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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
歩廊:残影群舞

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175/200

175_継暦141年_冬/03

 よっす。

 カレーと野宿を楽しんだオレだぜ。


 あれこれと出立の準備を整えて、歩き出す。

 お嬢曰く、昼までには到着できる距離のはずとのこと。


「彷徨い邸って名前だけど、足でも生えてるのかい」

「昔はそうだったのかもしれませんね」

「マジ?」

「あはは、ちょっと過言だったかもしれません。でも邸そのものがあちこちに移動していたのは事実だそうです。

 今は動いていないのは邸の主が死んだから、だと考えられています」

「邸の主?」

「報告がまだ上がっていないそうで、実情は不明のままだそうです」


 表情が少し陰る。ああ、きっと彼女が復讐をするに至った『罪な少年』のことなのだろう。なんとなく直感できてしまった。


 オレは「そういえば」と話題を転換することにした。


「朝飯前に話していたけど、目的地周辺に近づくと厄介なのが出るって話だったよな」


 これは彼女が先ほど、

「ウチのツテで耳にした情報なのですが」と言っていたことだ。

 商人の横のつながりか、ゲリラになったものたちがもたらした噂話か。


「邸の周りは特異なインクの影響でアンデッドがうろついている、という話ですね」

「話が通じない相手だろうし、邸に入るまでは姑息に立ち回ることになると思うがいいかい」

「お任せします。ウチができるのはお荷物以上にならないことくらいですから」


 と、彼女は言うが──


 それから邸に向かって進んでいると、


「マーグラムさん、あそこを見てください。骨屍鬼(スケルトン)です」


 恐るべき観察眼で敵をいち早く見つけていた。

 なるほど、彼女が一人で旅ができた理由がわかる。オレもギルドが定めた職能で照らしてみれば恐らく十中八九、斥候と判定されるだろう。

 実際、気配を感知するのは人よりは自信がある。


 だが、お嬢はそんなオレよりも遥かに優れた感度と範囲で相手を見つけることができる。先天的な才能というだけではない。無事に行商を続けるために磨かれた技術だろう。


「そんじゃ、露払いといきますか」

「かっこいいところ、見せてくださいね」

「へへ。こりゃあ集中しないとな」


 お嬢の応援を背にオレは投擲の技巧を発露する。不思議といつもよりもキレもノビも良かった気がした。


 スケルトン?

 もちろん粉々だぜ。オッホエ!


 ───────────────────────


「あれが彷徨い邸か?」


 到着するまでにスケルトンと6度ほどエンカウントしたものの、いずれもお嬢の探知とオレの投擲で完封できた。

 スケルトンどもはどうにも誰かに生み出され、仕事を与えられているようには思えなかった。特異なインクの影響、とも言っていたし、確かに自然発生的に出現したのかもしれない。


 そうして見えてきたのは森の中にあって存在感を発揮する、大きな貴族が好みそうな邸宅だった。

 まっすぐに視線を向け、邸の意匠かなにかを確認する。オレは貴族だとか階級だとかってのは区別がつかないが、商人をやっているとそのあたりの知識も付くのだろう。


「はい、間違いなく彷徨い邸です」


 刻まれた何かでも目についたのか、壁面かどこかの意匠に名前でもあったのか、やはりオレにはわからなかった。


「道中あんだけスケルトンがいたし、内部も危険かもだよなあ。

 ホントにこんなとこにいるのかね。一国の主に相当する伯爵サマがさあ」

「むしろいる可能性は高まりました」

「マジで?」

「危険とやんちゃが持ち味のお人ですので」

「マジかあ……」


 ルルシエット伯爵、無茶苦茶な人なんだな。ちょっと興味が湧く。


「扉は……施錠されてるな」


 こそこそと近付いたオレたちは表玄関まで到達した。

 到達、といっても見回りのスケルトンがいるわけでもないので簡単なことなのだが。


「ま、これくらいならちょちょいの」


 かちかち、かちかちかちかち。

 ややあって、手応えを感じる。


「ちょいっと」


 解錠に成功。あんまりスムーズではなかったことには目を瞑ってもらおう。


「色々できるのですね、マーグラムさん」


 褒められるとちょっとだけ不手際に恥ずかしさを覚えてしまう。


「褒められると伸びるタイプだから次もまた褒めてくれ」


 なので、伸びしろをアピールしておこう。美人さんが褒めてくれりゃまだまだ伸びる気がする。気だけでないことを祈るばかり。


 投擲、隠密、解錠、賊らしい技の集まりだとは思うが、それでも伸びてくれればそれがどこで役に立つかもわからない。

 願わくば伸びたまま次の周回(サイクル)に持ち込みたいとも思っている。それは流石に高望みか?

