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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
██:████

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12/200

012_継暦141年_春/08

 よっす。


 善人を助けることで間接的に功徳を得ようとしているオレだぜ。


 カグナットを守る帰路。

 それは戦いの連続、そして激しいドラマが巻き起こった道のりだった。


 ……ってなったら心で決めた覚悟もサマになったんだろうが、

 実に平和なものだった。

 守衛騎士(ガーズ)とすれ違って軽く挨拶するくらいには平和だった。

 平和じゃあなかったらあの守衛騎士に助けてもらえたのかもしれない。


 賊どもがいたエリアは守衛騎士たちの行動範囲の隙間だったらしく、

 すれ違いの挨拶がてらに情報提供するとその辺りも見回れないか上と掛け合ってみると言ってくれた。


 賊の頃は死神か疫病神の類だと思っていたが、冒険者側に立ってみるとなんと頼りがいのありそうなお姿か。


 結構な距離を歩いて、ようやくルルシエットまであと半分ないくらいのところまで来れた。

 このまま歩き通すのは体力的、集中力的にも危険だということで道中で足休めをすることにした。

 カグナットは荷物を下ろすと結構な重さがありそうな音が鳴る。


「ふう……、暑いですね。

 夏はまだ遠いはずなのに」


 あのとき、少年か少女かすぐに判断できなかったのは距離もあるが、服装にもある。

 大きく、そして相当の重量のある荷物が食い込まないように厚着をしているのだ。

 その上で道中はフードまで被っている。そりゃあ暑い。


 フードを下ろした顔立ちは美しい、可憐というものよりは可愛らしいという表現が似合うものだろう。

 茶色の髪の毛は後ろで簡単に纏められている。

 その髪はよく手入れされていて艶が美しい。

 そりゃあフードで顔を隠すだろう。そうじゃなきゃ一人でこんなヤバい場所歩いちゃいかん。

 いや、フードを被っていてもいかんかったからあんなことになったんだし、危険性に関しては彼女も十分に理解できただろう。


「守衛騎士はどこにでもいそうな印象があったけど、

 あんな目立つ街道なのに彼らの目が届かない場所だったなんてね」

「守衛騎士の皆様は人手が足りずに困っているそうですよ」

「そうなんだ」


 どこにでもいるってイメージがあったが、時間や経路を把握していれば無事に追い剥ぎができていたのを考えれば、足りてないのも納得できる。

 足りてるならこんなにそこかしこで治安が終わってないものな。


「騎乗ができて、戦闘技術も豊富で、知識だけでなく礼節にも通じている必要があるとか」

「いるのかよ、そんな人材……いないから人手不足なのか」


 いくらでも溢れてくる賊。

 まったく手の足りていない守衛騎士。

 治安がマシになるのはまだまだ未来になりそうだ。


 ───────────────────────


「お、ガドバルの後輩じゃないか!

