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004_継暦133年_夏/00~継暦133年_夏/01

 よっす。


 オレは賊だぜ。

 賊な上に過去の記憶が無い、どこに出ても恥ずかしくない持たざるものさ。


 全部無いわけじゃあないんだが、おそらく十回ほど復活(リスポーン)すると大体その前の事を忘れていく。

 記憶容量の限界なのか、そういう仕組なのかはわからない。

 まあ、覚えておいて役に立つことのほうが稀だし、覚えておきたいと思った記憶の持ち主も殆どいなかったのだと思う。


 ただ、よほど優秀な経験や技術は固着するものもある。

 例えば、そうだな。


 ──今まさに役に立ちそうなものがある。

 オレは足かせと、腰縄が付けられている。

 それらは鎖と繋がっていて、鍵も掛けられている。

 こいつは最悪だ。

 オレはどうやらここのカシラの逆鱗に触れたらしい。

 内容は死ぬほどくだらないことなので、それは置いといてくれ。


 で、この体にはなかった技術がオレにはある。リスポーンした結果、この肉体にオレが持っていた諸々の力が収まったってわけだ。

 ちょうど鉄くずが幾つか転がっているので、それらから細い針状のものを見繕う。

 こいつを鍵にちょちょいとやれば……えーと、ちょちょい、ちょい……。


 かちりと軽快な音。

 やったね。

 解錠成功だ。

 例えばこんな風にいつ得たかもわからない技術だが、大いに役に立つとオレの魂が理解したものは引き継がれるらしいのさ。


 それじゃあとりあえず、ここから逃げるだけ逃げてみようか。


 ここは廃棄された砦らしい。

 近くにはそれなりの規模の街があるらしく、砦から出ては駆け出しの隊商やら、護衛代金をケチった商人やらを的にしている記憶がある。

 経験を積めば積むだけ力を得ることができる機会が与えられるのがこの世界だ。

 ザコ狩りに熱心になってりゃ一流には至れなくとも三流くらいの強さも得られたりする。


 ここのカシラがそうしたタイプだ。

 真面目に戦えば中級入りかけくらいの冒険者を、タイマンって条件ならいい勝負できるんじゃなかろうか。

 なーんて、褒めたところでな。


「おい、お前が鍵開けができるなんて知らなかったぜ。

 それでオレの金に手を付けたってわけか、オレの宝箱(チェスト)にゃがっちりとした鍵があって、閉じたままで中身が無くなってるのはおかしいもんなあ!?」

「カシラあ、それは誤解ってもんですよ。

 金はカシラが酔っ払って女に使い込んだんだ」

「周りの奴らはなんでそれをオレに言わねえ!」

「言っても聞かないからぢあっ」


 オレの頭はカシラのハンマーで砕かれた。


 どんなに役に立つ技術があっても、不思議と強くなる要素は手に入らないんだよなあ。

 あーあ、引き継げる力の種類が多くあったり選べたりすりゃ楽なのにな。

 そうすりゃサクっと賊から脱却できるってのに。


 命が消えるその間、それとは別のことを考えていた。


 オレは繰り返しの命を使って、一体何をすれば満足できるだろうか。

 ……長生きでもしてみたら、そうして死んだあとは少しは違う道が選べるようになったりするんだろうか。


 ただ、この考えは今は無意味もいいところだ。

 なにせもう、この命は完全に消え失せるんだからよ。

 さて、次は──


 ───────────────────────


 よっす。


 オレは賊だぜ。


 なんで毎回お決まりの言葉を使うのかって?

 意識を戻す度に呼びかける言葉を決めておけば、

 いつだってオレ自身がリスポーンしたって認識を持てるってもんだ。


 今回は結構レアな状況だ。

 周りがみんな死んでいる。

 オレは運よく生き延びたらしい。


 賊が一人になって生き残れるってケースは少ない。


 例えば、周りの賊連中がいる状況で一人になろうとすると密告(チンコロ)されるかもってことで追いかけて殺される。


 道中であれば(てい)の良い練習相手ってことで冒険者に殺される。


 街道を警邏(けいら)している守衛騎士(ガーズ)に殺される。


 とにかく殺されるんだ。理由なんてない。賊ってのはそういうものさ。

 だから隠れてガーズどもにバレないように犯罪をするんだ。


 で、今回に関してはかなり運がいい。こんな機会殆どなかったと思う。

 まずは密告が怖い仲間は皆死んでいる。ざまあないぜ!


