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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
██:████

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36/200

036_継暦135年_秋 + LIST

 ただ、漠然とグラムの死を受け止めていた。

 ……いや、ヤルバだって気にしていないわけじゃない。

 逃げ道として、彼にとってあのお嬢様はちょうどよかったんだと思ってる。

 熱をあげるのも、一種の逃避だったかもしれない。

 勿論、その後は逃避や理由ではなく、心からメリアティお嬢様を案じ、或いは愛していったのだと思うけど。


 悪いことじゃない。

 ただ、ボクにはそれがなかった。ウィミニアも。


 少なくとも、ボクにとってグラムの死は自らの才能と実力、そして限界というものをありありと見せつけられた。

 挫折するに十分な事実と結果。


 そして、彼が生きていたなら、視野狭窄に陥りやすいボクを助けてくれる人になっていただろうという盲目的な願望が大きくなって横たわってもいることを理解している。


 金で忘れるでも、他領に行くでも構わなかったのに、伯爵家の目的に乗った。

 ボクが彼らの目的の手伝いに合意した理由は二つ。


 侯爵の遺産に魔術に関わるものがあるかもしれない。

 そして、もう一つはグラムのお墓が気になったから。


 忘れることを選べば、グラムのこともわからないことになる。

 他の二人がそうでなくとも、金を選んだ人間がどうして他の選択肢を取った人間に聞くことができるだろう。

 彼らに協力すればグラムのお墓に関しての譲歩は引き出せるだろう、そう思ったのだ。


 あの頃はまだ、ボクが『私』だった頃。

『私』がボクになるのは、戦いを何度も繰り返し、依頼をこなし、失敗し、成功を何度も得て、やがて侯爵が運営していた生命牧場の施設へと踏み入ってからのことだ。


 ───────────────────────


 (早く着きすぎたか)