 それに、……あっ、お、お疲れ様です!」


 以前ガドバルと立ち話をしていた門番がカグナットを見るなり直立姿勢になる。


「はい、ご苦労さまです」


 特に気にする様子もないカグナット。

 ……まさか偉い人なのか?いや、偉い人なら護衛付けるよな。

 考えても答えはでないし、今更出たところで何かあるわけでもない。


 中に入ればもう安全。

 彼女は依頼者のところへと向かい、オレは冒険者ギルドへと戻る。

 必ずお礼をすると退かなかったカグナットだったが、やはり荷を持ったままなのも不安なのでまずは届けに、

 なので荷運びが完了したり、身の回りの忙しさに片が付いたら冒険者ギルドにお邪魔しますと言って去っていった。


 さて……、ここからが問題だ。

 オレはイセリナとの約束を破ったわけだ。

 やむを得ない事情だったし、証言をしてくれる相手もいる。

 しかし、約束は破った、それが全てだ。


 賊の頃、カシラに無茶なことや意味の通らない怒りを向けられることは多かったし、

 それには慣れている。

 なんとも思わない。


 が、今回は違う。

 しっかり説明して、しっかり叱られよう。


 門戸をくぐる。

 改めて冒険者ギルドの中を見やる。


 依頼を受けるためだけでなく、食事を出すところや、洗濯や何やらの雑事を受け付けるためのカウンターもある。

 外から見た感じでは四階建て、入口近くの案内板を見れば二階と三階は部屋の貸し出しも行っているらしい。

 この施設そのものが冒険者の生活の全てを賄える作りになっているのかもしれない。


 一階には相当数の机と椅子が並ぶ。

 座席だけでも200席くらいはあるだろう。

 肩やら鞘やらがぶつかっただけで喧嘩になるような手合もいるためか、席同士もゆとりがある。

 デカい。とにかくデカい。


 周りを見やりながら、イセリナが待つカウンターまで進む。


 ここにいる全員がオレを値踏みするように見ている気がするが、流石にそれは自意識過剰ってやつだよな。

 が、明確に視線を飛ばしている奴らもいて、その誰もが賊の群れくらい小指で倒せそうな圧がある。

 前世の因果を刺激されるようで、胃がキリキリするぜ。


「おかえりなさい、ヴィーさん」

「あー……ただいま戻りました」

「バツが悪そうですね」

「バツが悪いんで、そう見えるんだと思うよ」


 イセリナは美人だ。

 運んでいる賊が我慢しきれなくなって暴走するのもやむなしと言えるほどに美人だ。

 で、その美人が静かに見つめてくるとどうなるか。


 心にやましいところがあるオレとしては冷や汗が出てくるのだ。

 とてもじゃないがうっとりはできない。


「……ごめん、約束を破って戦った」


 その冷たい眼差しはオレが約束を破ったことを見抜いたものだった。

 特殊な能力によるものではなく、受け付けを担当する人間としての経験から来るものなのだろう。


「報告をしていただけますね」

「うん」


 隠し立てすることはない。

 一から十まで事細かに説明をする。

 必要があればカグナットという人物にも聞いてほしいと伝えると、オレの報告をまとめるために動かしていた彼女の手が止まる。


「カグナット?」

「ああ、背丈が140センチあるかないくらいの、年の頃はオレと同じくらいかな。

 髪の毛がきれいな茶髪で、あー、行商以外もやっているって──」

「……いえ、失礼しました。

 報告の続きをお願いします」


 到着し、彼女の背を見送り、その足でここに至るといったところまで話す。


「証明の提示は」

「これでいい?」


 袋へと入れられた証明品(賊の片耳)を渡す。


「では証明品の真贋が終わり、報告書に判が押されましたら報酬の残りをお渡しします。

 それらの準備には早ければ一時間ほどで、長くなるようでしたら別途お知らせしますね」

「わかった、ギルド内にいればいい?」

「そうしていただけると助かります」


 怒られなかった。

 失望でもされたか。

 だとしたらちょっと悲しい。


 うなだれる姿を人に見せるわけにもいかないので努めてしゃきっと歩こう。

 空いている席に適当に座らせてもらうとしよう。


「おい、(ぼん)!」


 一角から大きな声が上がった。


「お前だ!黒髪の坊!」


 オレのようだ。

 声の主は誰かと探せば、大きく手を振っているごっつい男が目に映る。


 赤褐色の髪に同じ色の髭。

 腕も足も、胴体も太い。声も太かった。


 ドワーフと呼ばれる種族の男だ。

 エルフたちは彼らを『寸詰まり』などと呼ぶが、それは彼ら(エルフ)がすらっとしているだけだろう。

 見たところ彼の背丈も160センチくらいはある。


 呼ばれたからには行かねばなるまい。

 おそらくは業界の先輩だ。


「イセリナ嬢を助けてくれたってこたぁ、ガドバルの野郎から聞いたぞお!

 ままま、座れ座れ!

 腹は減ってないか?いや、満腹でも食え!飲め!ここは俺の奢りだ!」


 そんなこんなでタダメシにありつけることとなった。

 ありがたいが……なんで?