 ここからは大きな街に近いから練習相手的に殺されない可能性があるが……、

 いくら冒険者と言えども何の理由も依頼もなく街道で人を殺せば、数時間から数日拘束されかねない。

 そうなれば日銭を稼ぐような冒険者にとっちゃ大打撃だ。

 ……ただ、オレの風体からすれば殺しているのを見たところで守衛騎士はスルーしそうな気がするのは棚上げしておこう。


 このチャンスを不意にするのは勿体ない。

 自由にさせてもらおうじゃねえか。勿論、殺されないようにしながらな!

 死体から役に立ちそうなものを片っ端から漁り、警戒しつつも大きな街へと走った。


 ───────────────────────


 見えてきたぜ!城郭都市だ!

 都市をぐるりと城壁が囲んでいる。

 堅牢な都市で様々な戦いに備えている以外にも入り口を制限することでヤカラを中に入る可能性は狭めているんだ。

 そう、例えばオレみたいな奴な!


 ビウモード伯爵家が治めていて、元は王国の主要都市の一つだったか……ま、そんなこたあいい!

 観光気分を満喫しないとならねえぜ。


 ただ、犯罪者を外から寄せ付けない気概に溢れるこの街の出入り口に進んだとしても、

 賊のオレはそこを通過(パス)することはできねえ。

 街の住民以外が入るには他の都市で何かしらの身分証でも作るか、有力な人物であることを示す証や紹介状が必要だろう。


 なんにもねえ。


 ……が、ここで諦めるのはアホのやることだぜ。暫くは隠れて出入り口の様子を見る。

 やはりチェックは厳しい。

 荷物に紛れて入るのは難しそうだ。


 では他の入り口はといえば、人通りの殆どないエリアに窓がある。

 勿論飛んでも跳ねてもまるで届かない。

 が、窓があるなら工夫をすれば入り込めなくもない。

 そう、賊ならね!


 オレは拾った物の中から縄と槍を取り出す。

 槍に縄を括り付けると、窓に槍を投げ入れる。

 ものを投げるのは得意分野だ。投げ出している回数が違うぜ。命とかな。


 そいつを引っ張ると窓枠に槍が引っ掛かり、縄を使って登攀(とうはん)することができる。

 結構な道のりだが、静かに確実に登っていく。


 ……外から窓に入り、周りの状況を伺う。

 誰もいない。

 部屋は有事の際以外は使われていない場所らしい。有事の際には弓手が置かれるんだろうかね。

 槍と縄を引き上げ、そこらに置いておく。

 もしかしたらまた使う機会があるかもしれないし、そもそもこんなもの持ち歩いてたらしょっぴかれかねない。

 冒険者なら身分の証明を出せば免除されるだろうが、オレにはそんなものないからな。


 扉には鍵が掛かっているが、こんなのはちょちょ……ちょちょいの、ちょい!だ。

 よーし、軽く一回は失敗したが開いたからセーフ。

 外へと向かい、やがて城壁から内側への侵入に成功する。


 降り立った場所は城壁の側。

 少しばかり歩くとすぐに大通りへと到着した。

 町並みは三階建て、四階建てくらいの建物がずらりと並んでおり、大きな公道は真ん中に街路樹が並んでいる。

 恐らく交通をあれで制御しているんだろう。

 制御しなけりゃならないほど馬車の行き来が多い通りってことだ。


 に、しても……広い!文化の匂いがする!