 トライカの客間で私は杖を抱きしめていた。


 ビウモード伯爵の手伝いをすると言ってからもう二年は経った。

 休みらしい休みは一日も取らなかった。

 ああ、伯爵家の名誉のために言うなら、休みらしい休みを持たなかったのは私の趣味と実益のためでしかない。


 ヤルバなんかは休みの度にメリアティ様のところに顔を出している。

 太子……いや、現在は伯爵になられたが、彼もその交際に許可を出しているのだから祝福する以外に何もない。


 ともかく、私は忙しくしていた。趣味として。

 忙しくしていればしているほどに、私のインクは磨きがかかるようだったから。


 最初の一年は主にドワイトさんの仕事を手伝い、状況に応じて伯爵家から直接依頼を受けていた。

 賊の討伐だの、要人の護衛だの。

 この伯爵家は随分と敵が多いらしく、戦いには事欠かなかった。


 次の一年からは冒険者ギルドへの復帰も叶い、伯爵家以外の仕事も受けて良いとドワイトさんからも許可をもらったのでそちらでも仕事を受けた。

 魔術ギルドからも声が掛かるようになったのは嬉しいと言うべきか、一年も見つけられるのに時間を掛けてしまったというべきか。


 ヤルバとウィミニアと肩を並べて冒険者の仕事をするのも珍しくはない。


 多くの場合はダンジョンでの救出依頼のような、実力はあるが、危険度と報酬の払いがちぐはぐな依頼を受けることが多い。

 これはヤルバは、正しい行いをすることで伯爵家の人間の名誉を高めると信じてのものであったり、

 ウィミニアは教義こそ捨てている身ではあるが、聖職として人を助けることがやはり、性に合っているのだろう。


 経験してきた救出依頼は半分は成功、半分は失敗。

 助け出せた人と、もう命を失ってしまった人。だから、生き残った人の分だけ成功だというなら、半分だけ成功と言えた。

 その冒険者の一人が私に杖をくれた。その人はもう死んでしまったけれど。


「魔術を極めたいのなら、人の身から離れるしかない……か」


 その人は魔術士として、私の何倍も先に進んでいた。

 彼は死ぬ間際に杖を渡してそう告げた。

 今の私にはそれがどういう意味かはわからない。


「ルカルシ、ここにいたのか」

「ヤルバ。

 メリアティ様はもういいの?」

「お休みになられたよ、まだ回復しきれてはいないから。

 ルカルシの魔術とウィミニアの請願のお陰で少しずつ前進はしているが」

「やっぱり、根治には侯爵の遺産は必要……だね」


 一年ほど前からヤルバとメリアティ様はお付き合いを始めた。

 先程も言ったけど、伯爵も公認の間柄だ。


 木こりの倅と伯爵家のご令嬢なんて有り得ない組み合わせを、

 伯爵は「お前がいるからこそメリアティは明日への希望を持てている」とまで言ったらしい。

 正直、伯爵のことは良く知らないままだったけど、そんなことを言える貴族が居るとは思っていなくて、感服した。

 ドワイトさんが忠義を向ける相手であるという意味がわかった気がした。


「ウィミニアは?」


 噂をすれば影がさすというように、私の問いかけに

「お待たせしちゃった?」

 と、離れた場所から反応する。


「ううん、君の話をしていただけ」

「ごめんね。

 路地で困っている人がいたから請願を掛けてたら、行列を作らせちゃって」


 ウィミニアは信仰を持たない身でありながら、本来は教義に属することが獲得の条件である特定の請願を発動させることができる異才を持っていた。

 それは信仰を持つものたちからすれば外法そのものであり、すなわちウィミニアは外道そのものだったのだが、ここでも伯爵は彼女を庇った。


 伯爵が私達に目を掛けてくれていることは良く伝わったし、だからこそウィミニアもメリアティ様のケアに存分に力を発揮した。


 請願を発動させるのには信仰は必要なくとも、請願を得るためには信仰が必要であるかのようなルールが敷かれている。

 それは歪なように見えて、ある種の免許や免状の役割にもなっている。

 人間社会らしいシステムだとも思えた。

 自分本位な魔術より、よほど社会性がある……身勝手な魔術士の中でも自覚症状があるくらいに身勝手な私はそう思っている。


 ただ、請願を得るために信仰そのものを無視して、彼女にしかわからない手段で請願を得ていくのは請願ギルドや聖堂からしてみれば、目の上のたんこぶ以上の危険因子と言えるらしい。

