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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
歩廊:残影群舞

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168/200

168_継暦141年_秋/03

 よっす。

 一方的な知り合いを見つけたオレだぜ。


 誰が襲撃者かもわからない状況ではあるが、襲撃者になりうる人間を見つけちまった場合はどうしたものか。

 いや、実際に襲撃者であるかを確認するのが先か。


 オレは露天商との会話を切り上げて彼女が去っていった方へと進む。

 建物に入っていったのは見えたが、一方的にオレが知っている……しかも今のオレではないわけで、実質他人が人の家に踏み込んだりすればどうなるかは火を見るよりも明らかってもんだ。


 少しばかり考えてから、確実な手がないことにも気がついたので賊の流儀でいくことにした。

 別名、行き当たりばったり。


 彼女が入っていった家の側まで行く。

 それとなく見張りが立っている。二人。がっちりと防備しているというわけではない。

 まあ、一般家屋をそんなふうにしていたらそれだけで不審だしな。


「よお、兄さん」


 気さくな感じで話しかける。

 相手は挨拶もなく胡乱なものを見る目でこちらへ視線を投げかける。

 それから二人共に視線を合わせる。

 お前の知り合いなのかとか、どちらが対応するべきかだとか、そういう意思をやりとりしているのか。


「なんだい」

「セスターさんの使いの、その使いだ。カグナット嬢への言伝でな」


 直接のつながりじゃないことは言い訳というか、会話の目眩ましみたいなもんだ。責任があやふやなことに突っ込むのは大抵……東方の言葉で言うところの『暖簾に腕押し』って感じになる。それをわかっているからオレに聞くよりはカグナット本人なり、もしも中にセスターがいるなりするならそれらに問うだろう。

