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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
歩廊:残影群舞

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177/200

177_継暦141年_冬/03

 よっす。

 キモい造形の化け物に対話を試みようとしているオレだぜ。


 とはいえ、なんて声を掛けたもんか。

 ここが屋外だったら天気の話でもするんだけどな。


「よう、不機嫌そうじゃねーか」

「私は、私は、伝えねばならない。無実であることを証明しなければ」


 アンデッドってのは不老不死になる手段じゃあない。ただ、少なくとも老いによる死や多くの病から逃げることはできる。


 であるのに多くの土地ではアンデッドに関わる技術群、つまりは屍術と呼ばれているものが忌道ってカテゴリに突っ込まれている。

 実質的に『禁止ですよ』と言われているわけだ。そうなっているのには理由がある。


 アンデッドになると正気を失うのだ。

 殆どの場合は外で砕いた骨屍鬼(スケルトン)のような徘徊し、主がいるならその主の命令に従うのが精一杯のお人形さんになる。


 強い望みを持ってアンデッドになったとしたなら、それを成就することを求め、しかし判断能力や善悪の基準やら、社会で穏当に生きていくための多くのこと……つまりは犯罪はやめようとか、裏切られるかもしれないから他人を簡単には裏切らないようにしようだとか、そういう一種の秩序的思考を度外視して、己が求める心を優先する。

 結果として人間社会から排斥されるってわけだ。


 眼の前の奴はスケルトン連中よりは意識はある。

 つまりは、強い望みがあるってことだろう。


 正気には見えない。だが、時間稼ぎにしろ、まっとうに死んでもらうにしろ、

 こいつの望みを知れば何かしら打開するチャンスが見えるような気もしていた。

 だからこそ、会話に賭けてみるのだ。


「無実を自分から言い出すヤツはごまんと見てきたが、どいつもこいつも犯人だったぜ。なんぞかやらかしたんか」


「無実なのだ」

「無実ではない」


 二つの口から声が響く。


「私は踊らされた。あの男に踊らされたのだ」

「我は忠臣たらんとしていた。だが、愛した国が終わるのであればその形を引き継ごうとする望みに何が悪いというのだ」

「全ては宰相が来てからだ」


 なるほどなるほど。


 ……全然わかんねえ。

 こいつがそもそもどなたなのかもわからないし、聞いたところで歴史の砂に埋れているような奴なら専門家でもなんでもないオレがわかるわけもない。


「自己紹介から行こうぜ、ふた首の旦那。オレはマーグラム。おたくは?」


「私はギネセテネス」

「カルザハリ王国の貴族、偉大なる兵革王陛下の忠臣」


 そんなに歴史の砂の深いところってわけでもなかった。

 兵革王ってのは少年王、つまり最後の王様の親父だったよな。


「なんでそんな姿になっちまったんだい」


「計られたのだ」

「あの男に」


「あの男?」


「憎い。あの男。ドップイネス」

「ザールイネスから爵位を盗みし忌まわしき公爵」


「随分と昔のことを掘り返したいわけだ。ふた首の旦那。オレでよけりゃ話を聞くぜ。

 壁を殴るより今を生きている人間のほうが何かできる可能性はある、そうは思わないか?」


 首は二つとも押し黙る。


 冷静な方も、乱暴な方も。元々こういう体じゃなくて、善と悪だとか冷静と情熱だとか裏と表だとかそういうものが分離したアンデッドなのかもな。

 こういうのに詳しくないからなんともだが。

 レティなら、詳しかったんだろうか。


 あー……。思い出すと寂しくなるな。


 いやいや、気合を入れろ。

 ここでうまく行けばお嬢たちに危険が及ぶ確率が減らせるだろうし、凹んでる暇なんてありゃしねえ。


「わかった」

「何を聞こうというのだ」


「アンタはアンデッド、オレは巣穴を持たない賊。互いに時間はあるだろ?

 一から十まで話してくれよ」


 140年以上前から来た男の昔話なんて長くて退屈だろうけど、聞いてやろうじゃないか。アタマからケツまで話してくれりゃ相当の時間稼ぎになるはずだ。


「長話をするのは愚か者のすること」

「可能な限り要約する」


 残念。その辺りの判断は正気らしい。


 ───────────────────────


 ギネセテネス。

 カルザハリ王国の貴族で、彼が当主の名を引き継ぐ前の名である『ギネセス』であった頃から兵革王の近習として仕えていた。


 兵革王は戦いによって富を生み、国と家臣に恵みをもたらす王である。

 そんな兵革王が死んだ後に王冠を得た人物、少年王は安定と融和、平穏を求めた。


 根っからの兵革王主義に染まっていたギネセテネス、いや、兵革王の取り巻きたちは少年王への憎悪を膨らませた。今まで与えられていた多くの恩寵は断ち切られ、懐をさみしくさせるばかりだったからだ。