 その上、彼女は困っている人間がいればすぐに手を貸してしまう善良なる悪癖があった。

 共に戦うようになった頃にはまだその『悪癖』はなかったはずだ。


 或る日、彼女がぽつりと漏らした。

「今の私だったら、グラムさんの致命傷は致命傷じゃなかったかもしれない」

 その時に私も気がついた。

 ウィミニアは私と同じだ。あの日の無念を払拭するために力を求めているのだと。

 自分の身を削るような悪癖は、きっとそこから来ているのだろう。


 ノック。

 二年間、毎日というわけではないがそれなりの頻度で聞けばこのノックが誰のものかはすぐに分かる。

 ドワイトさんだ。


「揃っているな」


 騎士甲冑にインクの気配を感じる剣。

 ドワイトさんの本気を感じることができる。

 二年間でも片手で余る回数しか見たことのない彼の《無形剣(ブレイズ)》。

 強力無比な技巧が必要になる状況がこの先に存在することを示していた。


「いよいよですか」


 ヤルバがいても立ってもいられないといった感じで。


「ああ、いよいよだ。

 ただ、目的地となる場所は迷宮(ダンジョン)で、

 しかも地上で見かけるような怪物どもとは異なる、戦闘にのみを指向する怪物たちの根城。

 今までより一段階、二段階は危険な任務となる」

「今更ですよ、ドワイトさん」


 ウィミニアは少し髪を伸ばしたこともあって、随分とたおやかというか、女性的な魅力を増した。

 別に自分の体型のことをとやかく言ったりする気はないが、まあ、美人というのは迫力があるというか、その意思を曲げにくくさせる効果があるというか。


「まったく、見た目は淑やかになったというのに、それ以上に迫力が強くなる一方だ」


 ドワイトさんは過去にウィミニアに息子との縁談を持ちかけたことがあるらしい。

 けれど、ウィミニアはあの日グラムを助けられなかったことが悔いとして残っていて、

 自分も他人もまだ愛せる余裕はないと断ったらしい。


 二年の間にそんな話になるとは、と言われるかも知れないが、それだけ私達は共に激戦をくぐり抜けてきた。


 正直、駆け出し冒険者の頃は徹夜で戦うことが日常みたいになるとは思ってもみなかった。

 お陰で根性だけは銀灰位階の冒険者と肩を並べられる自信がある。


 ともかく、ウィミニアとドワイトさんはどこか家族のような、娘と父親のような関係があった。

 どうにも身寄りのないらしい(当人が喋りたがらないから聞きもしないが)ウィミニアにとってドワイトは希少な『家族のようにも思える』相手らしい。


「じゃ、仕事の話をしよう」


 ご歓談はここまで、私はそう言って会話を区切った。

 こうやって話を次に動かすのはいつからか私の仕事になっていた。

 ドワイトさんも話し好きだから、仕方ない。


 ───────────────────────


 ボーデュラン侯爵は過去の人だ。

 勿論、会ったことはない。

 けれど、調べれば調べるほど、不思議な人物だった。


 彼は少年王に対して最後まで忠義立てていた人物であり、やや熱狂的すぎるとも言えた。

 彼が処刑される日、出席を求められるも侯爵は自らの目を(えぐ)ってから登場した。

 見なければ、死していないのも同じだと言いたげに。


 その後、善悪を顧みず数多の人間種を集め、『死した人間の再生成』を目論んだらしい。


 少年王の父、つまりは前王が永遠の命を求めて始めさせた研究がボーデュランの職務であったらしい。


 しかし、一度死んだ人間が作り直されることも、

 目を覚ますことも、

 生き返ることも、

 意識だけが別のものに宿ることもなかった。


 結果として、それが不完全な形で生み出されたのがアンデッドたちであり、

 攻略するべき迷宮には未だその実験の『成れの果て』たちがさまよっているらしい。


 瞳を失った侯爵だったが、むしろそれによってインクは拡大し、鋭敏になり、新たな魔術や請願の開発を進めたらしい。

 そのどれもが忌道スレスレか、忌道行きのものが多かったらしいが。


 ともかく、敬愛する少年王を失い、狂気に染まった侯爵は迷宮へと引きこもり、

 研究を続け、やがて迷宮以外の全ての領地は失われた。

 侯爵のその後を知るものは消えて、生命牧場がどこにあるのかも、知るものはいなくなってしまった。

 地上に残るボーデュラン侯爵の死についてのゴシップなど、全て人々の噂から発生したものに過ぎず、真実はどこにもないようだった。


 しかし、それでも断片化した情報を拾い集めた私達は迷宮へと向かうことができた。

 この先に伯爵やドワイトさん、そしてヤルバが求めているメリアティ様を助ける手段が、

 私やウィミニアが求める力があるのだろうか。


 ───────────────────────


 迷宮へのアタックには伯爵の麾下と、私達による複数のチームで行われた。