 それでいい。

 どうあれオレは中に通されることになるはずだ。


「……ちょっと待っててくれ」


 一人が中へ入っていった。

 邸内に通されるのはすぐのことになる。


 ───────────────────────


 元は飲み屋か何かであったのだろう。

 それなりに広いリビングにカグナットはいた。

 彼女以外に装備を整えた冒険者らしい人物が四人。それに名前を借りたセスター。


 この建物は裏路地から表の大通りまでに陣取った細長い作りをしているようだった。

 大通り側の店の構えは板などで閉じられており、店としての機能がないことを示しているのだろう。


 なるほど。確かにここからであれば大通りに現れた『誰かさん』を襲うのにはうってつけってわけだ。


 冒険者からは「いつでもはっ倒してやるぞ」って気配を。

 セスターからは警戒心を感じる。

 カグナットからだけは、何も読み取れない。真摯な表情でこちらを見ているということ以外には。


「私の使いの、その使いとのことでしたが」


 セスターが切り出す。


「あー。ごめんごめん。嘘だ。わかってると思うけどよ」


 って言った瞬間に首が飛び、さよなら今生。よろしく来世! ……ってなる可能性もあったが、ご一同は我慢強かったらしい。ありがたいね。

 実際、この程度で怒る相手だったらそもそもオレがこの後に切り出すことだって聞き入れちゃもらえないだろうしな。


「用件はなんだ、賊」


 冒険者の一人が詰問口調でオレへ。口を挟むなとは言わない。むしろ正しい対応だろう。

 彼らだって時間が有り余ってるわけじゃあなかろうし。


「いや、その前に何者かという質問をするべきでしょうな」


 そしてセスターは更に冷静だった。

 助かるね。

 さーて、どう切り抜けるか。正直手札はない。準備時間もなかったしな。

 一応名前を名乗りつつ、


「これだよ、これ」


 オレは自分が被る兜をこんこんと叩く。


 出たとこ勝負なのは変えられない。であればフレッシュな情報で挑むとしよう。勿論、オレにとってのフレッシュさでしかないが。


「その兜が何か?」

「この兜はかの王賊に従った六騎士のものさ。オレと友人の幾人かはこの兜に誓いを立ててるんだ。炎を操る黒衣の死神に」

「誓い?」

「ああ。誓いあったものが死すとき、そこに無念あらばそれを果たせとな。

 オレは誓っても死神の加護を受けることはなかったが、友は違った。

 知らないか? 炎を操ることができる、オレみたいな風体の悪い男のことを」


 これで忘れられてたらガッカリだが、ちゃんと二人は覚えていてくれたらしい。

 恩着せがましくはしたくはないが、それでも派手に散ったわけだし覚えておいてほしいってことの傲慢度合いは低く見積もってほしい。


「あの方のご友人なのですか?」


 カグナットが会話へと混ざる。


「ええ。オレと同じくらいに腕前はへっぽこだけど、良いやつでね。死に様も含めて、あいつらしい」

「死に様……」

「この兜のお陰でわかるんだよ、見えるのはそのときだけ。まるで呪いのような話だがな。それでも誓いを結んだ連中の最期が知れるなら、それに殉じてやることはできる」


 そんなことが本当にできるのか、という疑念。彼らからはそれを感じる。

 正しすぎる疑念だ。そりゃあ疑う。だって無いもんな。そんなん。見えるも何も死んだのもオレ。ここにいるのもオレ。兜だとか死神だとかまったく関係がない。


 しかし、あの王賊オタクのフォーティが本物かもと思うくらいの品なわけだし、何かしらの付与術があると思われたって不思議でもなかろう。


「どこまで知っているのですか?」

「最期の瞬間と、あとはそいつが考えていた幾つかのことかな。例えば──」


 思い出す仕草をあえて取るようにも見えたかもしれないが、実際に悩んでいるのでポーズってだけじゃあない。

 そうだな。印象深いといえばアレか、スカートの長さについて……じゃなくて、ウェイトレスちゃんを巡ること辺りか。


「お嬢といっしょにいたウェイトレスの子は無事に過ごしているかどうか……とか。

 あとはセスターさんとお嬢を守ってやりたかったけど、眼の前で爆裂して申し訳ないとかな。

 隠れ家にしていたあの宿も使えなくなっちまっただろうし、ってさ」


 流石にそこまで言えば二人は真実として扱うしかないと考えたらしい。

 一方で冒険者は兜を見せてくれと要求してきた。どんな仕組みなのかと気になったらしい。

 特に断る理由もない。付与術なんてついてないので怪しまれるが、ここで断るほうがデメリットが大きそうだしな。


「それが真実だとして」


 セスターは信じるかどうかはまた別として、といったニュアンスで続ける。


「我々に何を求めるのです」

「襲撃の中止を」


 彼女たちがベサニールとビウモード軍への怒りを向けていることは理解しているつもりだ。だとしても予想されていた襲撃者かまではわからない。

 だが、オレの言葉に流石に一同はぴた、と止まる。

 同時に害意にも似た気配。当たりだってわけだ。


「落ち着けって。いいか。この計画はうまくいかない。

 命懸けで、いや、命を捨てて取り組んだって結果は死だ。そんなのに意味はあるのか?

