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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
歩廊:残影群舞

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173/202

173_継暦141年_冬/03

 よっす。

 冒険譚を求められているオレだぜ。


 賊に求めるには酷なことだぜ。英雄から程遠い自覚がある。

 そもそも記憶が10回死ぬまでしか持たない。大抵は犬死にだしな……。


 ただ、冒険譚がまるでないってわけじゃあない。

 ディカやレティたちと過ごしたあの日々がある。

 派手な活躍はなかったが、それでも需要を満たす程度の話はできるだろう。


「あー、そうだなあ。それじゃオレがここに来る前の街の話でもするか。

 ちょっとそこのお偉いさんとは色々あったもんで街の名前は伏せさせてもらうけど、オレはそこでいい一党仲間(パーティメンバー)に恵まれた。

 魔術士の少女と斧使いの少年……いやさ、後で少女だって判明するんだが、さておき。そいつらとの冒険でもちょいと思い出そうか」


 バストンの子供たちは上は20になったかどうかくらいの子。一番下で10歳くらいだろうか

 上の子は保護者的な立ち回りなのだろう、一番下の子と、その少し上の子を側に置いている。

 人数は合計で6人。


 ちなみにバストンも食い入るように冒険譚を聞いている。


「──ってなわけで、この街での戦いは終わったわけだ」


 多少なりと脚色でもしないとオチが悲惨過ぎるから、そこだけはイジった。


 呪いによって狂気に陥ったお偉いさんと戦い、打ち破ったものの正気に戻った彼が怪我を負ったのはオレたちのせいだと喚いたから逃げるオレたち。


 街から出たあとはまたどこかで会えればいいねと願い、解散した……とまあ、そんな脚色。

 ホントに、またどこかで会えりゃ嬉しいね。


「はー。それにしても、レティやディカは元気にしているんだろうかな。

 二人ともオレよりも頭もいいし、うまくやってるとは思うんだが。まあ、面倒見の良いヤルバが一緒なら大丈夫だろうけど」


 ちょっと軽はずみだったかもしれない。


 あまり自分の命の仕組みについて語るべきことではないと思っている。それが誰かを不幸にする気がしていたからだ。

 けれど、つい懐かしくなってレティたちの名前を出してしまった。


 がたん。


 オレの言葉の途中でバストンファミリーの全員が立ち上がっていた。


「な、何か気に触ったか?」

「いま、なんと言ったんだ」


 怒っている様子はなさそうだ。

 だが、穏やかという感じでもない。


「あー、レティやディカ……? ヤルバ……?」

「ディカ!!」「ヤルバ!!」


 周りがその名前を強い発音で言う。

 そして一人の少女が、


「ねえ、冒険者さん! そのディカさんは私に似てましたか?」

「あー……そうだな。確かに髪を短くしたら面影があるかも」

「間違いない。ディカだ」「お姉ちゃんだ!」


 バストンの顔立ちが似ているなあとは少し思ったけど、まさかそういう偶然があるとは。


 ───────────────────────


 マーグラムとカグナットが集落で歓待を受け、そしてディカのことなどで盛り上がっている頃。


 トライカとイミュズの境界にある廃村。

 そこで激戦が繰り広げられていた。


「ディカ! うまく釣り出されてしまったか……!」


 フェリが叫ぶ。


 周囲を囲むのは賊の群れ。ただの賊の群れではない。彼らはエメルソンによって編成された略奪部隊である。

 三領同盟は既に実際的な行動、つまりは宣戦布告こそしないものの周辺の勢力に対してちょっかいをかけ始めており、特に動きが激しいのがイミュズであった。


 駆けつけようとするも賊たちも賊槍だの棍棒だのだけで構成されているわけではない。明確に『武装』と呼べるものを構えていた。その中には弓矢を持つものもある。フェリであれば賊如きにいくら射掛けられたところでものの数でもないが、乱戦になれていないディカであればそれが致命的な一撃に達する可能性もある。

 応援には行きたいものの、まずはそうした危険因子の排除に動くことにするフェリ。


(三領同盟の情報はある程度見えてはいましたが……。よもや同盟相手であるビウモード領の、トライカに接する場所でここまで勢力を蓄えているとは)


 セニアは近くにいる賊の喉を手刀で潰しながら状況を整理する。


(同盟の中でビウモードが軽んじられているとは思えません。商人たちが多少動いたところで軍事力はビウモードに及ぶはずもない。

 ここに賊の群れを置いて彼らなりの仕事をさせたとしてもビウモードは怒らないだろうなどという楽観主義である……とも思えない。

 イミュズが爵位を持つものが支配せずに独立を貫いてこれたのはシビアな状況判断能力あったからこそ。賊の配置が楽観主義から来るものではないとするなら、)


 更に別の賊の背後に回ると首に腕を回し、一瞬で曲がってはいけない方向へとそれを曲げて捨てる。


(ビウモード側もトライカに独立の意志があることを察知している、ということでしょうか。

 であればもっと睨みを効かせるなり、何かするとは思いますが……。

 いえ、判断材料が足りないことを考察するのは褒められた行いではありませんか)