 いつのまにかエース扱いになっていた私達三人について来れるのは行動騎士たるドワイトさんくらいのもので、四人が一つのチームとして進むことになった。

 定石で言えば六人でアタックに望みたかったが、人材問題ばかりは仕方ない。


 結局、複数組まれた攻略部隊(アタックチーム)は私達以外全て脱落。

 よかった探しをするのなら、死亡者は出なかったこと。

 冷たい言い方をすると、結果を期待もしてなかった。


 迷宮は複雑で、アンデッドは強力だったが、それでも私達は最下層まで辿り着いた。


『この先、牧場と研究施設。

 侯爵の許可なきものの侵入を禁止する』


 最大限の警句。


「準備はどうだい」


 ヤルバの言葉に、私、ウィミニア、そしてドワイトさんは頷く。


 ヤルバ、ウィミニアは前に立ち、扉を蹴破るような勢いで開く。


 気合を入れた割に、誰もいなかった。

 侯爵が

「よくも我が聖域を荒してくれたな、命で贖え!」

 なんてことも、

 忠義深い亡霊の騎士みたいなのが、

「侯爵閣下から賜った任務、果たすのみ」

 なんてこともなかった。


 ただただ、薄暗い施設が広がっていた。


 私たちは危険がないことをある程度確認したあとは、それぞれで情報を集めるために散らばった。

 広い迷宮に、倒しても復活するアンデッド。

 ここまで人手を運ぶ方が難しい。

 であれば、今いる四人が手分けをして情報を集める方が早いだろうということになった。


 ───────────────────────


 これほど何もないとは思わなかった。

 時間経過によって風化したとかではなく、

 元々ここには何もなかったと言わんばかりに、どこもかしこも空っぽだった。


 ここがボーデュラン侯爵の持っていた研究施設、そして生命牧場であることは間違いない。

 場所の情報、侯爵家だった領地の距離、アンデッドの数など、判断材料の全てがそれを語っている。

 となれば、ここに何も残っていないのは彼が処分したか、

 考えたくはないことだが研究資料の全てを残さなくてもいい手段を持っていたか。


 世の中には膨大な知識を頭の中に蓄え、失うことのない存在がいるとも聞く。


 ……生命牧場。

 もしかしたなら、研究は彼一人で行っていたのだろうか。

 はるか昔の研究施設とはいえ、その痕跡がなさすぎる。

 だが、ゼロではない。

 そして、その痕跡のいずれもが一人の人間のものと一致するようにしか感じ取れなかった。


《命の温もりを持つものなど、久しく現れなかったが……。

 どれほどの時間が経って、ここに人間が現れるようになったのか》

「誰……!」


 杖を構え、声へと向ける。


《声にインクが乗っている。魔術士か。

 ふむ。では目を凝らすがいい。

 案内してやろう》


 その声が言う通り、朧気な光が点々と道を示し始める。


 警戒するべきだろう。

 この手の誘いはいつだって罠だ。

 二年程度の冒険歴で何を語るかと笑われるかもしれないが、それでも手痛い目には何度も遭えば学習もする。


 それでも、進むしか道はない。


 ───────────────────────


《恐れず、しかし警戒は忘れない。

 よい魔術士だ。

 仲間を呼ばないのは──》

「仲間を呼びに行けばへそを曲げて道案内を止める可能性がある。

 私を含めて魔術士なんて皆、どっかしら性格が悪いものだから」

《ははは。

 面白い考えだし、たしかにへそを曲げていたかもしれん。

 君の蛮勇を楽しく思っている自分を考えれば、な》


 案内されたのは魔術的に隠された道の、その向こうにあった部屋だった。

 書室と言えばいいのか、書室予定だった場所と言えばいいのか。

 棚はあれど、その中身は空っぽ。他の部屋と違いはない。


 異なるところがあるとするならば、部屋の真ん中に置かれたソファ。

 それはどれほどの時間が経っていたとは感じられない、新品同様のものであり、

 腰をおろしているように見える淡い光がそこにあった。

 人の形すらしていないというのに、それは随分と寛いでいるようにも感じる。


《ようこそ、若き魔術士。

 私はこの粗末な邸の主、ボーデュラン。侯爵とも呼ばれていたが、爵位などに興味はない。

 所詮は引き継いだしろもの。

 私にとって価値のあるものなど、この椅子くらいのものだ。

 ……っと、私は自分のことばかり喋ると陛下によく叱られたな……。

 君の名を聞こう、若き魔術士。

 我が家に足を踏み入れたのだ、それくらいの礼儀を求めてもよかろう》


 尊大な……とは思わなかった。

 眼の前の存在は、自分よりも遥かに格上の魔術士であることが嫌でも理解できたから。

 無いはずの片腕がぴりぴりと痛む。


「ルカルシ。果ての空のルカルシ」

《はははっ!

