197_継暦141年_冬/04
これまでの百万回は死んだザコ
彷徨い邸でドップイネスの配下に殺されたグラム[EP182]
↓
目を覚ますとビウモード。
何らかの非合法っぽい仕事をさせられている。
ビウモードの行動騎士ドワイトと闇商人エメルソンが今回のグラムの主人のようだ[EP185]
↓
クレオと出会い、主人たちの依頼を実行することになるが、
グラムはクレオを解放せねばならないことを思い出した[EP188]
※グラムがした約束は[EP151]
↓
グラム、クレオと逃げ出すことを決める[EP188]
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道中でワズワードという魔術士と出会い、
彼との協力で高名で力のある魔術士ルカルシを頼る旅に。
ワズワードも同行する[EP189]
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クレオ、ワズワードと共にルカルシを探す。
道中でスムジークという魔術士と出会い、彼もルカルシを頼りたく旅を共にする[EP196]
✘✘✘
ニグラム(グラム)
自称『百万回は死んだザコ』。
クレオを助けてほしいというかつての自分が約束した願いを達成するために動いている。
クレオ
エメルソンに隷属させられている女性。
隷属を解けるかもしれないという希望のもとにニグラムと行動をする。
ワズワード
ルカルシの弟子であり果ての空のかつての学徒。
夢破れて裏路地の怪しい術士として生活していた。
ニグラムにほだされてもあるが、破れた研究者としての夢を再発火させるためにクレオの隷属破りの研究をすることに。
スムジーク
『融合』という新たなカテゴリの術を作るために研究を続ける魔術士。
果ての空に入れるほどのエリート的才能がなかった野良の魔術研究者である。
ワズワードたちがルカルシを探していることも聞いて同行することに。
※振り返りここまで
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よっす。
ついにトライカに辿り着いたオレだぜ。
魔術士ギルドは三人に任せて、オレは冒険者ギルドへと向かった。
本当は四人で別れての探索とするべきなんだろうが、流石にクレオ隊長の身に何があるかもわからない。
魔術士の二人であれば何かの緩和策が出せるかもしれないしということで、二手に分かれるのが限界だと言う結論に至ったわけだ。
とはいえ、オレはルカルシさんの外見を知らない。
つまりは居るかどうか、来る可能性があるなら言伝か手紙を渡しておいてほしいと頼むくらいのもんだったのだが、
「ルカルシさんか? いや、来てないな。何かあったのか?」
「あー……ちょっと仲間が探しててね。彼女の後輩でさ」
と対応してくれたのがギルドマスターだったので簡単に説明をする。
「なるほどな。うーむ。ビウモード領内はちょっとゴタついててなあ。冒険者ギルドも一枚岩じゃない状況で」
どうやらビウモードでは本来の冒険者ギルドが機能していないらしい。
ギルドとして連絡を取ろうとしても都市ビウモードであればそれは難しいのだという。
現在、ビウモードでギルドの運営を代替して担っていたのが『管理局』。
管理局支配下の冒険者ギルド(ビウモード領内限定)に嫌気が指した冒険者たちが勝手に作った『掲示板連合』という更にその代替組織。
こうした『一枚岩ではない』状況が連絡の難しさに繋がっているらしい。
「あー……。で、ここはその管理局の支配下にあるってことか?」
「いや、ここは本来的な意味での冒険者ギルドさ。管理局とは関係なくね」
「一枚岩じゃないって言ったばかりだろ」
「今のトライカはビウモードの下にある都市じゃないってことさ。外の人間は知ることはないだろうがね。
ここが他のギルドと一枚岩だとしても、ビウモードに行かれちまったら連絡が取れない。そういうことさ」
何やら複雑な事情らしい。
だが、今のオレにそれを深く知るための時間的猶予があるわけでもない。
結局、トライカの冒険者ギルドには顔を出していないってことだけはわかった。
