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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
██:████

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24/200

024_継暦141年_夏/00

 よっす。


 賊のオレだぜ。

 賊って言っても種類があるだろうって。

 そうだな、強いてあげれば、なんだろうな。野盗かねえ。


 いや、やっぱ野盗なんて名乗れるほどプロフェッショナルじゃあないな。

 賊だ。

 野盗未満。盗賊未満の賊。それがオレさ。


 今、オレがいるのはビウモードっつう城郭都市の交易路だ。

 ここの伯爵様ってのが実におイカれ遊ばされていて、各地の領地にいきなり喧嘩をふっかけたらしい。

 ビウモードは確かに兵力も国力も他の領土よりも優れたものが多いが、そこら中に喧嘩を売って勝てるような最強無敵のスーパー伯爵軍団ってわけじゃあないはずだ。


 なんでそんなことしたのかって理由は賊のオレには知る由もないが、世間ではそれに乗じる勢力もあれば、守りを固めて無視を決め込む都市もあったそうだ。

 少なくとも、ここの交易路はかつてのような盛り上がりはなくなっちまった。

 そんで、使用者が減少したことで守衛騎士もより治安の悪い場所へと配置転換され、おかげさまでオレたちみたいな賊の狩り場になっている。


 そう、オレたちはそれによって低下したこの辺りを根城にしてビウモード領に出入りする連中を狙ってるってわけだ。


 ま、つってもオレはこの体で育ったわけじゃあない。

 まるで乗り移ったかのようにこの体に意識が浮上した……んだと思ってるぜ。


 賊なんてのは過去もカスみてえなもんで、オレの記憶がある中じゃあ、昨日のこともロクに思い出せねえような奴らばっかりだ。

 毎日張り込みと恐喝、時々暴力の代わり映えのない生活だから、曖昧にもなるってもんなのさ。


 肉体の記憶を見るに、最近暴れすぎたせいで悪名(賊は救いようがないのでこれを名声だと考えているんだが)を高めまくった結果、

 ぼちぼち討伐隊が来るってのを知っているらしい。

 カシラは賊世間でも長い方らしく、獲物が一段と少なくなるとその後に討伐隊が来るというのを経験から知っているらしい。

 それ故に現在では以前の交易路とは別の交易路で狩りをしようとしているってのがこれまでの賊の記憶。


 しっかし、その経験を得られるまで生き延びたってだけですぜえ、カシラ!


 ───────────────────────


 オレたち賊がのうのうと生活できるのも治安が終わってくれているおかげだ。

 理由は色々だが、一番でけえのは『相続戦争』だろうな。

 戦争前夜……とでも呼べばいいのかはわからねえが、頭のよろしい少年王と頑張り屋の宰相様が必死こいて引き継いだ大国をなんとかしようとしているのを、

 野心に炙られまくった公爵とその犬ころが全てを台無しにしちまったらしい。


 そんで訪れたのが相続戦争って奴だ。

 どのくらい長い間やりあってたかは知らないが、少なくともそこかしこでオレみたいな賊が跋扈するくらいにはやっていたみたいだな。


 そんで、賊が暴れりゃあ城郭都市に守られてねえ農民だのが被害者になるってわけだ。

 メシの生産が少なくなって、食うに困った連中が賊に落ちてくる。

 いやあ、まったく最高に最悪な循環だよなあ。


「なーに難しい顔してやがんだ」

「カシラ、この辺りで最近、面白いことってありましたっけ」

「あー?