 ───────────────────────


 このドワーフの名は『ローム』。

 見習いのオレに色々と教えてくれた。タダメシ付きで。


 イセリナはその外見の麗しさから、ギルドにおいてのアイドルのような存在であり、

 その上、世話焼きで気が回る。

 多くの冒険者が彼女に救われた経験が一度はあるという。

 概ね、救われた要因は事務周りのことらしいが。


 彼女の馬車が狙われたというのはギルドでも大いに問題となっており、犯人探しに一部の熱狂的な冒険者が躍起になって動いているそうだ。

 イセリナはそれを止めてはいるものの、自主的に動く冒険者に対してできることはない。


 それほどのファンを作る彼女を助け出したオレはどうにも、良くも悪くも注目を集めているのだとか。


「悪いこたあ言わねえから、暫くは大人しくしてるんだな」


 このロームという男。

 ギルドでも腕利きの人物だそうで、酔っ払いながら見せてきた認識票(タグ)は確かにデザインが違う。

 爪痕のようなマークが三つ。タグそのものの色も違う。

 オレのはくすんだ緑で、ロームのは鉄色だ。


 彼は胸を張ってお前より四つほど上の位階にいるから尊重するように、と仰られる。

 勿論本気で言っているわけじゃない、冗談めかしたものだ。


 だが、恐らく本気でそういうことを口に出す連中も居るぞという警告ではあるのだろうな。


「詳しいことはカウンターにある手引書でも読むんだな」


 読み書きはできるが、取り立ててそれらが好きなわけでもない。

 暇があったら読むとは言ったものの、果たして気が向くことがあるかどうか。


 ああ、ギルドで識字に関して聞かれるのはそれがある人間は自分で調べろよってことだったのか。

 オレが登録したのはあのドタバタの直後だったし、説明が抜けているのもやむなし。

 真っ当に説明をしようと思っていたのかもしれないが、オレがソロで依頼を受けたのも相まって色々と端折っちまうことになったんだろう。

 イセリナには後でもう一度謝ろう。


「ヴィーさん、おられますか」


 噂をすればカウンターからイセリナの声。

 オレはロームに食事の礼を言いつつ離れた。


 ───────────────────────


「確認が取れました、今回はその……お手柄です」

「ごめん、イセリナ。

 あんなに言われたのに戦うことを選んで、反省してる」

「……いいえ、あなたの実力を過小評価していた私の問題です。

 助けていただいたというのに、甘く見積もっていました」


 といった具合にお互いに謝ることになる。

 ひとまずそれで二人ともに気持ちの置きどころは得たので、依頼に関してのことに移る。


 渡された紙には報酬の詳細が書かれている。

 元の成功報酬に加えて、賊の討伐(指名手配者の報酬含む、あんまり高くはない)、

 気になるのは特別報酬という欄だった。

 成功報酬の三倍が記載されている。


「特別報酬って」

「そちらはギルドからとなります、今回助けていただいたものが役員でしたので」

「役員?誰が?」

「カグナットさんです」


 あのおチビが役員?

 年齢からしたって今のオレの肉体と大して違いもなかろうのに。


「カグナットさんのお父上は当ギルドの先代のマスターでした」

「でしたってことは辞めたのか?」

「いえ、ご不幸があったのです。

 元はカグナットさんがマスターを引き継ぐという話だったのですが、

 ギルドのことを知らない自分がしゃしゃり出ていいことじゃないと言って当時のサブマスターを推薦しまして」


 あの善人が言いそうなことだ。

 すんなりと納得できる。


 しかし、冒険者ギルドとしても「はい、そうですか」と頷くこともできなかったから役員の椅子を用意したと。

 門番がシャキっとしたのは彼女の血統によるところだったわけか。


 そんな彼女は可能な限りギルドの厄介にはならないように立ち回っていた、と。

 あんなことがあったわけだし、今後は冒険者ギルドで護衛を雇ってくれるなり、冒険者ギルド側も気を配るなりしてくれるだろう。


「というわけで、こちらを」


 どさりと渡される貨幣。

 イセリナからは指定の通貨でお支払いすることもできますがと言われたものの、

 正直、この体が終わってしまえばそれまでだ。

 この街で使える貨幣であればなんでもよかった。


「あー、通貨に拘りはないよ。

 ルルシエットで使えればなんでもいい」

「それであれば、こういうものもありますよ」


 そういって取り出したのは以前ガドバルからプレゼントされた経験金属にも似たものだった。

 似ていると言うか、殆ど同じと言うか。


「資産金属と言いまして、こちらに特殊なインクを込めることで充填することができます。

 ルルシエットでのお支払いは全てこちらの資産金属で行えますよ」


 実に便利そうなのでそれでお願いすることにした。

 あと、大金を抱えているとそれに執着しそうで怖い。

 身軽なのが一番だ。

 ……とか言っておけば引き継げたりしねえかな。しねえよな。


 金属代の代わりとしてか、保証金(デポジット)を支払う必要があるそうなので同意をする。

 そうして手に入った資産金属に報酬はそちらに振り込んでもらうことになった。


「これって悪さされないの?

 解析されたり、インク注がれて勝手に増やされたり」

「ルルシエットと幾つかのギルドが相互に監視できる仕組みになっていますので、

 もしもインクをなんとかごまかせたとしても簡単にバレてしまうんですよ」


 そうなれば幾つかのギルドのどこかしらから怖いお兄さんが飛んでくるのだろう。

 そもそもセキュリティ自体もかなり強固なようだし、悪さを考えないなら安心して使えそうではあった。


 色々とあったが初仕事は成功し、初めてのお給金を頂戴した。

 先日までオレは自分が賊だったわけだが、だからこそ実感する。

 奪って手に入れるよりも、汗水垂らして手に入れた報酬のなんと気分のいいことか。


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