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──であれば魔術士ギルドに何かしらの情報がありゃあいいんだが。
ともかく合流を目指そう。
「──まさか──で……」
などと考えて近道を使ったというのが運の尽きか。
声。少女の声を耳にする。いや、それだけならいいんだが、同時に感知したものは複数の気配、金属質の何かの音。
合流地点までそう遠くはない。
ちょっと寄り道をするくらい、まあ、まあ、問題はないよな。
嫌な予感ってのが気のせいである可能性であるかを判断するだけだ。それだけだからさ。
……なあんて。オレが妙に予感を感じるときは大抵、確認じゃすまないんだよな。
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脇道のない裏路地。
オレから少し離れたところに声の主であろう少女。
対峙するようにいるのは揃いの外套を着た連中だった。パッと見ただけでもそこらのチンピラというわけではないのはわかる。
見覚えのある姿は、どうにも──
いや、考えている場合ではない。
外套たちが剣を構え走り出す。
少女が杖を構えようとしたとき、進む外套とは違うものたちが刃を地に刺す。刹那、暗色の光が少女へと走る。
その光が彼女にあたるよりも先に彼女の杖から光弾が迸り、外套へと向かう。
外套を脱ぎ捨てるようにして光弾に当てて、本体は回避を行う。空蝉だとかっていう技術……だとか何とかってのを聞いたことがある。実際にどうやって魔術をそれで回避しているのかはオレの知らん技だから説明しようもないが。
少女も様子見だからか、さしてそれを気にもしない。……しかし、何を放った? 詠唱がないってことは魔術じゃあないはずだが。
外套たちの斬撃を回避する。魔術士でありながら、歴戦を感じる身のこなしで斬撃を回避する。したはずだった。
ぐん、と彼女の影から現れた光が鎖のようにして彼女を縛り付けた。
「なっ」
外套姿の一人が懐から片手杖を取り出していた。何かを発動したようだ。
手慣れたやり方にも見える。こういう仕事を専門にしているヤカラなのかもしれない。
「判断能力に難あり」「流石に連戦は辛いと見える」
「……ッ!」
外套が嘲りではなく、明確な賞賛としての短い言葉を吐く。
オレはそれを見ているだけ。
……なわけがないよなあ。
オレのモットーは変わらん。ひとまず可愛子ちゃんを助けておく、それだけだ! というのはまあ、半分弱は冗談だ。
「オッホエッ!!」
短剣の一つを投擲する。剣を振おうとした外套の肩口に深く突き立つ。
それだけ深く刺さるってことは衝撃もあるってことだ。つまりは剣を振ろうとした体勢からの外的因子から彼はつんのめり、転びかける。
可愛子ちゃんだから以外の理由、それも大きいところは外套連中から漂う気配というべきか、臭いというべきか。連中からはドワイトと名乗っていた男と似たものがあった。
少女を助ければ何故襲われていたのかであったり、
ドワイトと外套どもの繋がりを知れる可能性もあったり、
そこから更に運が向けばエメルソンに繋がる情報が何か得られる可能性だってある。
だったら少女を狙って共闘すりゃあいいじゃないかって。
おいおいおい。忘れたか。理由の半分弱は可愛子ちゃんでもあるんだからな。
などと自らの衝動に強引な理由をつけながら。
相手がこちらを見るよりも先に片手杖を狙っていい感じの石を投擲する。
水音と共に出血しながら倒れ、少女の戒めが消える。
オレは彼女の傍へと駆け寄り、
「嬢ちゃん、大丈夫か」
「まあまあかな。危ないから逃げたほうがいいと思うけど」
彼女の纏っていたローブが風にさらわれるようにして剥がれていった。隻腕。それは随分と経過していることがわかる。それでも痛ましく思えるものだった。
そして、先ほどの二人の会話での連戦云々もよくわかった。生傷が多く見受けられた。
そんな状況だというのにいやに冷静だった。このような鉄火場も逆境もこれが初めてではない。それを思わせた。
だが、それが彼女を置いて通り魔ならぬ投擲魔をしてここから去る理由にはならない。
