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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
██:████

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20/200

020_継暦141年_春/09

 よっす。


 寄り道の多い同行者と行くオレだぜ。


 このスオウってのはとにかく喧嘩っ早い。

 既に道中で賊に四度喧嘩を売っている。日に二回のペースだ。


 そして、今回は、


「おい、ゼログ。

 アレみろよ、馬車が襲われてんぞ。商人じゃねえの?」

「んー?」


 目的地の街までは交易路を幾つか通る必要があるせいで、賊との遭遇が少なくない。

 スオウが見つけた『襲われている馬車』だが、


「いや、商人じゃあないな」


 オレは学がないが、賊として培った知識で忘却していないものがそれなりにある。

 主に喧嘩を売っていい相手かどうかを判断する基準って奴だ。


 あの馬車はどこの誰かは知らないが、恐らくは行商のものじゃない。


 見るべきところは荷車の形状だ。

 居住性のない、真四角に作られたそれは魔術ギルドのもの。

 なんでかはわからないが、魔術ギルドの馬車は決まってこの形だと記憶している。

 もしかしたら彼らからしても外見で判断できることが大事だったりするのだろうか?


 そして、この形状の馬車だが、

 かつての自分が何故そうしたかの記憶はないが、あの形状の馬車を襲って魔術士に蹴散らされた記憶がある。


 大概の魔術ギルドの馬車には腕利きの魔術士が護衛に付いている。

 馬車が積んでいる代物は魔術に関わるものが主で、賊には理解できないし、価値を定められないようなものなのばかりなので、賊的には襲うメリットのない相手。


 しかし、賊は救いようがない馬鹿揃いなのでとりあえず馬車だということだけを認識して襲い、返り討ちに遭うことが多い。

 まったく、賊とは悲しい生態を持つ生物なのである。


「魔術ギルドの馬車だ。

 賊が襲ったところで護衛に返り討ちにされて終わりだろうよ」

「いや、そうでもないみたいだぞ」


 見通せる場所でこそこそと状況を見るオレたち。

 傍から見れば連中の仲間にしか見えないだろうな。


 さておき。

 馬車の近くには賊様式の槍。つまりは枝を削ったものが何本も突き立って絶命している男性がいた。

 近くに杖が転がっている辺り、彼が護衛だったのだろう。


 その魔術士以外にも護衛らしい連中がいるにはいたが、


「クソ!命の代金まではもらってねえ!」

「悪いな、坊っちゃん!」


 そう言って雇われ護衛たちが逃げていく。

 残ったのは強面の賊が七名ほど。


「ひ、ひいぃぃ……」


 馬車を背にして恐怖する坊っちゃんこと黒髪おかっぱ頭の少年こそ、輸送任務の責任者といったところなのだろう。

 スオウがオレを見ている。


 彼女と旅を始めて二日ほどが経っていた。

 短い付き合いだが、彼女は実に理解しやすい存在だった。


「あんなに怯えてかわいそうになあ~。

 助けてやりてえなあ~。

 オレだけじゃあちょっと厳しいよなあ、何せ七人もいるし。

 スオウが手伝ってくれるなら助けられるんだけどなあ」

「──しっかたねえなあ、ゼログは。

 俺の刃を頼りにしていいぜ!」


 とまあ、彼女には彼女なりに軽々に人を助けるのもどうか、という心理があるらしい。

 それが賊という身分だからなのか、それとも別の何か理由があるのかまではわからない。


 オレ個人としても目の前で助けられそうな賊の被害者がいるなら助けたくはあるから、彼女とのコンビはそこそこに居心地がいいのは確かだ。


 オレは印地によって彼女の到達前に体格のいい盗賊を順に二名狙い、それを倒す。

 不思議なもので、この賊生(じんせい)は随分と投擲のキレがいい。

 威力は据え置きではあるが、命中精度が上がった気がする。


 スオウは白兵戦の距離になった途端に背中から一人、振り向いたのも一刀、

 「なんだてめえ!」と言いそうになった男の首を切り払う。

 一瞬で七人の賊は二人になってしまった。

 突然の仲間の死に逃げるかどうかを相談しようとしたときにはもう遅い。

 オレの投石が彼らの頭を順々に砕いていった。


 こんな感じだ。

 スオウといると退屈しなくていい。

 まったく、なんでこんな正義感の塊みたいな奴が賊をやっていたんだか。


 でも、なんともオレの救いにはなっていた。

 賊っぽいことをやれば気持ちはもっと荒んでいただろう。

 こうして功徳を積みゃあ、前世で勝手にくたばったことも許してもらえるだろうか。

 誰に許しを乞えばいいかはわからないが。


 ───────────────────────


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 残像が見える勢いで頭を下げては礼を述べる少年。


「なんで襲われてたんだ?