 ……あー……あれじゃねえか、魔術ギルドのお家騒動」

「そんなんあったんすか?」


 まったく知らない情報だ。

 カシラは定期的に他の賊や足抜けした連中と会っているらしく、実力はさておいても情報の多さはこの辺り一番だろう。


「イミュズにゃあ学術系ギルドが金を出し合って作った互助だか連絡会だかみてえなのがあるらしいんだが、

 ビウモードのご乱心にキレて所属している各組織が引き上げるって中で魔術ギルドの支部だけはビウモードに残るとか言い出したらしくってな」


 学術系ってーと、魔術、請願、オツムを使ったりする類の技巧の奴らか。

 争いに巻き込まれたり、兵士として動員されたり、他の勢力に自分のところから流れた何かが使われて関係性が悪化したり、

 デメリットは確かに多そうだ。


「魔術士ってのは好戦的なんすか?」

「あー、まあ、そうだな。そういうやつも少なかねえ。

 けど最大の理由はコレよ、コレ」


 カシラは指で丸を作るハンドサインをする。

 金、ってことか。


「ビウモード伯爵ってのは相当に請願ギルドと魔術ギルドに金を突っ込んでいたらしい」

「請願ギルドすか、先の話には出てないってことは」

「ギルド自体は撤退したらしいが、そこの人員の幾つかは別組織に合流したって話だ」

「詳しいっすねえ、カシラ」

「へへへ。ここだけの話だけどな、俺ぁ元々ビウモードの役人やってたのよ。

 その頃のツテってのがまだ生きていてよ、情報を流してもらってんだ」


 長く生きる賊ってのは何かしらの武器がある。

 カシラの場合は地元密着型の賊で、情報が最大の武器だってわけだ。


「ま、請願ギルドはさておき、ビウモードの魔術ギルドはビウモードへの協力を表明しているのと、

 ビウモードから去っていく魔術士たちで割れているんだってよ」


 こっからが面白え話なんだが、とカシラは続けた。


「魔術士どもが逃げてくってことはだ、財産も持って他の街に行くだろ?」

「カシラ、まさか魔術士どもを襲うんすか。

 連中の持ってるものなんて換金性が悪くって仕方ねえんじゃ……あ」


 オレはそこでこの話がどうして面白いか、というのが接続された。カシラには今も街にツテがある。

 そして、魔術ギルドでそれなりの人数がビウモードに協力している。

 協力しない魔術士は彼らからしても『消極的な敵』ってわけで、

 痛い目に遭っても思うところがない、どころか、連中が持っているものを相場より遥かに安い値段で売ってくるような()が現れたなら。


「買い手はいる、そういうことっすね」

「相当な収入になるぜ、こいつはよお」


 にたにたと笑っているカシラだったが、遠間から聞こえた賊仲間の断末魔が聞こえるとオレたちは即座に戦闘態勢に入る。


 ───────────────────────


「話はここまでだな。

 テメエらあ!お客さんがお越しだ」


 カシラが怒号を上げるとそこら中に隠れていた賊が姿を表す。


 相手は……冒険者……っぽいな!

 数は一人。

 ……いやあ、一人はヤバい。


 こんな治安が終わってるところに一人。

 ぜってえヤバいってのに──


「チッ、最近じゃあ他の場所にも討伐隊が出てきているっつう話だ。

 ここでアイツから逃げても他の冒険者と遭遇戦になるだけだ!

 アイツを片付けるぞ!」

「へい!カシラァ!」


 カシラの武器はそこそこ上等な戦斧。

 手下はオレを含めて十五名。

 その半数の装備は冒険者から剥ぎ取ったものも多く、悪くはないが、決して良いってわけでもない。

 そして残りの半数は賊様式の槍、まあ、つまるところ切って先端を鋭くした枝だ。


 ソロの冒険者ってヤバい存在の代名詞相手には余りにも心もとない。もとなさすぎる。

 戦力差がどうのって舞台にも立てないのだけは直感していた。


「囲んで殺しちまえ!」


 カシラは手下たちと共に冒険者を囲む。

 その姿は実に堂々としたものだ。

 恐れ知らずというか、そこまでいくと新手の自殺手段としか思えない。


「おう、そこの冒険者。

 負けを認めてくれりゃあ命は助ける、そんで手下にでもなってみねえか?

 ビウモードで暴れるのは楽しいぜえ」


 カシラが声を掛けたのは眼鏡を掛けた青年だ。

 質素な色合いだが、ダサいってよりは質実剛健な感じでシブい。

 見てくれは神経質そうにも見える、良く言えば理性的って感じかな。


「はあ、まさか賊から声を掛けられるとは……。

 どれだけ自分に自信があるのですか」

「そりゃあ、自信しかねえからな」

「業界の先輩から薫陶を受けなかったのですか?」

「何をだ?」

「一人で歩くような冒険者には手を出すな、と」


 オレは知っているが、周りは知らないようで嘲りと野次を飛ばす。

 カシラは勝てると踏んだらしい。


「囲まれた状態で何をするってんだ、何ができるってんだ?

 何かってのをやってみろよ冒険者ッ!スカウトの話はナシだ!

 テメエら!ぶっ殺せ!」


 カシラの号令と同時に青年は「《甲殻》」と囁く。

 手下の武器は彼に刺さるではなく、ばきんと折れてしまった。

 ちなみにオレは刺してない。アイツが囁こうとした瞬間に振り向いて逃げている。


 ありゃあ請願だ。

 請願ってのは祈ると不思議な力やら結果やらが手に入る力さ。


 甲殻って請願が何かはわからない。オレが理解できたのは後ろからは水音を含んだヤバそうな音が聞こえてきたことくらいだ。

 まあ、この水音ってのはまあ、大変グロテスクであらせられることをされているときに聞こえてくるようなやつ。

 こういうときは逃げの一手。

 まだまだ死ぬわけにゃいかないんだからな。


「逃げ足は一流。

 ですが、判断までの速度は三流でしたね」


 全力で逃げたってのに、どうやらお相手の眼鏡の身体能力は想像の遥か上にあったらしい。

 次の瞬間、オレの視界は消えた。

 死んだと認識することもできないほどの早業で。


 痛みもねえってことは、慈悲深いことだ。

 死ぬってのはいつだって痛いもんだ。

 きっと百万回は死んでいるが、それでも慣れることはまったくない。


 だが、それだけの回数は死んでるはずなのに、『命の終わり』のその瞬間は妙な感覚がある。

 重要なことを忘れているような、忘れてはならないことを思い出せと言われているような焦燥感が。


 オレにはわからない。何を思い出せというのか。

 ただ、妙にオレはビウモードとルルシエットのことが引っかかっていた。

 賊という生き方から始まる命が賊であることに縛られているとしても、引っかかりが何かを知ろうとすることくらいはできるんじゃあないのか?


 この命と心が次に繋がるというなら、この記憶があるのなら、次もこのあたりで目が覚めたなら……。

 もしも、そうなった奇跡と、

 そうすることができる可能性ってのが与えられるなら、次のオレの賊生は──。

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