 フェリが射程のある武器を持つ賊を優先的に討伐するのを見て、セニアは今しがた仕留めた賊が持っていた武器を掴むとそれを投擲する。

 ディカを包囲していた賊の一人に命中すると同時にヤルバが走って切り込んでいった。


「ディカ!!」


 石材用の槌を振り回し、敵を散らす。


「大丈夫かい!」

「ご、ごめんなさい。つい踏み込みすぎちゃって」


 ディカもこの数日で新しい服や軽甲冑をフェリたちよりプレゼントされている。


 以前にディカが装備していたものよりはスリムなデザインなのはセニアの趣味もあるが、性別を偽る必要がなくなったディカもそうしたものを好むことを隠さなかった。


「ディカをお兄さんや家族、それにグラムさんたちに再会させるまでは怪我をさせるわけにはいかないんだ。

 無茶はするなとはいわない。だから俺がフォローできる場所で無茶をしてほしい」

「はい、ヤルバさん」


 乱戦には少し遅れてフェリも参戦する。彼女は彼女で弓などの射程を持つ獲物を持っているものを中心に潰して回っていた。殴り合いに集中できたからこそヤルバたちも気兼ねなく戦闘が行えた。フェリが乱戦に参加する頃には賊の群れは壊滅状態となる。


 潰走しかけている賊はセニアが徹底的に倒した。

 捕らえたところで彼らから情報は得られないだろうし、そもそも情報を教えてもらう(ウタわせる)ような行為をヤルバやディカのような青少年たちの前で実行することをやる気はなかった。残虐な行いはフェリの心にも悪影響でもあろうとも考えている。


 だが、命を見逃すことはしない。それが後々自分たちや雇い主に影響を与える可能性もあったからだ。

 この時代だ。賊が殺されたところで何かを思うような心は存在しない。ディカやヤルバにしても冒険者を経験しているからこそ、彼らを生かしておいていいことはないのを理解していた。


「か、勝った~!」


 どかっと腰を下ろすディカ。

 下ろすというよりかは緊張から解き放たれて腰砕けになったというべきか。


「終わった……。ディカ、大丈夫だったかい?」

「うん、大丈夫だよ。お兄ちゃ……あっ、ごめん。間違えちゃった」

「ははは。いいよ、そっちのほうが呼びやすいなら」


 そう言いながら手を差し伸べるヤルバ。

 少し離れたところで二人を見るフェリとセニア。

 フェリの精神状態は二人との旅を始めて上向きになっている。復讐鬼としての性質が消えた訳ではないが。


 ───────────────────────


 このような状況になったのは彼らを宿に送り届けてから、少し話した結果だった。

 取り立てて隠すようなこともない。

 自分たちの身の上に起こったことを全て伝えるディカとヤルバ。


 ヤルバには行かねばならないと思っているところはあれど、そこがどこかはわからない。

 ディカは兄を探してはいるものの手がかりはない。


「このあとはどうするのですか?」


 ディカとヤルバはセニアの問いに視線を合わせる。


 どうしたいか、と問われれば二人が考えるのはデイレフェッチで離れ離れになってしまった仲間のこと、つまりはグラムとレティのことだった。

 ヤルバは未だ答えを得られずにいる焦燥感の答えを知りたくはあったし、ディカも兄を探すという旅の目的はある。だが、今一番求めているのはそれではなく、仲間のことだった。


「仲間を探したいんです」

「簡単に死ぬとは思えない二人ですから、きっと気楽に旅をしているかも。ただ、俺たちだけでは」


 冒険者になったとはいえ、経験の浅い緑色(グリーナー)だ。

 フェリたちもそれを理解している。


「私たちはここからも旅を続けるつもり。その道中で二人が探している人の情報があるかもしれない。

 でも、一緒に行こうかって誘えるほどの旅ではないの」


 二人ともフェリの鬼気迫る戦いを見たからこそ理解できる。鬼気迫るような動きをする人間でなければこなせない何かを背負っているのだと。


「それでも、付いてきたいというなら止めないよ。情報を集めるのにも手助けはできると思うからメリットがないわけでもない」


 けれど、と警告をするようにして、


「血なまぐさい旅路になるのは間違いない。後悔しないなら、手伝って。その代わり、私も二人を手伝うから」


 二人は頷く。

 ディカは仲間との再会を願い、ヤルバはどうしてか放っておけないディカのために。

 自らの願いよりもそれらを優先させて。そのひたむきさはフェリを癒やすことになる。


 それから数日はそれほどハードな仕事をフェリとセニアは選ばなかった。

 お互いに慣れるための時間が必要だとも思い、身の上を話せることは話していた。


「……ボクが住んでいた集落は上質な材木が採れることで有名でした。

 父や兄も腕のいい木こりでしたし、ボクも多少なりともそのお手伝いができたと思います。

 けれど、ある年にひどい不作のせいで故郷ではどうしても口減らしが必要になったんです」


 そこで一度、ディカは言葉を区切る。

 続きを話すのには彼女なりに覚悟が必要だったのだろう。目をつむり、そうしてから続けた。


「多くの家ではおじいちゃんやおばあちゃんがそういう話になるといつのまにか姿を消しました。ボクの家族は兄弟以外には父さんしかいなくて……。

 お兄ちゃんは冒険者になりたかったから、悪いけど旅に出るって言い残して去っていって」

「それを探しに?」

「はい。ボクが旅に出る前には豊作にも恵まれましたし、もう戻ってきてもいいからって……。ううん、お兄ちゃんのお陰でみんな生き延びたよって、それだけ伝えたくて」


「いい子だなあ、ディカは」


 わんわんと涙を流すヤルバ。

 心を凍てつかせて、メリアティとビウモード家のためにと動く前の彼には強い情緒があった。それが強すぎるがために自ら封じていた。

 しかし、今はルカルシによって己に課したそれは失われているがゆえに。


 ともかく、こうした話の流れからヤルバとディカはフェリの手伝いをすることとなり、そして前述にもあった『装備の整った賊たち』との戦いなどを経験することになる。

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― 新着の感想 ―
ヤルバとディカの家族が出て来るとはー。ヤルバが冒険者になったのは、木こりの才能が無いからってだけではなかったのですね……。
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