 そもそも手前の生態もわかってないのに、願うことそのものがおこがましいのかもしれない。


 オレは己の哀れっぷりに目を背けるためにも、探索に神経を注ぐことにした。


 ───────────────────────


「ルルシエット様はおられないのでしょうか」


 お嬢が残念と心配の感情をカクテルしたような声音で言う。


「……どうかな、いる可能性はゼロじゃあなさそうだが」


 オレの視線の先に砕かれたスケルトンが転がっている。スケルトンの多くは砕かれると途端に能力を失う場合が多い。

 特に頭や腰などを砕かれるのは致命的だ。命がないアンデッドに致命的って言葉が正しいかはさておいてくれ。


 転がっているスケルトンの成れの果ては綺麗に頭と背骨を砕かれていた。


「スケルトンが頭を砕かれると残存している人間の自覚のようなものを失って動けなくなる……と聞いたことがあります」

「それを知っている人間が倒したんだろうな。邸を攻略した冒険者か、それとも」

「伯爵が来ておいでなのか、ですね」


 スケルトンの倒れ方を移動先の参考にし、オレたちは奥へと進む。


 今回はオレはお嬢と殆ど同時に気配に気がつくことができた。職能斥候(仮)の面目躍如──は言い過ぎか。


「この先に」

「ええ、何かいます」


 声を潜めて認識のすり合わせ。

 『この先』ってのは部屋、中に何があるかまでは透視能力があるわけでもないのでわからないが、見て歩いた邸の構成的には催し物なんかをやるための大広間だろうか。


 幸運が巡れば目的の人物がここに……というのは希望を持つに過ぎってもんだろう。

 そういう運がない自覚がある。


 となれば、スケルトンがいるだけか、それとも書室に何かしら価値を見出した賊でも詰めているか。


 道中でいい感じの石は拾ってきている。ただ、室内での戦いは間合い的に不得意な方ではある。特にこの先、つまりは部屋の中ともなればなおさら。


「周囲を警戒していてほしい」


 オレの言葉に頷くお嬢。


 室内で戦いになったとして、囲まれる前に気がつくことができれば逃げるなりの手が打てる。

 レティたちと並んで戦っていたときの仲間の頼もしさがあった。


 お嬢とのタッグはそうした頼もしさとは種類が違うが、彼女の察知能力や見識は別方向において同じ程の信頼を向けることができている。


 きっとここで戦いになったって切り抜けることができるだろうという安心を与えてくれる。


 そっと扉に手を触れる。お嬢は指でカウントを始めてくれた。

 タイミングが合っているならお嬢と同時に室内の状況判断もできる。気の回し方がオレの先回りをしてくれて大変ありがたい。


 3……2……1……。


 彼女の細い指が全て畳まれると同時に扉を開く。


 瞬発で周囲を確認。

 室内には壁そのものが眩しくない程度に発光している。家を建てるときに多少以上に懐に余裕があれば採用するものだ。インクを籠めることで見ての通り部屋を照らしてくれる。低位の付与術を使っているという記憶がある。


 付与術。つまりはレアな技術、レアな建材ってわけだ。この場合の多少以上の金銭的余裕ってのはお貴族様の中でも一握りってのを意味するぜ。

 実際、テネリ式の蝋燭を常用するほうがはるかに安くなる。テネリ式ってのは……いや、それはまた今度にしよう。


 ともかく、室内は昼の屋外程度には明るい。

 確認結果は予想通りではなかった。多少混みいった状況といって差し支えあるまい。


 入って右手奥に冒険者風の人影。


 左手の手前には化け物としか形容できない何かがあった。


 『化け物』の肉や臓物が繊維か蔦のように伸び、スケルトンたちに絡まっている。そのスケルトンがそれぞれ四足獣の足のような役割を果たしているようにも見えた。


 上半身もまた同じように肉の繊維が歪んだ鳥かごのようなものを胴体とし、スケルトンを組み込んだ腕のようなもの。そして鳥かごの頂点には肉が張り付いている頭骨が存在していた。


 異なるのは外で戦ったスケルトンとは異なり、明確な意思……いや、敵意というべきものがあった。


 頭骨の目玉はぎょろりと、闖入者たるオレたちに向いた。

本年もお付き合いいただきありがとうございました。

よいお年をお迎えください。

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