 死んで花実が咲くものかよ。このあとの都市がどうなったかもわからないまま──」


 と、流石に言い過ぎた。

 死んで花実を付ける前に犠牲になった人間だっているんだよな。


「すまん。失言だった。でも撤回する気もない。無為に死にに行く人間を通報する趣味は勿論ないし、見なかったことにする気もないんだ。

 死んだアイツのこともあるしな」


 オレの命なんざ割引された定食より安いとは思うが、相手はそう思っちゃいまい。

 そこに付け込ませてもらうぜ。


「誰かが代官殿を襲撃するかもしれない。だから街にいる代官派閥の下っ端は大急ぎで危なそうな奴の居場所を知らせろ、ってのがオレに回ってきたことでな。

 あっと、オレは代官派閥じゃないぞ。休憩所で休ませてもらった恩義はあってもアンタたちの命と天秤に載せて量るまでもない」

「だが、代官を狙う機会はそう多くはないのも事実なのだ」


 冒険者がそう反論する。

 いや、彼も状況は理解している。無為に命を散らすことになりそうなことも。だから納得したいのだろう。一介の賊に求めるには酷な要求だぜ。


「いやいや、近視眼的過ぎるだろ。多くないのと今回しかないってのは違うんじゃないか?」

「だが」

「それに外の状況は知っているだろ。ルルシエットを奪還しようと動いている軍がいるってのは」

「どちらに転ぶかもわからない。それに、ルルシエット軍の被害は出るのも事実。代官を倒せば少なからず影響は出るし、その隙をルルシエット軍が見逃すこともない」

「オレが伯爵ならここで命を散らすことも厭わないような熱い気持ちを持っている人間は、奪還後にこそ生きていてほしいと思うけどなあ。

 戦後は都市に献身的な人間なんて幾らいたって足りないくらいに忙しいだろうし」

「……わかりました」


 カグナットが頷く。

 周りも止めはしないようだ。


「ですが」

「ルルシエット軍が押されてたりしたら別だっていいたいんだろ。そのときは好きにすりゃいい。もとよりオレの命じゃない。

 けど、それもないと思うがな」


 一つ前の命でオレが見たものを伝える。あのときのオレはぶっ殺されたが、今回のオレは偶然、運良く生きていた。そのあたりのことをいい感じに混ぜて、生還したが戦いの状況はしっかり目に焼き付けたことにして報告する。


「あんな士気の高い軍、ビウモード伯爵本人がいるでもないと止められやしないさ」


 ───────────────────────


 もう少しだけ潜伏を続けることにしてもらえた。

 彼女たちはこっそりと街に溶け込みなおすそうだ。

 カグナットはせめて再びどこかで会えるようにと何かをオレに教えたそうではあったが、それはオレが辞退した。

 なにかの間違いでオレから漏れるようなことがあったら後味が悪い。後味が悪いってのは死ぬよりしんどいからな。


「マーグラム。疑ったみたいですまんな」


 冒険者が兜を返してくれた。


「どうだったよ」

「お前の言う通り、本物だ。そんな貴重品を持っているとは只者じゃあなかろう」


 いや、これはパチモンだろ。

 だってフォーティも。


 ……いや、あいつはうんうん唸ってから運命がどうとか言って受取を断っただけだった。


「よくわかるな」

「《物品鑑定》の技巧さ。とはいっても俺の知識が伴っていなけりゃわからないんだけど、それに関しては鑑定の範囲内の知識があった。とはいえ、全てがわかったわけじゃあない。

 それが当時品で、何かの霊性のようなものを帯びているってくらいだが、それでもお前の言うことが本物だって断定するには十分さ」

「そっか」

「ありがとな。……カグナットの嬢ちゃんには平和な頃には世話になっててな。恩返しのつもりで協力していたが、彼女を死なせるようなことは止めるべきだった」

「止めたくたって身内の言葉じゃ止まらないこともあるさ。よかったよ、部外者のオレが立ち会えて」


 彼は改めてありがとう、とお礼を言ってくれた。

 悪い気持ちはしない。


 にしても、適当ぶっこいたけどこの兜がそんなものだとは。

 ……売ったら少しは遊ぶ金になるか。

 そんな考えがよぎるも、


『無自覚に選んだものにこそ運命が宿る』


 フォーティの言葉を思い出してしまい、売り払うという案はオレの中で立ち消えになった。


 ───────────────────────


 一応は襲撃を未然に防ぐことで守りきった……ってことになるだろう、大通りに出てベサニールを見ておくことにした。


 パレードじみたものが始まる。

 サクラだろうけどベサニールを称える声や、騎士たちへの感謝、それに音楽なんかが通りに響いていた。


 騎馬に跨ったベサニール。その周りには同じく騎兵が数名。そして供回りをしている歩兵がさらに数名。


 とても身ぎれいとは言えない。

 つまり、彼自身も戦ったってことだろう。その汚れ方もわざとらしくは見えないし、もしもそうだとしたならかなりディティールに凝った奴の演出ってことになる。


 ベサニールの騎馬の歩みが不意に停まった。

 すわ襲撃かとも思ったが違った。


「そこの兜。生きていたのだな」


 おーっと?


「後ほど登城せよ、いいな」


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― 新着の感想 ―
もしかしてこの兜は昔の周回で?いやでもザコだしな・・・
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