 それを恨み、中には暗殺組織と契約までして少年王の命を奪おうとするものまでいた。

 とはいえ、忠臣ギネセテネスも、


(主義が合わないとはいえ、ヴィルグラム陛下は先王様の子。命を奪うまではできぬ)


 流石にやりすぎであると考えていたし、殆どは彼と同じ思考だった。


 何度かの騒ぎのあと、少年王のもとに一人の男がやってきた。

 兵革王からの引継ぎの諸問題から多くのポストが空いていたのと、

 少年王は「どうせ宮廷内で気にされていないのであれば、そこでの権力の専横をしても下がるものはない」と考えて、重要なポスト──長らく空白であった『宰相』の位にその男に座らせた。


 後に『悪徳の宰相』と呼ばれる人物である。


 悪徳などという冠を与えられておきながら、少年王と共に行った仕事の多くがカルザハリ国民と、それのみだけではなく兵革王の被害によって苦難の道を歩まされている近隣諸国や王国勢力圏内にありながら主君を持っていない無勢力の人々をも救ってみせた。


 それが、ギネセテネスをはじめとした先王信奉者を追い詰めた。


 ───────────────────────


 ……だ、そうだ。

 確かに要約してくれはしたが……。


「で、その後は?」


 なんでアンデッドになったかが語られていない。


「……踊らされたのだ」

「騙されたのだ。騙したのだ。あの男が、我ら兵革王の臣を!」


 もう少し上手く誘導しねえとダメか。やっぱこの辺りはアンデッドってことかねえ。


「わかったって。騙されたんだろ、ドップイネスとやらに。で、どう騙されたんだよ」


「彼奴は兵革王派の貴族たちの幾人かに声を掛けたのだ」

「ドップイネスは言った! 兵革王陛下が手に入れた領土を遺志を汲み取って支配せよと、そのために爵位と土地を報酬に、我らを使ったのだ!」


 ううむ。

 ドップイネスってのが貴族が上手に踊らせたようにしか思えんな。

 ダンシングアホ貴族が140余年も生きるアンデッドになれるとも考えにくいが。


「少年王と悪徳の宰相だっけか。実際に何をしたんだ?

 その結果、今でもお前はそいつらを恨んでるのか?」


 ふた首の旦那は押し黙ってしまう。

 いや、ふた首ともに首を下げて、苦痛と煩悶を押し殺しているようにも見えた。


「私がアンデッドとなったのも、ドップイネスが褒美として渡した力が原因だ」

呪蔦(じゅちょう)の忌道。少年王を奪い、殺すための力。だが、殺し、そして復讐者によって殺された後も呪蔦は我が身を縛った」


 アンデッド化は当人の資質とかじゃあなくて、与えられた力の暴走みたいなもんか。ダンシングアホ貴族ではあるのかもしれん。


 ドップイネスとやらは踊りまくる連中でも使わないと少年王を何とかできなかったのか。

 少年王を慕うものもいたってことかね。


 いや、嫌っていたのは兵革王大好きクラブの皆様だけだったのかもな。


「その呪いは私の肉体を宿主として寄生植物のように育ち、自我と魂を養分として実をつけたのだ」

「その実は再び育っている。鳥籠は主根であり、身は我が首である」


 人間と鳥かごに見えるけど、忌道で生み出された喋る植物である、ってところか。

 観葉植物としちゃ失格だな。すっごい喋るし。


「私は、既に私ではない」

「果実となった我は既に我であった過去にあらず」


「……どういうこっちゃ?」


「この果実()はギネセテネスの思考である」

「この果実()はギネセテネスの感情である」


 冷静な方が思考の実で、壁殴ってたのが感情の実ってことか。


 思考果実ギネ某が言葉を続けた。


「そして、先んじて存在していた『名誉』のギネセテネスは葬られた。葬られたからこそ、我らが実をつけたとも言うべきだが」

「我は戻ってきた。砕かれたはずの主根は戻り、失われた果実の代わりを結んだ」


 名誉、ね。

 なるほど、アンデッドとして何より求めたのはそれだったわけか。少なくともその実が断ち切られるまでは。


「敬愛する先王陛下の死後、少年王はカルザハリを守り、栄えさせた」

「それを見て見ぬふりをして害意を持った。先王陛下の威光が曇るのを恐れた」


 二人は声を揃えて言う。


()はそこに漬け込まれ、そして忌道に虜にされたのだ」


「アンタは一度倒されて、復活したんだよな?」


「然り」


「その呪蔦とやらの力でか」


「否。私の復活は外部の手によるもの。その理由もわかっている」


「理由?」


「それは──」

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