 よもや『果ての空』から来た人間だとは!》

「知っているの?」


 私の故郷は随分と辺鄙な場所にあった。ビウモードから見て、ずっとずっと北東の田舎。


 魔術くらいしか取り立てて見るもののない街だった。

 そこが嫌で逃げ出したわけじゃない。

「お前は才があるから旅に出なさい」などと言われて追い出された。

 体の良い口減らしだと思ったが、街の人間に迷惑を掛けたくもないので素直に従った。

 ともかく、それが私の故郷だ。


《知っているとも。

 我が終生の好敵手にして、我が命を奪いしもの。

 知らぬわけもない。

 ああ、身構えずともよい。恨みなどない。むしろ……そこには感謝すらあるのだから》

「感謝?なぜ?」

《肉の器はいつか滅びる。

 いかにこのボーデュランが優れていようとな。

 だが、ライネンタートは滅びを私に与え、魂のみの存在に昇華させた。

 彼奴にとっては予想もしていない結果であろうし、もし生きていたとしても知ることもなかろうが》


 ライネンタート。

 ……魔術ギルドで聞いた名前だ。つまり、高名な魔術士だということなのだろう。

 それ以上のことは知らないけれど。

 ともかく、それが彼を滅ぼした。

 しかし、今も彼は魂……或いはインクだけになっても存在している。


《ここに辿り着いたものが粗野で無学で、

 非才の戦士であったらと恐れていたが、魔術士だったことは幸運だ。

 さて、果ての空のルカルシよ。

 ここまで来て、何を求めていた?》


 答えるべきはメリアティ様のこと、或いは生命牧場にある知識だろう。


《ははは。何を悩む。

 魔術士であれば、傲慢自儘であることこそが本懐であろうよ》


 ボーデュランの声……いや、インクの共鳴が私の内臓と心を揺らす。


「……私の望みは……」


 私が二年間、戦ってきた理由は。


「力が欲しい。魔術の知識が欲しい。

 取りこぼしてしまう命がもうないことを望む。

 私は、弱い私を脱却したい」


 それが全てだ。

 あの日、グラムが死んだのが全てのきっかけとなった。


 正直、私はなんだってできると思っていた。

 優秀だと思っていた。

 インクの扱い方はまだ未熟でも、そう簡単に人の足手まといになるとは思ってもみなかった。

 確かに視野狭窄になるきらいはあるけれど、それを支えてくれそうな仲間と出会う運もあったし、その運が続くと思っていた。


 その全てが、まるで間違いだった。

 私は強くはなく、賢くもなく、そして幸運どころか人に不運をもたらす女だったのだ。


 それをひっくり返すことができるものがあるとするなら、圧倒的な力だった。

 あの日、グラムの亡骸を回収され、連れて行かれて、条件を出された。

 私は自らの不運を転換できる岐路に立っていることに気がついた。

 通常では手に入らない経験や時間を、ここでなら手に入れることができると。


《ふ、ふ……ははは。

 そうだ。それでこそ魔術士。

 この身は滅び、為すべきを為せることもなく消えるだけの運命の前に君が現れた。

 果ての空のルカルシ。

 私は君に魔術士としての力、つまりは知識とインクを渡すことができる。

 私の身に残った全てをな》

「それで、ボーデュラン侯爵閣下。

 あなたは私に何を求めるの?」


 どんなことにも得るならば失うものがある。

 時間。資産。力。人間関係。或いは別の何か。


《私が為すべきだったことを。

 我が愛、少年王のために為せる全てを為せ。

 それが契約だ》

「そんな不透明で不安定なことを契約しろと?」

《契約したあとになれば我が望みの全てがわかる。

 そして、この世界で生きる魔術士たちでは与えることができないやり方で君は力を得る。

 それは今、この場にのみ存在する唯一の機会。

 君にそれを断る勇気はない。違うかね》


 悔しいが……、そのとおりだった。

 簡単に得られる力など明らかに不条理な結果をもたらすに決まっている。

 けれど、弱いままであれば不条理未満の結末が私に待っていることくらいはわかる。


 力が欲しい。

 ただ、その望みを満たすためにならば未来くらい手放してやる。


「わかった。

 ……契約、しよう。ボーデュラン。

 他ならぬ自分のために」


 ──今にして思えば、あの契約こそ本当の意味で『ボク』の人生の始まりだったのかもしれない。


 ───────────────────────










 ここでの人物データの初出時は、名前が出たタイミングを参照しています。

 ただ、時間経過した後に再登場した人物は再登場したときを初出として扱います。

 例えばヤルバッツィであれば、本当の初出は『005_継暦133年_夏/01』ですが、時間が経過してからの再登場が『017_継暦141年_春/08』なので、初出欄にはそのように記述します。


ヤルバッツィ

 初出|017_継暦141年_春/08

 職能|騎士    装備|宝弓カルパノスカ

 性別|男     年齢|20代中頃

 身長|179cm 体格|がっしり

 色々あって出世したヤルバッツィ。

 ビウモード伯爵家、至当騎士団総長。

 斧を使うことはなくなり、弓を扱うようになった。


ウィミニア

 初出|027_継暦141年_夏/01

 職能|不明    装備|不明

 性別|女     年齢|20代前半

 身長|168cm 体格|締まっている

 キースが腰を抜かすようなインクや気配を持つ女性。


マシアス

 初出|030_継暦141年_夏/02

 職能|賊     装備|魔術剣(火走りの剣)