 ……ってのは聞かないほうがいいか。

 それに賊が馬車だと見て何も考えずに襲っただけかも、だもんなあ」


 護衛をしていた魔術士の遺体を馬車に納めながら、オレは言う。

 運んでいるものが何かなんて部外者には開示なんてできんよな。


「いやあ、最近魔術ギルドも分裂がひどくって。

 僕たちはイミュズの魔術ギルドだったんですけど、主流派がビウモードの魔術ギルドと手を取り合うべしなんて打ち出して……。

 学術的な側面を研究するグループの僕たちが何かできるわけないじゃないですかってことで、故郷に帰ろうかなって思いまして。で、その道中で賊に襲われたわけなんです。

 はあ……この護衛の魔術士さんは道中で同じように魔術ギルドのやり方についていけなくなって辞めたという方でして、それで一緒に行って、道中の護衛もお願いしたんですが、その、運悪くといいますか、馬車に酔ったから深呼吸したいと言われたので外に出て、あとはそこからは賊に襲われて……。そうそう、護衛の方たちは道中で雇ったんです。ちょっと高かったんですが、やっぱりプロが必要かなって。

 いやあ、こんなこと言うのもですけど、損だったかもしれませんねえ。

 でも助かりました。これで故郷に帰れます。ああ、我が愛しのイズミスト!早く鳥の水煮が食べたい!故郷の味~!

 っと、ごめんなさい、舞い上がってしまって。

 あ、荷の中身は主に僕の研究日誌ですよ。テーマはドブ川を綺麗にするためにはです。ドブ川がキレイになっていくの、好きなんですよねえ。まあ、この研究は全然駄目でしたが。何せコストが掛かりすぎて、しかもその魔術も僕しか起動できないですし。

 相性問題はハードだとは先輩から聞いていたんですが、自作の魔術がこんなに難しいとは……いやあ、学術の目的地、その頂はまだまだ遠いです。

 そうだ、目的地。目的地と言えばお二人はどちらまで?

 むしろまずお二人のお名前を伺うべきですよね!何せ命の恩人ですから!」


 何もかもを開示する勢いだった。


 スオウは圧倒されていた。

 オレは呆気にとられていた。

 なんだこの少年。

 まったく要領を得ないというか、言ってることはわかるが頭に入ってこないというか、

 しかし、一言で云えば『万人がイメージする魔術士』ってのはこういう奴な気がする。

 何を云っているかわからない、わかろうとしても波のように話題が押しては引いていく。


 ひとまずオレとスオウは名は名乗り、それからオレは自分のためにも――

「……要約すると、だ」

 ――と、彼の言葉を纏めることにした。


「1.彼はイミュズの魔術ギルドの一員だった。

 しかし、何らかの理由からギルドではやっていけなくなったので故郷に帰ることにした。


 2.死んでいた護衛の魔術士はこんな賊が多い場所で深呼吸をするために馬車を止めたので死んだし、少年も死にかけた。


 3.道中で雇った護衛は多分タカリか、タカリ同然のへっぽこ。


 4.イズミストの名物は何かの鳥の水煮。


 で、合ってるか?」


「おおー」


 要約っぷりにスオウは拍手をくれた。ありがとう。


「そのとおりです!」

「で、オレたちの目的地は北ツイクノクって街だ。知ってるか?」

「北ツイクノク……ううん、ごめんなさい、存じ上げないです。

 何分、故郷からすぐにイミュズの魔術ギルドに向かったもので。魔術ギルドにいったのも当時のお師匠に連れて行っていただきまして、ただまあ、その頭でっかちなところがあって、大成はしなかったのですが、高齢と無理な旅が祟って死んだように死んでしまいまして、ですがその後に弟子入りさせてもらったのが師匠のご友人でして、今のお師匠が本当に素晴らしい腕前の魔術士で、隻わ──」

「わかったわかった!」


 この魔術士の話を聞いていると情報過多でどうにかなりそうだ。


「ああ、とにかくだ、その故郷まで馬車を止めるなよ。

 ずっと魔術ギルドで研究してたなら疎いのかもしれないが、世の中はもう賊・賊・賊の賊の楽園だ。

 何も考えず無心で、故郷に帰ることだけ考えろ」

「は、はい」


 言葉を止められたのに関しては不快ではないらしい。

 まあ、ぶすっとされても止めたとは思うが。


「あ、その……お礼は何で支払えば」


 それに関しては特に考えてもいなかった。

 欲しいものがあるわけでなし。

 食料に関しても道中の賊をボコると誰からか盗んだであろう保存食が手に入るので困ることもない。

 今しがた倒した連中からも手に入るかもしれないし、そうでなくとも森に入って動物を狩ればいい。

 案外投石でも鹿を獲ったりできるんだぜ。やっぱ心なしか精度上がってるよな。


 ともかく、スオウに関してはどうだろうか。

 彼女をちらりと見ると、軽く肩を竦めた。


「彼女は何も要らんとさ。オレも特に、何かをタカリたくて助けたわけじゃない。

 お礼がしたいなら無事に故郷に帰ったら超イカした剣士と印地使いの話でも広めといてくれ」

「ばっか!恥ずかしいだろうが!俺はヤだぞ!」


 あははと少年が笑う。


「わかりました。

 もしもイズミストに立ち寄ることがあったら、ティリオの名前を出してください。

 こんなでもイズミストならちゃんと対応してもらえるくらいの立場はあるんですよ」

「ああ、そんときは頼む」

「では、偉大なる剣士スオウ様、伝説の印地使いゼログラム様!お達者で!!」


 嵐のような言葉を持つ少年、ティリオは去っていった。


「ありがとな」


 オレが賊の身ぐるみを剥いでいると、スオウが言う。


「俺のやりたいことに付き合ってくれて」

「……オレも救われてるさ」


 本心が口から漏れる。

 ただ、小さな声だったからきっと彼女には聞こえていないだろう。


「お!見ろよ!ベーコン持ってたぞ!むき身で!……むき身かあ……」


 オレは救われていると言った言葉を打ち消すように、やや人肌に温まったベーコンを掲げて見せた。


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