「弱っている女の子を助けた方がかっこいいだろ?」
「そんな理由で」
少し呆れたような、困ったような表情をする少女。
「我らに手向かうかッ!」
少女の言葉を引き継ぐようにして激昂する外套たち。
「おっかねえなあ」
刹那。
オレの背後から再び光弾が幾つも放たれる。詠唱もなく、請願もない。
たったの一瞬で外套たちが蹴散らされる。
オレは驚きつつも倒れた外套から離れた剣を掴むと後方で再び例の光を出そうとしている連中へと向かい、投擲する。
短剣と違い飛んで行く速度はイマイチだが重さも切れ味も段違いだ。直線的にではなく半円を描くようにして飛んでいく長剣の動きを読みきれず一人の頭をかち割る。
次を拾って投げようとしたときには生き残りたちは全員逃げ仰ていた。生きているかもわからん片手杖持ちも担いでいる辺り、仲間思いなのか、死体を残すわけにはいかないと考えたのか。
職業的な殺し屋集団だったり、身分を隠している暗殺専門の騎士だとかならやっぱり後者だろうかね。
オレはひとまずローブを拾って、彼女へと渡す。
「怪我はないかい、ってのは間抜けな質問だよな。医者に行くかい。ここからなら冒険者ギルドの掛かり付けに頼るのが早そうだが」
「……いや、このまま一度この辺りから脱するよ。だから」
そういって、ふらりと倒れかける。
なんとか支えることには成功したが、
「ごめん、血を流しすぎたみたいだ。まったく、トライカも油断ならないじゃないか……」
忌々しげに、
「大丈夫だ。君は君でどこかへ」
「流石にそんな状態の子を放っておけねえって」
「あまり善人すぎるのも命を縮めるよ、けど……そうだな、申し訳ないんだけど──」
そうして、オレは彼女に指定された場所まで連れて行くことになる。
……目的としていた人物、ルカルシもギルドにはいなかったことは確認できた。
既にやるべき仕事はしているのだ。
彼女の補助もそう長くはかからないだろうと判断した。
不意に立ち止まり、振り返る彼女。
「よくないな。こういう生活をしているとすぐに当然のことができなくなっちゃう」
息を少し整えてから、礼を取る。
「ありがとう。……助かったよ」
うん。確かに、お礼を言われるのは悪くない。
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そうして案内されたのは別の路地にあった一軒家。
手入れの行き届いていない庭から入る落し戸。
明らかな隠れ家。
「こういう状況を考えて用意してたのか?」
「一応ね。お金には困ってないから、こういう準備もできるんだ」
そう言いながら上着を脱ぐ。
「悪いけど、少し手伝ってもらってもいい?」
ああ。薄着になった彼女だが、色っぽい話はない。置かれた水薬や包帯で治療をして、替えの服に着替えて。
随分と、古傷が多い。刀傷、矢のあと、火傷、ひきつれ、他にも治癒はしたものの治しきれなかった小さな古傷は多くある。
高度な請願能力者なら治せるのかもしれない。これだけの実力があり、金にも困っていないならそうした人間を頼らないのか。
それとも……頼っていてなお、これだけの傷ができるような日々を送っているのか。
そうしてようやく、
「はあ。ひと心地ついたよ。改めてありがとう、……えーと」
「ニグラムだ。ここには人探しで来ている、あー、なんだ。無職……? だぜ」
「無職なんだ……」
「よく考えりゃ冒険者ってわけでもないしな」
「よく考えりゃ?」
しまった。
自分のことをよく考えて立場を考える奴がいるかよ。
「学のねえチンピラの言葉の誤用だ、気にしないでくれ」
「ん。わかったよ」
おっと、と座っている彼女がこちらを上目遣いがちに見上げて、
「礼を失しちゃった。ごめんね。人と絡まないと基本的なことができなくなっていってイヤだ」
「そんな顔されちゃ誰だって許しちゃうだろうしな」
「だといいんだけど。……じゃ、改めて。私はルカルシ。一応、これでも不言のルカルシって言ったら多少は有名なんだよ」
「い」
「い?」
「いたーッ!!」
「なになに!? 何が!?」
いた。
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