 性別|男     年齢|20代中頃

 身長|167cm 体格|がっしり

『火波のマシアス』という二つ名を持つ賊。

 名うての賊には魔術や請願を修めたものもおり、

 マシアスも魔術を扱う。

 カプタ村の村長の倅。


サナ

 初出|031_継暦141年_夏/02

 職能|自警団   装備|落ちていた石

 性別:女     年齢|10代中頃

 身長|157cm 体格|そこそこ恵まれ

 ルルシエット伯爵家から任命された小領主ケネスの雇っている護衛。

 ヴィルグラムの印地術を福音とし、(手習いレベルとはいえ)技巧として印地術を体得するほどセンスがいい。

 命中精度やトリックシュートめいたことはヴィルグラムにはまるで及ばないが、威力だけは同等。

 ただ、掛け声は「おっほえー」なのでパキっとしていない。


オットー

 初出|032_継暦141年_夏/02

 職能|行動騎士  装備|騎士甲冑

 性別|男     年齢|50代後半

 身長|173cm 体格|締まっている

 ルルシエット家の譜代の騎士。先代とはよき友人でもあった。

 先祖にエルフの血があるらしく、見た目だけで言えば30代前半でも通じる。


ナテック

 初出|032_継暦141年_夏/02

 職能|行動騎士  装備|騎士甲冑

 性別|男     年齢|50代中頃

 身長|168cm 体格|ちょっと細い

 ルルシエット家の譜代の騎士。

 行動騎士ではあるが、文官としての側面が強い。

 老後は趣味の書店を開きたいと思っている。


ダフ

 初出|032_継暦141年_夏/02

 職能|行動騎士  装備|騎士甲冑

 性別|男     年齢|50代中頃

 身長|163cm 体格|やや太め

 ルルシエット家の譜代の騎士。

 行動騎士であるが文官としての側面が強い。

 特に財務関連の専門家。


ガドバル

 初出|032_継暦141年_夏/02

 職能|行動騎士  装備|大剣、騎士甲冑

 性別|男     年齢|20代中頃

 身長|183cm 体格|マッスル

 ルルシエット撤退戦で活躍し、行動騎士に抜擢された。

 伯爵でもあるルルが雲遊と称して遊び歩いている頃からの知り合いであり、付き合いは案外長い。


ローム

 初出|032_継暦141年_夏/02

 職能|行動騎士  装備|大斧、騎士甲冑

 性別|男     年齢|(外見)40代中頃

 身長|160cm 体格|ムキムキ

 ガドバルと共に撤退戦で活躍し、行動騎士に抜擢された。


イセリナ

 初出|032_継暦141年_夏/02

 職能|行動騎士  装備|なし

 性別|女     年齢|20代前半

 身長|163cm 体格|モデル体型

 各地での交渉を担当するルルシエットの新たな行動騎士。


ルカ

 初出|033_継暦141年_夏/02

 職能|魔術士   装備|大きな杖

 性別|男?    年齢|(外見)10代中頃 

 身長|140cm 体格|少年体型

『掲示板連合』で依頼を出していた少年。

 隻腕のルカ、という異名を持っており、その異名通りに片腕がない。

 また『不言』という二つ名も持つ。


ルカルシ

 初出|034_継暦141年_夏/02

 職能|魔術士   装備|大きな杖

 性別|女?    年齢|(外見)10代中頃

 身長|140cm 体格|少年体型

 ルカの本当の名前。

 ヤルバッツィ、ウィミニア、グラムと共に始めての冒険を行った魔術士。

 無詠唱で魔術を使うことができる。


ソクナ

 初出|034_継暦141年_夏/02

 職能|魔術士   装備|大きな杖

 性別|男?    年齢|(外見)10代前半

 身長|141cm 体格|少年体型

 『破獄のソクナ』、『(先代)不言のソクナ』と呼ばれるビウモードの行動騎士。


ドワイト

 初出|035_継暦133年_夏

 職能|行動騎士  装備|騎士甲冑

 性別|男     年齢|40代後半

 身長|170cm 体格|やや締まっている

 ビウモード家の行動騎士。

 ほどほどの年齢の息子がいる。息子はウィミニアより年下。


メリアティ

 初出|035_継暦133年_夏

 職能|伯爵令嬢  装備|なし

 性別|女     年齢|10代中頃

 身長|153cm 体格|細い

 ビウモード家の娘。141年時点の伯爵の妹に当たる。

 呪いに身を侵されている。


ボーデュラン

 初出|036_継暦135年_秋

 職能|侯爵    装備|なし

 性別|男     年齢|(外見)30代後半

 身長|180cm 体格|半透明

 侯爵。少年王へ忠誠を誓っていた。

 おぼろげに人間の姿を取っている程度の存在。

 ルカルシに契約を持ちかけた。


 ───────────────────────


 土地の情報は全て、ルルシエットを中央であるという仮定で説明されます。

 但し、これはシナリオ目線での中央であり、実際にこの世界の地図や話題などでルルシエットが世界の中心であるというわけではありません。


カプタ村

 場所|南西(遠い)

 ど田舎。

 余りにも何もない。


ケネスの荘園

 場所|ペンシクの北

 ケネスという小領主が治める土地。


トライカ

 場所|ビウモードの北西

 城郭都市ビウモードの衛星都市。

 交易の要衝として発展している。

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