいぶん調子が良さそうだなぁ!(筆がノっていたようですね。一気に二話の更新お疲れ様でした) 賊から足を洗って、ちったぁましな暮らしをしてるってぇのに、向こうから賊みて…
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