 何周回ぶりの街だろうか、覚えてないってことは相当回数の間訪れることは叶わなかったのだろう。


 夜中に出歩くのは衛兵に声を掛けられる可能性もある。

 身分を示すものはなにもないオレにとってそれは大いなるリスクなので、

 浮浪者がたむろしている場所を見つけて、邪魔にならないあたりで休ませてもらう。

 賊の外見も浮浪者の外見も大体同じ。なのでオレのすえた匂いに関しても誰かのご迷惑になることもないだろう。


 ────────────────────────


 昼前になって、オレは行動を開始した。


 オレの望みってのはそれほど大したものじゃあないと思う。

 リスポーンするにしたって死ぬスパンが短いのだけは避けたいだけだ。


 長く生きるためにゃ何ができるか。

 賊ではない形での就労だ。


 港湾労働辺りは悪い選択肢ではないと思うんだが、単純な肉体労働って飽きるんだよな。


 望みが大したことじゃないって言う割にはわがままだって?

 人生が一度切りじゃないからな、ダメだったら次に行くって思考は人を甘やかして怠惰にするものなのかもしれん。


 とは言え。ほどほどのスリルがあるなら単純作業でもいいんだが……。

 冒険者ギルドか盗賊ギルドあたりが望ましいか。

 前者はともかく、後者は薄ぼんやりとした記憶だと紹介が必要なんだよな。

 それを知らずに行って口封じに殺された記憶が浮上してきた。

 うん、盗賊ギルドはナシ!


 ってことは冒険者ギルドか……。

 行ってみればいいか。

 殺されたら殺されたでそれでもいいし。


 失うものがなにもないからこそ、自然体で冒険者ギルドの門を叩く。

 加入希望ということであれこれと面談をするらしい。

 臭くてごめんねと面談相手に思うも、相手は顔には何も出さない。

 オレみたいな手合は慣れっこってわけだ。


「読み書きは可能ですか?」

「ああ、できる」

「では、こちらに記述を」


 渡されたのは紙とペン。

 記すべきは名前、年齢、特記できる技術、自認職能……。


 名前は……下手すると指名手配されてたりするのか?

 バカ正直に書くのは危険かもな。

 えーと、適当な偽名か。

 ちらちらと周りを見渡す。施設内にはちょっとした飲食ができるスペースがあった。

 そちらのカウンターの上に置かれた料理の数々にはそれぞれに値段が書かれている。

 食料の量り売りをしているようだった。……量り売り。それでいいか。

『グラム』っと。


 年齢は28、特記できる技術?……解錠、軽業、投擲……くらいかな。

 自認職能ってのはなんだろう。

 わからないなら聞きゃいいか。


「この自認職能ってのはなんだい」

「あなたが考える自分が人と組んだときに説明する立ち位置ですね。

 剣を学んだことがあるなら剣士、魔術を扱えるなら魔術士といった具合のことを書いて下さい。

 自認するものがなければこちらでお調べいたしますが──」


 そう言って受け付けがこちらを向いている書類に逆から目を通したのだろう。

 悪筆だとは思うがそれでも一瞬で読み取ったらしい。

 プロだ。


 調べることもできる、ってことは以前にぼんやり思った職能の判断ってのはやはり他人が行えるものなんだな。


「あなたの技術からすれば、斥候(スカウト)と書くのがベターだと思いますよ。

 お求めであれば検査を行いますが」


 言葉尻が弱い。

 ああ、金が必要なのね。

 まるでないので、それは無理だし、別に自分の職能そのものに興味があるわけでもない。


「なるほど、提案感謝する。

 そのようにするよ」


 じゃ、(シーフ)っと。


 間違えた。

 斥候って書くべきだったのに。


 あ、流石に面談相手もなんとも言えない顔をした。

 書いちまった以上はもう遅かろう。修正なし。


「では、こちらが認識票(タグ)になります。

 なくした場合は階級によって再発行金額が変わります」


 想像通りの冒険者的な説明がされる。

 解放されたあとは自由に仕事を受けていいらしい。

 大事なのは経験だ。冒険者は度胸、なんでもやってみるもんだ。


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― 新着の感想 ―
一世紀が過ぎてもそこまで世界は変わってないってのは平和なのかな? しかも今度は冒険者になってる! 冒険者で死んだら次はどうなるんだ? 次回も楽しみ。
[一言] 時間過ぎ去りすぎ!??!?
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